東京都美術館の
「ミロ展 Joan Miró」に行ってきました。
あの〈星座〉シリーズがに観られたのはすごく嬉しかったです。
ミロが亡くなってまだ40年余り。
生きた時代が近い芸術家さんだからこそ、すこしだけ身近に感じられる気がします。
そのぶん、戦争の話は他人事とは思いにくいし、日本に来たことがあると聞くと嬉しくなったり、感情が揺れ動かされますね。
この記事では美術展の備忘録として作品写真と共に展覧会の内容と感想を書いています。 ネタバレを避けてグッズ情報等だけ知りたい方は「ミロ展 Joan Miró 情報」までジャンプしてください。 |
「ミロ展 Joan Miró」 感想
ミロの生涯
この《自画像》はミロからピカソに贈られた作品の一つで、ピカソが最後まで手放すことなく手元に置いていたものです。
スペイン出身のミロは、パリに渡り、ピカソら前衛芸術家たちとの交流を経て、シュルレアリスムの画家として有名になりました。
その後、戦禍を逃れてヨーロッパを転々としたのち、アメリカで巨匠としての地位を確立した画家です。
ジュアン・ミロ《自画像》1919 油彩/カンヴァス 73×60cm パリ・国立ピカソ美術館
ジュアン・ミロ(Joan Miró)
- 1893年
スペイン、バルセロナで生まれる
生まれ故郷カタルーニャの地で独自の表現を模索 - 1920年代
パリへ渡り、前衛芸術に触れて衝撃を受ける
シュルレアリスムの芸術家たちと交流、ピカソとも出会う
「夢の絵画」を契機にシュルレアリスムの画家として名声を得る - 1930年代から1946年
スペイン内戦、第二次世界大戦の戦禍を逃れて欧州を転々とするなかで〈星座〉シリーズなどの傑作を生みだす - 1940年代から1960年代
アメリカで評価され、巨匠としての地位を確立する - 1970年代から1983年
晩年になっても大画面の作品を描くなど、90歳で亡くなるまで新たな表現に挑戦し続ける
20世紀で最も影響力のある芸術家の一人となった
絵の道を選んだ、若きミロ
この《バイベルの森》はミロの最初期の作品です。
まるでデジタル写真のコントラストをいじって作ったような配色をしていて、見た瞬間からとても気に入ってしまいました。
「ミロはこんな初期から個性的な表現をしていたのだな」と思ってしまいますが、実際のところ、ミロは初めから絵の道に一直線に進んだわけではありませんでした。
ジュアン・ミロ《バイベルの森》1910 パステル/紙 45×35cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
ミロは幼少期から画家になることに憧れて美術学校に通ったものの、「堅実な職についてほしい」というお父さんの意向があり、はじめは薬局の会計係として働いていました。
しかし、本当にやりたい仕事ではなかったためか、鬱病になってしまいます。
カタルーニャ地方モンロッチにある両親の別荘で療養するなかで、画家になりたいということを伝え、絵の道へ進むことを決意したのだそうです。
若き日のミロは、初めは印象派、フォービスムなど、さまざまな技法を試みて独自の表現を模索していました。
パリでの衝撃と「夢の絵画」
この《絵画(喫煙する人の頭部)》は、ミロのパリ時代の作品です。
1920年代、パリに渡ったミロは、最新の前衛芸術を目の当たりにして衝撃を受けました。
夢や無意識のイメージを大切にするシュルレアリスムの芸術家たちとも交流し、感性を磨いていくミロ。
一回り年上のパブロ・ピカソともこのパリで出会っていて、二人の友好関係は生涯にわたって続きました。
ジュアン・ミロ《絵画(喫煙する人の頭部)》1925 油彩/カンヴァス 100×81cm 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード
パリでインスピレーションを得たミロは、既存の芸術概念を脱却したいという思いが募るようになったそうです。
こうして1925~27年に手掛けられたのが「夢の絵画」と呼ばれる100点以上の作品群でした。
「夢の絵画」ではモチーフが記号的・簡略化された表現で描かれました。
ミロはこの「夢の絵画」でシュルレアリスムの画家としての名声を高めていったのです。
やがてモチーフの隣に言葉が添えられるようになり、「夢の絵画」は《絵画=詩》シリーズへと展開していきます。
戦禍を逃れて、〈星座〉を描く
1936年、ミロの故郷スペインでスペイン内戦が勃発。
続いて1939年からは第二次世界大戦が勃発しました。
そんな戦争の時代にミロが描いたのが全23点の〈星座〉シリーズ です。
今回のミロ展ではそのうちの3点が展示されています。
これらが観られたのは凄く凄く嬉しかったです。
会場では暗い室内に3作品だけが置かれ、作品部分だけにスポットライトが当てられていて、まるで夜空に星座が浮かび上がるように演出されていました。
向かいの壁には、ミロのこんな言葉が。
〈星座〉を描いている間、本当に密かに描いているという感覚がありましたが、それは私にとって解放でもありました。
周囲の悲劇について考えるのをやめることができたのです。
ジュアン・ミロ《明けの明星》1940 グワッシュ、油彩、パステル/紙 38×46cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ
ジュアン・ミロ《女と鳥》1940 グワッシュ、油彩/紙 38×46cm ナーマド・コレクション
ジュアン・ミロ《カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち》1940 水彩、グワッシュ/厚い水彩用網目紙 37.9×45.7cm フィラデルフィア美術館
ミロが戦禍のなかで戦争をテーマに描かず夜空を仰いだ背景には、物理的にも精神的にも戦争という悲惨な現実から解放されたいとの思いがあったようです。
しかし、音声ガイドにて学芸員さんが「ミロは上昇の可能性を描いている」、「凄惨な現実を描くのではなくその先の希望を提示している」のだというお話をされていて、すごく素敵な考え方だなと思いました。
本能的に悲劇から逃避したいという気持ちがある一方で、故郷が戦禍を被るのを目の当たりにして、いつかこの地獄が終わる時が来る、人間を信じよう、未来を信じよう、というメッセージを、ひとりの表現者として人々に届けていたのかもしれませんね。
挑戦し続けるミロ
ミロ展 会場内パネルを撮影
戦後もミロの挑戦は止まりません。
1956年、ミロはスペインのマジョルカ島にアトリエを構え、大画面の作品を手掛けるようになります。
また、1960年代には、新世代のアメリカ人アーティストらの影響を受けた作品も生み出しました。
ミロが常に変化し続けていることは、ミロ展でみられる2つ目の《自画像》で如実に現れています。
ジュアン・ミロ《自画像》1937–60 油彩、鉛筆/カンヴァス 146×97cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
最初に観た《自画像》とは全然違いますよね。
新しい方の《自画像》では、詳細に描かれた人物画の上から重ねるように、黒い太い線で簡略化された人物が描かれています。
制作年が1937-1960年と幅があることからも、上下の人物画の描いた時期が違うことが伺えて、興味深いです。
この他にも、カンヴァスを焼いて、破いて、穴をあけたところに絵を描いた挑戦的な作品もあります(《焼かれたカンヴァス 2》)。
ジュアン・ミロ《焼かれたカンヴァス 2》 1973 アクリル/切られて焼かれたカンヴァス 130×195cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
また、ミロは日本にも来たことがあるんですよ。
ミロの初来日は1966年ですが、そのはるか前から日本の詩や文学に興味を抱いていたそうです。
ジュアン・ミロ《ダイヤモンドで飾られた草原に眠るヒナゲシの雌しべへと舞い戻った、金色の青に包まれたヒバリの翼》1967 アクリル/カンヴァス
195×130cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
例えば、この《ダイヤモンドで飾られた草原に眠るヒナゲシの雌しべへと舞い戻った、金色の青に包まれたヒバリの翼》。
タイトルとしては長いですが西洋の詩としては短く、どちらかというと俳句に近いものになっているそうです。
また、ミロの《太陽の前の人物》に出てくる「〇△□」は、日本の画僧・仙厓が宇宙を表現した作品と関連があります。
ジュアン・ミロ《太陽の前の人物》1968 アクリル/カンヴァス 174×260cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ
仙厓(1750 – 1837)《〇△□(まるさんかくしかく)》江戸時代 紙本墨画・墨書 28.4×48.1cm 出光美術館
《涙の微笑》も好きでした。
ミロが1967年から構想を練り始めて6年かけて完成させた作品です。
「涙」の「微笑」という対象的なタイトルがまた、考えても理解しきれない幻想的な光景をもたらしている気がします。
ジュアン・ミロ《涙の微笑》1973 アクリル/カンヴァス 200×200cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
1983年、ミロは、アトリエがあるスペインのマジョルカ島で 90年の生涯を終えました。
ミロ没後40年余り、今後も彼の作品たちは多くの人の目に触れ、作品に宿ったその想いとエネルギーは後世に渡って継承されていくのでしょうね。
今回、こうやってミロの作品をまとまった形で見ることができて、とても嬉しかったです。
お気に入りの作品
ジュアン・ミロ《絵画=詩(栗毛の彼女を愛する幸せ)》1925 油彩/カンヴァス 73×92cm ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(寄託)
《絵画=詩(栗毛の彼女を愛する幸せ)》を選びました。
簡略化されたモチーフと線に文字が添えられた、ミロのパリ時代の〈絵=詩〉シリーズの作品です。
こんなに記号的な描かれ方なのに、中央にある人物がとても可愛らしく、栗毛の彼女への愛おしさが文字とともに表現されています。
とっても素敵な絵だなと感じました。
「ミロ展 Joan Miró」 情報
グッズ
ミロ展のグッズは株式会社EASTさんが制作されたものでした。
さすが、どれもかわいいです。
展覧会特設ショップは展示会場の中にありますので財布を持って会場にお入りください。
ポストカード
ポストカードは今回もたくさん買ってきました。
撮影OKの作品よりも、撮影不可の作品のほうが気に入ったものが多かったので、そういう時はポストカードを買っちゃいますね。
気に入った作品は忘れないようにしたいです。
ポストカードは 165円(税込)でした。
FCバルセロナ ステッカー&マグネット
これはサッカーの名門チーム「FCバルセロナ」のポスターで、ミロが手がけたデザインです。。
サッカーが好きな家族にお土産として買いました。
スペインのバルセロナはミロの生まれ故郷。
カタルーニャ語という独自言語を持つ、地域独自の文化が根付いている土地として有名です。
バルセロナ出身者であるミロが関わることに意味があるのでしょうね。
格好良いデザインのなかにしっかりミロらしさがあって素敵なポスターです。
ステッカーはシールになっているので剥がしてどこかに貼ってもいいし、台紙のまま手帳に挟んでおいても良いですね。
また、マグネットは表面がレジンのようにぷっくりしています。
ステッカーは 200円(税込)、
マグネットは 660円(税込)でした。
ピンズ(女と鳥)
次はピンズです。
ミロの〈星座シリーズ〉のひとつ《女と鳥》の作品から青い星がトリミングされています。
ピンズにも種類があってどれも可愛くて悩みました。
絶対に一般のお店では出会えない可愛さが、美術展グッズの醍醐味です。
ピンズは 880円(税込)でした。
ミロカラー キャンディー
最後はミロカラーのキャンディーを買いました。
ミロの絵画に登場する原色のキャンディーが最高に可愛い。
赤・青・黄色・緑・黄色×ブラックの5種類が3粒ずつ入っていてどれも味が違います。
甘酸っぱいフルーツ系の味で美味しいです。
すごい細かいことなんですけど、「Joan Miró」の青色の文字に合わせてホッチキスもちゃんと青色に統一しているところにキュンときました。
こういう誰も気づかないような所にまでこだわってくれているの大好きです。
ミロカラー キャンディーは 648円(税込)でした。
音声ガイド
音声ガイドは、【会場レンタル】/【アプリ配信】があり、私は会場レンタル版を購入しました。
ナビゲーターは岩田剛典さん(EXILE/三代目 J SOUL BROTHERS)
ナレーションは声優の坂本真綾さん です。
- 【会場レンタル】
展覧会会場入口にて、専用ガイド機をレンタル
収録時間:約35分
貸出料金:お一人様1台650円(税込) - 【アプリ配信】
「聴く美術」(iOS/Android)にてダウンロード
販売価格:700円(税込)
配信期間:2025年3月1日〜7月6日
配信期間中に限り回数制限なし、会場外で視聴可能
混雑状況
平日のお昼過ぎに行ったのですが、そこまで混雑していませんでした。
所要時間
所要時間は1時間半~2時間程度でした。
解説を読み、音声ガイドを聴きながら鑑賞しました。
チケット
チケットは 一般 2,300円(税込) です。
土曜・日曜・祝日は日時指定予約が可能ですが、会場でも当日券を購入できます。
ただし、来場時に販売予定枚数が完売している場合があります。
ロッカー
東京都美術館では無料のロッカーを利用できます。
100円玉が必要です。
撮影スポット
展示会場内の最終セクションの途中から撮影可。
また、展示が終わって出口に向かうエスカレーターの途中にミロ展のパネルがあります。
巡回
ミロ展に巡回はありません。
展覧会情報まとめ
お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください。
以下はすべて東京展の情報です。
展覧会名 |
ミロ展 Joan Miró |
● 東京会場 |
2025年3月1日(土)〜7月6日(日) |
開室時間 |
9:30~17:30 |
休館日 |
月曜日、5月7日(水) |
混雑状況 | 平日昼・それほど混雑していない |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 一般当日 2,300円(税込) *土曜・日曜・祝日は日時指定予約が可能 |
ロッカー | 無料/100円玉必要 |
音声ガイド | 会場レンタル版:650円(税込) アプリ配信版:700円(税込) |
撮影 | 会場内の最後のセクションの途中から撮影可 フォトスポット(パネル)あり |
グッズ | 展示会場内にあり 種類豊富 |
巡回 |
なし |
✦
✦
✦
関連情報
■「ヒルマ・アフ・クリント展」
2025年6月15日(日)まで東京国立近代美術館で開催中。
スウェーデンの女性画家でスピリチュアルに深い関心を寄せたアフ・クリント。
霊的存在からの啓示を受けて制作された"目に見えない存在"を表す作品たちに圧倒されました。
不思議で神聖な雰囲気の作品ばかりで楽しいのでとってもおすすめです。

■「カナレットとヴェネツィアの輝き 」
2025年6月22日(日)まで「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
たくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
カナレットをはじめ画家それぞれが自らのヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、とても穏やかな気持ちなれる展覧会でした。

■「モネ 睡蓮のとき」
2025年9月15日まで「東京 → 京都 → 愛知」と全国を巡回中。
モネの睡蓮ばかりを集めた、睡蓮づくしの展覧会です。
また、晩年のジヴェルニーの自宅で描いたバラの庭の作品も素晴らしかったです。

■「異端の奇才 ビアズリー展」
2026年1月18日まで「東京 → 福岡 → 高知」と全国を巡回中。
25年の生涯を駆け抜けた新進気鋭の画家 ビアズリーの作品がたくさん集められています。
あの独特な毒のある絵柄がたまりません。

▼これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。

✦
✦
✦
最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
コメント