東京国立近代美術館の
『 TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション 』 (TRIO展)に行ってきました。
TRIO展は パリ・東京・大阪と 3つの美術館のコレクションから、共通点のある作品でトリオを組んで展示するという、これまでにない楽しい構成になっています。
ふつうなら同じグループに入るとは思えない、
時代も場所も技法も異なる作品が横並びに展示されるのがとてもおもしろかったです。
ジャンルミックスな展覧会って新たな出会いが多くて大好きです。
「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」 感想
トリオで見比べる楽しさ
このTRIO展、その名のとおり すべてのセクションで作品がトリオを組んで展示されているんですね。
例えばこちら。
「TRIO展」展示風景
「モデルたちのパワー(The Power of Models)」という共通テーマが設定され、3館のコレクションの中から"横たわる女性像"を現した作品がトリオで並んでいるんです。
左から ―
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色づかい・技法・構図・時代背景・画家の人生。
いろいろなポイントを見る人が思い思いに比べて、感じて、想像が膨らむとても有意義な展示構成だと思います。
国も時代もジャンルもミックスされているから、1つの時代や画家を掘り下げるような展覧会では出会えないような新たな画家が発掘できてすごく楽しかったです。
日本人画家との出会い
TRIO展では日本人画家の作品が結構あります。
私は基本的にはヨーロッパの画家が好きで、観に行く展覧会もそれ系統が多かったので、これまで意識してこなかった素敵な日本人画家をたくさん知ることができてとても嬉しかったです。
佐伯祐三《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》
佐伯祐三《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》1927年 NAKKA
佐伯祐三(さえき ゆうぞう)は1898年生まれの大阪出身の画家です。
ブラマンクやユトリロから影響を受けたそうで、この《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》もそうですが情緒があってかつおしゃれな作風が素敵でした。
絵の中に文字が入っているのが特徴的です。
TRIO展では全部で3つの佐伯祐三作品が観られるのですが、そのなかの一つは同じく絵の中に文字を取り入れる作風の ジャン=ミシェル・バスキアとトリオを組んだものもありました。
古賀春江《海》
古賀春江《海》1929年 MOMAT
古賀春江 の《海》も良かったです。
関東大震災復興が進んで日本人がモダンな生活を送るようになった時代に描かれたそうで、「近代都市のアレゴリー(Allegory of the City)」というテーマで展示されていました。
日本の昔のポスターみたいな和風な絵柄なんですかね。
しかしながら、この前「デ・キリコ展」でこんな雰囲気の不思議なコラージュ作品をたくさん見たので、日本的な絵柄の中にシュルレアリスムな趣を感じるような気も …。
この《海》とトリオを組んだのが、ラウル・デュフィの《電気の精》です。
ラウル・デュフィ《電気の精》1953年 MAM
《電気の精》は古代から制作当時までの科学技術の発展が表現されています。
100人以上の科学者や思想家たちが名前入りで描かれているので、じっくり見るとおもしろいです。
なお、展示されているのは縮小版で、本物はパリ万博のパビリオンを飾った大壁画なんです。
現在は パリ市立近代美術館(MAM)に常設展示されていて、TRIO展図録にはその大壁画の写真が載っています(作品の前にある休憩スペースでTORIO展図録が閲覧できるのでぜひ見てみてください)。
想像以上に巨大そして綺麗でびっくりです。
実物を見てみたいなあ。
吉原治良《菊(ロ)》
吉原治良《菊(ロ)》1942年 NAKKA
これなんだと思いますか。
私は最初、モフモフした白い生き物かなと思いましたが 、、、、、じつは「菊」なんです。
「戦争の影(In the Shadow of War)」というテーマに並んだうちの一つでした。
作者の 吉原治良(よしはら じろう)は大阪生まれの抽象画家で、菊の花弁を抽象的に描きました。
戦時下にあった当時の日本では 抽象もまた反体制的とみなされていたのだそうで、その葛藤がほのめかされています。
辻永《椿と仔山羊》
辻永《椿と仔山羊》1916年 MOMAT
この作品は「空想の庭(The Imaginary Garden)」というテーマのトリオ展示の一つ。
作者の 辻 永(つじ ひさし)は広島生まれの洋画家で、植物学者を志したこともある 植物に造詣の深い画家だったとのことです。
なによりも単純に美しかった!!
ものすっごく綺麗な絵でした。
羊の表情が何とも近寄りがたい神聖な存在に思えました。
大好きな洋画家も
もちろん、ヨーロッパの画家たちの作品もたくさんあります。
個人的に大好きな画家の展示もあってうれしかったです。
モーリス・ユトリロ《モンマルトルの通り》
モーリス・ユトリロ《モンマルトルの通り》1912年頃 MAM
「都市の遊歩道(Flaneurs in the City)」というテーマのトリオ展示の一つ。
ユトリロはやっぱり好きですね~。
絵が全部可愛いんだもん。
フランスに住みたい、というか、ユトリロの絵の中に住みたい。
TRIO展ではこの《モンマルトルの通り》と《セヴェスト通り》の2つのユトリロ絵画を見ることができます。
ピエール・ボナール《昼食》
ピエール・ボナール《昼食》1932年頃 MAM
ナビ派の画家 ピエール・ボナールもありました。
ゴーギャンなどポスト印象派の画家たちに師事したのがナビ派なんですが、暖かくて多色で綺麗な絵が多いから好きです。
ピエール・ボナールはナビ派のなかでも日本美術に最も強く影響を受け、「日本かぶれのナビ」と呼ばれていたひとです。
「女性たちのまなざし(The Female Gaze)」というトリオ展示の一つで、隣には全く同じ構図の日本人画家の絵が並びます。
サルバドール・ダリ《幽霊と幻影》
サルバドール・ダリ《幽霊と幻影》1934年頃 NAKKA
ダリの作品はSF小説の挿絵かのような世界観が好きなんです。
画面下に座る女性は、ダリの幼少期における母親代わりの存在だった女性。
その横に立つ黒いものは糸杉の木で、ダリにとっては死の象徴でした。
この世には存在しないものが現実世界に混ざり込んだようなダリの不思議な作品は、「夢と幻影(Dreams and Illusions)」というテーマにぴったりです。
デフォルメされた体
柳原義達《犬の唄》1961年 MOMAT
ジェルメーヌ・リシエ《ランド地方の羊飼い》1951年 NAKKA
イヴ・クライン《青いヴィーナス》1962年 MAM
絵画だけじゃなくて、こういったブロンズ作品などもあります。
左から ―
- 戦争への抵抗と皮肉の思いを込めた 柳原義達 《犬の唄》
- 羊飼いが竹馬に乗る姿を表現した リシエ 《ランド地方の羊飼い》
- 戦争後の新たな人間像を模索した クライン 《青いヴィーナス》
3作品は「デフォルメされた体(The Deformed Body)」というテーマのトリオ展示です。
デフォルメ度合いが作者によって全然違っていておもしろいです。
日常生活とアート
倉俣史朗《Miss Blanche(ミス・ブランチ)》デザイン1988年/製作1989年 NAKKA
TRIO展みたいにジャンルミックスの展覧会は、絵や彫刻のみならず現代アートもあって多種多様なところが良いですよね。
「日常生活とアート(Everyday Life and Art)」というテーマに置かれていたのがバラの椅子。
倉俣史朗の《Miss Blanche(ミス・ブランチ)》という作品です。
照明が透き通った椅子を通過して、床に光と影の絵を描きます。
こんなアートで美しい椅子、気軽に座れませんよ。
お気に入り作品
マルク・シャガール《夢》1927年 MAM
TRIO展のなかでいちばん気に入ったのは、マルク・シャガールの《夢》です、
すーーーっごく綺麗でした。
天地が逆転した世界に、ロバのような動物と、その背中に乗せられた女性が描かれています。
この作品は、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』にでてくる妖精と、妖精に魔法をかけられて頭をロバに変えられてしまった織物職人ボトムを描いたと考えられているそうです。
青い絵がもともと大好きなんですけど、シャガールの青はどの画家と比べても透き通っていて鮮やかで、ずっと見ていられますね。
「MOMATコレクション(2024.4.16–8.25)」 感想
東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」も一緒に見てきたので、いくつかお気に入りを残しておきます。
久々に行ったら初めてみる作品がたくさんあって楽しかったです。
マルク・シャガール《ふたり》
マルク・シャガール《ふたり》油彩/キャンバス 1887-1984 MOMAT
TRIO展とダブルでシャガールを見られて幸せでした。
この《ふたり》もすごく青が綺麗です。
ちなみにこの絵の左隣には同じくTRIO展で展示があったピエール・ボナールが並んでいます。
もしTRIO展でシャガールとボナールが気になったら、ぜひMOMATコレクションの方も観てみてください。
ヘンリー・ムーア《横たわる人物》
ヘンリー・ムーア《横たわる人物》1977 ブロンズ MOMAT
ブロンズ作品は全然詳しくないんですが、これは可愛いと思いました。
こういう つるっとしたブロンズは好きなのかも。
金山康喜《アイロンのある静物》
金山康喜《アイロンのある静物》油彩/キャンバス 1952 MOMAT
いちばん気に入ったのはこれ!
金山康喜の《アイロンのある静物》です。
発光しているような色がすごいのよ。
黄色と水色が蛍光色に見えるんですけど、間近で絵具を確認するとふつうの絵具だと思うんですよ。
なのになんでこんなに光って見えるように描けるんでしょう。
綺麗だったなあ。本当に。
このほかにも日本画の絵巻も良かったし…。
展示作品がたくさんあって結構ボリューミーなので思う存分鑑賞してきました。
TRIO展と合わせて3時間半以上鑑賞して疲れちゃったけど、充実感のある疲れ。
すごく楽しかったです。
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「TORIO展」の情報
グッズ
TORIO展のグッズ売り場は、規模はそこまで大きくはないですが種類が豊富で結構充実していました。
グッズ売り場は 展示会場内にありますので お財布を持ってお入りください。
ポストカード
ポストカードはたくさん種類がありました。
図録を買わなかったのでポストカードをたくさん買ってしまった。
ポストカードは 165円(税込) です。
メタルブックマーカー(栞)
定番のメタルブックマーカーも買いました。
佐伯祐三の《郵便配達夫》のモチーフです。
ブックマーカーは美術展に行くたびに買ってるから、いまもう自分が何個持っているのか分からない…。
もったいなくてあまり使えていないですけど、またひとつコレクションが増えました。
メタルブックマーカーは 1,100円(税込) です。
TORIOキーホルダー 空想の庭
TORIO展ならではのキーホルダーです。
TORIO展ではまさにこの並び順で展示されていました。
かーわいー!!
ほかにも種類がありました。
TRIOキーホルダーは 1,320円(税込) です。
フルーツドロップ
記事に載せきれなかったけど、アンドレ・ボーシャンの《果物棚》もすごく良かったんです。
フルーツドロップにぴったりの作品だったので、さすがのグッズ展開だと思いました。
中身のドロップはコロンとしたまあるいキャンディで、洋梨・リンゴ・オレンジと3つの味が入っています。
作品がプリントされている部分は紙製なので、缶をとっておきたい人はシールをはがす際に破けないようにご注意ください。
フルーツドロップは 734円(税込) でした。
ミニチュアカンヴァス
ラウル・デュフィの《家と庭》のミニチュアカンヴァス(ミニフレーム)も買いました。
《電気の精》と同じ作者です。
ミニチュアカンバスは何種類かありまして、私は辻永《椿と仔山羊》と迷いに迷ってこれにしました。
寝室に飾るのでやはり青はリラックスできる色だから。
壁に掛けることも、付属スタンドを使って立て掛けることも可能です。
ミニチュアカンヴァスは 2,420円(税込) でした。
サイズが大きいバージョンもあって、そちらは5千円弱だったかなと思います。
混雑状況・所要時間
平日午後に行ったからか、そこまで混んではいませんでした。
音声ガイドの対象作品には人が溜まっていることが多いはずなんですがそれもほとんどなく、終始かなりスペースに余裕をもって居心地よく鑑賞することができました。
所要時間は 2時間程度です。
TORIO展は全エリアで撮影可能だったので、私の場合は 写真を撮る→ 鑑賞する と2周しています。
写真を撮らずに鑑賞だけだったら 1時間半くらいかなと思います。
チケット
チケットは当日券とネット事前購入券どちらも可能です。
ネット事前購入する場合でも日時指定はありません。
私はネット事前購入券にしました。
東京国立近代美術館では以前は入場時に絵柄チケットをくれたのですが、今回はありませんでした。
当日券だとどうなのだろう。
音声ガイド
TRIO展の音声ガイドナビゲーターは 俳優の有村架純さんです。
会場レンタル版は 650円(税込)。
アプリ版は 700円(税込)で、12月22日まで繰り返し聴くことができます。
アプリ版の方は イヤフォンを忘れずに!
(私は何度か忘れたことありますけど、心底無念すぎるので…)
ロッカー
東京国立近代美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料ですが、100円玉が必要です。
撮影スポット
TORIO展は会場内全エリアで撮影可能です。
撮影不可の作品がいくつかあります。
TORIO展コラボメニュー
東京国立近代美術館の外の庭では「TRIO CAFÉ」が開催中。
TORIO展とコラボしたジェラートが食べられます。
私はちょっと時間がなくて食べられなかったけど、数量限定とのことなのでお早めに。
ほかにも、フルーツタルトで有名なキル・フェボンとコラボしていたりするようです。
巡回
TRIO展は 東京 → 大阪 へと巡回します。
詳しくは次の開催概要まとめをご覧ください。
開催概要まとめ
展覧会名 | TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション |
● 東京展 |
2024年5月21日(火) - 8月25日(日) |
● 大阪展 |
2024年9月14日(土) -12月8日(日) |
休室日 |
月曜日 |
開室時間 |
午前10時-午後5時 |
混雑状況 | 平日午後・混雑なし |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 一般 2,200円 |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | あり |
撮影 | 会場内撮影可 |
グッズ | 展示会場内にあり・充実 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
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関連情報
●「写本 ーいとも優雅なる中世の小宇宙」
2024年9月29日(日)まで 東京→北海道 と巡回します。
国立西洋美術館の小企画展で過去3回にわたって展示された中世の可憐な内藤コレクションの「写本」。
本展はその集大成ともいえる展示です。
● 「デ・キリコ展」
2024年12月8日(日)まで東京→ 大阪と巡回します。
デ・キリコの全体像が分かる展覧会なうえ、独特・奇妙とおもしろい作風で飽きがこないので初見にも優しい展覧会です。
TRIO展にも1点、デ・キリコの作品が展示されているので、気に入ったらぜひこの大回顧展も。
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京→福岡→東京→大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「エドワード・ゴーリーを巡る旅」
2023年に渋谷区立松濤美術館で開催したエドワード・ゴーリー展。
2024年9月1日(日)まで 千葉→神奈川 と巡回します。
絵本のなかの不思議でちょっと怖い世界感をモノクロの細かな線画で表現したイラストは見ごたえありです。
●「ロートレック展 時をつかむ線」
2025年4月6日(日)まで「東京 → 北海道 → 長野」と全国を巡回中。
素描が多めですが有名なカラー作品の展示ももちろんあります。
滑らかでするっと伸びる線一本一本がセンス抜群な感じ…!
100年以上前の作品なのに古さを感じさせないのがロートレックの魅力だなと改めて感じられた展覧会で、とても楽しかったです。
●「カナレットとヴェネツィアの輝き 」
2025年6月22日(日)まで「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
たくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
カナレットをはじめ画家それぞれが自らのヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、とても穏やかな気持ちなれる展覧会でした。
これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
展示風景( 手前:アンドレ・ボーシャン《果物棚》1950年 NAKKA)
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