SOMPO美術館の
『北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』 展に行ってきました。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
『北欧の神秘』 感想
北欧の大自然
北欧の神秘展では"北欧ならではの自然"の風景画をたくさん鑑賞できます。
1900年前後の「北欧美術の黄金時代」を彩る作品たちです。
ナショナリズムが高まっていた当時、北欧の画家たちは母国の自然や歴史に高い関心を寄せました。
その背景には
「長年スウェーデンの一部だったフィンランド」
「スウェーデンの王を最高位とした連合国を築いていたノルウェー」
と、3国の政治的な結びつきが関係していたそうです。
国をアピールする意味合いもあった北欧ならではの自然の風景画は、ロマン主義的なドラマチックな表現で描かれました。
アウグスト・マルムストゥルム《踊る妖精たち》1866 油彩・カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵
国独自の「文化」に注目し、妖精や怪物など民間信仰に由来するテーマも流行しました。
アウグスト・マルムストゥルムの《踊る妖精たち》もその一つです。
北欧の森の奥では本当に妖精が存在しているんじゃないか、と思ってしまうような作品です。
森の霞と妖精が一体化していてとても神秘的な雰囲気をかもしだしていました。
アイリフ・ペッテシェン《夜景画》1887 油彩・カンヴァス ノルウェー国立美術館蔵
政治的な背景に関わらずとも、北欧の大自然のテーマは画家たちにとってはインスピレーションの源でした。
さらに社会で工業化が進んだ反動から「自然回帰」を理想とする象徴主義が起こり、自然への憧れが高まりました。
アイリフ・ペッテシェンの《夜景画》にでてくるこの女性、人間なのでしょうか?
自然の中にありのままの姿で立っていて確かに自然回帰しているけれど… 後ろ姿がとっても美しいです。
ピンク・水色・黄色と淡い色合いの配色で森の中のやわらかな空気感が表現されていて、この女性がヴィーナスだといわれても納得してしまいます。
とても神聖なものを感じました。
エドヴァルド・ムンク《フィヨルドの冬》1915 油彩・カンヴァス ノルウェー国立美術館蔵
自然回帰思想では、手つかずの自然(とくに北欧ならではの冬景色)も好まれました。
ノルウェーの超有名画家ムンクもそんな冬景色を描いています。
《フィヨルドの冬》は単純なタッチで描かれた、まさにムンクっぽい画風だなと思います。
青とか紫が効いているのか、こんなに単純なのに"寒さ"が伝わってくるから凄い。
雪や山肌もいろいろな色を使って表現されています。
エドヴァルド・ムンク《フィヨルドの冬》(部分)
不思議の国の物語
北欧の神秘展の見どころといえば、おとぎ話の世界を描いた作品たち!
北欧の民間伝承・神話・叙事詩の世界観は本当に魅力的です。
厳しくも豊かな北欧の自然の中でなら、妖精とか怪物とかが本当に存在するような気がしてきます。
物語が始まる予感しかしません。
トルステン・ヴァサスティエルナ《ベニテングタケの陰に隠れる姫と蝶(《おとぎ話の姫》のためのスケッチ)》1895-
1896 油彩・パネルに貼ったカンヴァス フィンランド国立アテネウム美術館蔵
トルステン・ヴァサスティエルナの《ベニテングタケの陰に隠れる姫と蝶(《おとぎ話の姫》のためのスケッチ)》はまさにファンタジーの世界。
キノコや蝶と小さな女の子(?)はまるで『不思議の国のアリス』です。
ガーラル・ムンテ《山の中の神隠し》1928 油彩・カンヴァス ノルウェー国立美術館蔵
こちらは中世から伝わる『リティ・シャシュティ(少女シャシュティ)』というノルウェーの物語の一場面です。
- 少女が山に住む妖怪の王に誘惑されて子供を授かる
- 妖怪王は山で一緒に暮らすために少女と子供を攫い、少女に人間界の記憶を忘れさせる魔法の飲み物を飲ませる
というストーリになっています。
ガーラル・ムンテの《山の中の神隠し》は魔法の飲み物を飲ませる場面ですね。
装飾も細部まで描かれていて見ているだけでも良いのですが、物語のある絵画ってまたさらに楽しく感じます。
トロルの物語
テオドール・キッテルセン《トロルのシラミ取りをする姫》1900 油彩・カンヴァス ノルウェー国立美術館蔵
"森や山や海でなにかあればトロルの仕業"
テオドール・キッテルセンは民間伝承をテーマに描いたノルウェーの国民的画家です。
キッテルセンが描く「トロル」という生き物が出てくる作品たちがとくに印象的でした。
《トロルのシラミ取りをする姫》なんて、ジブリの『ハウルの動く城』のワンシーンみたいじゃないですか。
テオドール・キッテルセン《森のトロル》1906 ノルウェー国立美術館蔵 CCBY
キッテルセンのトロルの作品は紙に描かれたデリケートなものが多くて日本での現物展示は難しかったそうですが、代わりに映像で紹介してくれるコーナーがあります。
《森のトロル》をはじめとする不思議な生き物たちの作品がアニメーションで動きだすので、見ていて飽きませんでした。
ドラマチックな街並み
自然回帰思想がもちあがりつつも、やはり19世紀の産業革命や科学技術の発達は画家たちが選ぶモチーフにも大きな影響を与えています。
鉄道で移動が簡単になったことやチューブ絵の具が生まれて持ち出しできるようになったことなどの物理的な発展もまた、画家たちに現実世界にも目を向けさせる要素となりました。
1890年代に現れたのが、ナショナル・ロマンティシズムらしい景観作品です。
薄明の静謐な都市の景観に画家自身の主観や経験をのせる表現で、よりドラマチックで想像力を掻き立てる作品がたくさん生まれています。
エウシェン・ヤンソン《ティンメルマンスガータン通りの風景》1899 油彩/カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵
なかでも惹かれたのは、エウシェン・ヤンソンの《ティンメルマンスガータン通りの風景》です。
エウシェン・ヤンソンは「青の画家」と呼ばれ、生涯にわたって故郷ストックホルムの風景を描きました。
空の青色に目がいきますね。
青と黄色のコントラストや空のぐるぐるした表現はゴッホを思い浮かべますが、ゴッホのような厚塗りの鮮やかな作風とは全く異なる印象です。
静かで落ち着いた雰囲気を感じさせる、独特な青の表現だと思いました。
エウシェン王子《工場、ヴァルデマッシュウッデからサルトシュークヴァーン製粉工場の眺め》不詳 油彩/カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵
エウシェン王子の《工場、ヴァルデマッシュウッデからサルトシュークヴァーン製粉工場の眺め》もすっごく素敵な作品でした。
エウシェン王子はスウェーデンの王宮に生まれた正真正銘の王子様です。
21歳で画家になる決心をし、自分の主観を投影した叙情的な作風で同時代の画家を思想面でも経済面でも支えていたそうです。
「人工的な工場と夜景」はスウェーデン美術で繰り返し描かれたテーマです。
煙の濁った表現と水面のキラキラした光のコントラストが綺麗で、本当にロマンチックな作品でした。
現実世界
北欧での近代化・工業化の波はヨーロッパ大国よりもすこし遅れた1880年代から1890年代にかけてやってきました。
社会が発展していく一方で近代化による「負」の部分があったこともまた事実です。
そうした現実をありのままに描くべきだというフランスのレアリスムの考え方に影響を受ける画家もいました。
カール・ヴィルヘルムソン《村の店》1896 油彩/カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵 CCBY
印象的だったのはカール・ヴィルヘルムソンの作品たちです。
カール・ヴィルヘルムソンはスウェーデンの西海岸の漁村に生まれ、働く漁師たちやその妻と子供などの風俗画を描きました。
《村の店》では工業化とはおそらくあまり関わりなく働いているであろう女性たちが描かれています。
薄暗がりで読み取りにくい表情。
これが彼女らの日常でありリアルであることが伝わってくるようです。
アクセリ・ガッレン=カッレラ 《画家の母》1896 テンペラ/カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵
"現実"という観点からみると、アクセリ・ガッレン=カッレラの 《画家の母》はとても独特でした。
アクセリ・ガッレン=カッレラはフィンランドの民族叙情詩『カレワラ』の挿絵で知られる画家で、この作品は彼の母親を描いたものです。
神秘主義や神智学に造詣が深かった母親からインスピレーションを得ていて、面妖で神秘的な雰囲気が表現されています。
赤くおどろおどろしい背景と存在感抜群の母の姿が印象に残りすぎました。
お気に入りの2作品
ニコライ・アストルプ《ジギタリス》1909 油彩/カンヴァス ノルウェー国立美術館蔵 CCBY
お気に入り1つめは ニコライ・アストルプの《ジギタリス》です。
たぶん観に行った方のほとんどがお気に入りになるのではないかと思うくらい、本当に美しい作品でした。
自然豊かな深い森、無造作に咲く植物、動物など、人間が立ち入れないような神聖な場所のように思います。
たくさんの色彩がちりばめられていて、とくに手前にあるピンク色の花が作品全体を明るく鮮やかな印象にしています。
ものすっごく綺麗です。
アウグスト・ストリンドバリ《街》1903 油彩/カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵
お気に入り2つめはアウグスト・ストリンドバリの《街》です。
こちらもすごかった。好きです。
アウグスト・ストリンドバリは小説家であり劇作家なのですが、弱った精神をやわらげるために突発的に絵を描いていたそうです。
筆跡が分かりすぎるほどにざざっと塗ってある空の表現。
黒・白・灰・藍などを使った暗い画面の先に、町の明かりがかすかに見えます。
黒い海景色が画面のほとんどを占めるのに、タイトルが《街》というのもカッコいいです。
『北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』 展。
良い画家をたくさん教えてもらって有意義で素敵な時間を過ごしました。
ファンタジックな物語やドラマがある絵画ってやっぱり見ているだけでもおもしろい!
とってもとっても楽しかったです。
*感想は会場内の解説文および図録を参考にしています
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『 北欧の神秘』の情報
グッズ
北欧の神秘展のグッズはSOMPO美術館の常設ショップ内で販売されています。
4棚分くらいだったか・・・小規模ですが種類はそれなりといったところ。
グッズ売り場は展示会場の中にありますので、鑑賞時にお財布を持ってお入りください。
図録
気に入った作品が多かったので図録を購入しました。
ソフトカバーで閲覧しやすいですし、読破しやすい文量です。
タイトルは金文字になっていて、表紙・裏表紙で絵柄が異なります。
図録は「単品」と「トートバッグ付き」の2種類がありました。
私は単品を購入。
図録の単品は 2,500円(税込)でした。
ポストカード
ポストカードはグッズ売り場の規模を考えると種類が多かったと思います。
気に入った作品もポストカード化されていてニヤニヤしちゃいました。
ポストカードは 1枚 165円(税込)です。
このほかに額に入れるような大判サイズもいくつかありました。
手鏡(ミラー)
ニコライ・アストルプの《ジギタリス》がモチーフの鏡です。
お気に入り作品なのにポストカードになっていなくて残念に思っていたら、鏡があったので購入しました。
鏡は 880円(税込)でした。
うーん。
とても可愛いんですが、鏡に880円って結構高いと思うので、裏面も何かしらプリントしていてほしかった!
せめて展覧会のロゴくらいプリントしていてほしかった。
というのが個人的な残念ポイントでした。
マスキングテープ
マスキングテープも購入しました。
最近マンスリーのスケジュール帳に、その月に観に行った展覧会のマステを貼るのにはまっています。
記憶の限りこの絵柄の作品があるわけではなくて、あくまでも北欧デザインのマステということなのだと思います。
でもなかなか見かけない独特な模様が可愛いです。
マスキングテープはデザインによって値段が異なります。
こちらは 660円(税込)でした。
混雑状況・所要時間
平日の13時くらいで天気も悪かったのでゆったり鑑賞できました。
撮影可能エリアは人が溜まりがちではありますがが、それ以外は場所によっては一人になるタイミングもあるくらいです。
所要時間は 1時間半程度でした。
チケット
北欧の神秘展のチケットは、当日券と事前購入券の2種類があります。
事前購入券のほうが100円安いので、私は事前購入券のほうにしました。
SOMPO美術館は窓口で当日券を買ったとしても絵柄付きの紙チケットをくれるわけではなかったはずですので、事前購入券の方をお勧めします。
事前購入でも日時指定はできないのでご注意ください。
チケット(一般)は
当日券が1,600円、事前購入券が1,500円です。
音声ガイド
北欧の神秘展に音声ガイドはありません。
ロッカー
SOMPO美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は「無料」で 100円玉「不要」です。
撮影スポット
北欧の神秘展では
会場内の4階展示室(映像作品を除く)がすべて撮影可能です。
また、会場内のエレベーター前の2か所とゴッホの《ひまわり》、美術館外の壁が撮影スポットになっています。
会場内では撮影スポット以外にも
エレベータのボタン横や、方向指示の看板なども可愛いデザインになっているので注目です。
巡回
北欧の神秘展は
「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回します。
開催概要まとめ
展覧会名 | 北欧の神秘 ―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画 |
● 東京 |
2024年3月23日(土)~ 6月9日(日) |
● 長野 |
2024年7月13日(土)〜9月23日(月) |
● 滋賀 |
2024年10月5日(土)〜12月8日(日) |
● 静岡 |
2025年2月1日(土)〜3月26日(水) |
休室日 | 月曜日 ※ただし4月29日、5月6日は開館 |
開室時間 | 10:00 ~ 18:00(金曜日は20:00まで) ※入場は閉館の30分前まで |
混雑状況 | 平日13時くらい・混雑なし |
所要時間 | 1時間半程度 |
チケット | 一般 1,600円・日時指定なし |
ロッカー | あり(無料・100円玉不要) |
音声ガイド | なし |
撮影 | 会場内撮影可能エリアあり |
グッズ | 展示会場内にあり・小規模 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
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関連情報
●「写本 ーいとも優雅なる中世の小宇宙」
2024年9月29日(日)まで 東京→北海道 と巡回します。
国立西洋美術館の小企画展で過去3回にわたって展示された中世の可憐な内藤コレクションの「写本」。
本展はその集大成ともいえる展示です。
● 「TORIO展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回中。
パリ・東京・大阪の3つの美術館からテーマを決めて作品を3つトリオで展示しています。
自由な解釈で3つを見比べて楽しむ新しい展示構成がとてもおもしろく、知的好奇心が刺激される展覧会でした。
● 「デ・キリコ展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回します。
デ・キリコの全体像が分かる展覧会なうえ、独特・奇妙とおもしろい作風で飽きがこないので初見にも優しい展覧会です。
TRIO展にも1点、デ・キリコの作品が展示されているので、気に入ったらぜひこの大回顧展も。
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京(上野) → 福岡 → 東京(八王子) → 大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「エドワード・ゴーリーを巡る旅」
2023年に渋谷区立松濤美術館で開催したエドワード・ゴーリー展。
2024年9月1日(日)まで 千葉→神奈川 と巡回します。
絵本のなかの不思議でちょっと怖い世界感をモノクロの細かな線画で表現したイラストは見ごたえありです。
●「カナレットとヴェネツィアの輝き 」
2025年6月22日(日)まで「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
たくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
カナレットをはじめ画家それぞれが自らのヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、とても穏やかな気持ちなれる展覧会でした。
これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録のTwitterもやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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