SOMPO美術館の
「カナレットとヴェネツィアの輝き」展 に行ってきました。
ヴェネツィアの景観画を一堂に集めた展覧会です。
ここまで1つの地域に特化した展示を観たのは初めてだったかもしれません。
似たような絵が多いと言えばそれまでですが、
だからこそ、画家ごとにタッチの違いや注目箇所の違いを比べるのが楽しい!
それに、11年前の卒業旅行で行ったヴェネツィアの街並みを思い描きながら鑑賞できて、とても癒されました。
★ネタバレを避けたい方は感想をスキップして「カナレット展」情報 までジャンプしてくださいね^^
「カナレット展」 感想
ヴェネツィア土産にカナレット
この展覧会の主役であるカナレットはヴェネツィア生まれの画家です。
"ヴェドゥータ(景観画)"というジャンルでヴェネツィアの風景を描きました。
カナレットが描くヴェネツィアの景観画は、グランド・ツアーとしてイタリアを訪れていた英国貴族たちに大人気でした。
グランド・ツアーとは、貴族の若者が教育の総仕上げとして文化の中心地を巡った周遊旅行のこと。
貴族のお坊ちゃまやお嬢様たちは、旅先の思い出にカナレットの作品を故郷に持ち帰ったんですね。
● カナレットってどんな画家?
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カナレットが描いたヴェネツィア
カナレット《サン・マルコ広場》1732-33頃 油彩、カンヴァス 東京富士美術館蔵
カナレットのヴェドゥータ(景観画)でおもしろかったのは、必ずしも現実をそのまま映したものではないという点です。
複数の視点を組み合わせて、現実には一望できないヴェネツィアのパノラマを描いているのだそうです。
綿密で正確に描かれているように思えるこの《サン・マルコ広場》も、実際にはこのような眺望ではありませんでした。
自分の作品が"旅先の思い出品"として人気なことを自覚して狙って描いていますよね。
現代の"映え"の意識を持っている画家だと思いました。
カナレット《カナル・グランデのレガッタ》1730-1739頃 油彩、カンヴァス ボウズ美術館蔵
カナレットはヴェネツィアの"街並み"だけでなく有名イベントの様子も描きとっています。
《カナル・グランデのレガッタ》は、カナル・グランデ大運河で行われるレガッタ(ボートレース)のこと。
ヴェネツィアの見世物レースとして発展した伝統行事で、現在まで受け継がれているヴェネツィアの人々にとっても大切な催しの一つです。
旅先でこの光景を観たら、やっぱり記念に絵が欲しくなっちゃいますね。
カナレットのヴェドゥータ(景観画)には人物がたくさん登場するのですが、その描き方がとってもいい塩梅なんです。
多様なしぐさに加えて陰影がばっちりなので、描き込みすぎていないのに一つ一つが個性のあるキャラクターになっています。
人物の表情や会話がちゃんと伝わってくるのに、景観画として邪魔にならないくらいの存在感なのがちょうど良い感じ。
カナレット作品が旅行者に愛された理由が分かるような気がしました。
貴重な歴史遺産でもあるヴェドゥータ
当時、カナレットが得意とした「ヴェドゥータ(景観画)」というジャンルは絵画としてのは地位が低く、人物画や歴史画よりも下に見られていたジャンルでした。
人気画家だったカナレットですら、アカデミーに入学できたのは晩年になってからです。
しかし、ヴェドゥータ(景観画)が単なる旅先のお土産としてだけではなく、その土地の地誌的資料であり歴史遺産として重要な存在だったことは覚えておきたいと思っています。
ベルナルド・ベロット《ルッカ、サン・マルティーノ広場》1742-1746 油彩、カンヴァス ヨーク美術館蔵
この《ルッカ、サン・マルティーノ広場》はカナレットの甥っ子 ベルナルド・ベロット(1722-1780)によるものです。
イタリアのルッカの街並みを切り取ったベロットの青年期の作品で、特徴的なのが町の眺望をかなり正確に描写している点だと言います。
多数の視点からの眺めを組み合わせていたカナレットとはまた違った作風ですよね。
ベロットはカナレットの弟子となった後、舞台をドイツのドレスデンやポーランドのワルシャワに移し、宮廷画家として活躍しました。
ベロットの残したヴェドゥータ(景観画)は、1939年のドイツのポーランド侵攻で壊滅状態になったワルシャワの街の復興に役立てられることになります。
ベロットの景観画に登場する建造物や聖堂などが再建されのだそうです。
ベロット没後約160年後のことでした。
カナレット以降のヴェネツィア
カナレット展では「カナレット以降の画家が描いたヴェネツィア」の作品もたくさん集められています。
カナレットが定着させた「絵になるヴェネツィア」のイメージは、画家たちの創作意欲を掻き立てまくり!
美しい街並みを自分の目で観て描きたいと、いろいろな国の画家がヴェネティアを訪れました。
カナレットの時代には旅先の思い出記録の側面が強かったヴェネツィアの景観画ですが、19世紀においては画家たちの個性あふれる視覚体験が前面に打ち出されるようになったそうです。
印象深かった作品をいくつかピックアップして残しておきたいと思います。
ボニトニンの幻想的なタッチ
リチャード・パークス・ボニントン《ヴェネツィア、カナル・グランデ》1826 油彩、カンヴァスに貼り付けた紙 スコットランド国立美術館蔵
ボニントンの《ヴェネツィア、カナル・グランデ》は、カナレットの絵葉書的なヴェドゥータ(景観画)とは異なり大胆なタッチで幻想的なヴェネツィアを描いています。
水彩画から入ったボニントンらしく、油彩なのに水彩のようににじみが効いた作品です。
友人のドラクロワはボ二トンの作品を「目を喜ばせ、うっとりさせるダイヤモンドのようだ」と評していたそうです。
輪郭をぼやかして光の層があるような表現がとても綺麗でした。
人々の営みを捉えたウッズ
ヘンリー・ウッズ《サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場、ヴェネツィア》 1895 油彩、カンヴァス ロイヤル・アカデミー・オ
ブ・アーツ象
景観よりも人々の営みに焦点を当てているのが、ヘンリー・ウッズの《サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場、ヴェネツィア》です。
ウッズはヴェネツィアの魅力に取り憑かれて定住し、運河や広場を行き交う人々を描きました。
景観画が多いカナレット展の中で、この作品がいちばん暖かみが感じられたのでとても印象に残っています。
暗闇を描いたホイッスラー
ジェイムズ・アボット・マクニール・ホイッスラー《ノクターン:青と金色―サン・マルコ大聖堂、ヴェネツィア》1880 油彩、カンヴァス ウェールズ国立美術館蔵
ホイッスラーの《ノクターン:青と金色―サン・マルコ大聖堂、ヴェネツィア》もほかとは一線を画した作品でした。
美しく明るい街並みを描いたものが多いカナレット展の中で、夜のヴェネティアにフォーカスを当てています。
アメリカ出身のホイッスラーにとって、ヴェネツィア滞在は積年の夢だったそうです。
コレクターだったらこういう色合いのヴェネツィア作品もコレクションに加えたくなりますね。
モネ的ヴェネツィア
クロード・モネ《サルーテ運河》1908 油彩、カンヴァス ポーラ美術館蔵
あの印象画家 クロード・モネもヴェネツィアを描いています。
赤やピンク、青やオレンジと多彩な色が目を惹きます。
カナレット展の多くは、カナレットの系譜を受け継いだ(誤解を恐れずにいうと)"似たような"ヴェネツィア景観画がたくさん並んでいるので、改めてモネの描くヴェネツィアは個性が爆発しているなと感じました。
この《サルーテ運河》はとくに色遣いが美しかったです。
カナレット展には、同じく印象画家から 雲の王者と呼ばれたウジェーヌ・ブーダンや、カラフルな点描画のポール・シニャックの作品も観ることができます。
お気に入りの1枚
ジェイムズ・ホランド《ヴェネツィアの思い出》油彩、板 テート美術館蔵
カナレット作ではないんですけど…。
カナレット展のお気に入りは ジェイムズ・ホランドの《ヴェネツィアの思い出》です。
ホランドは独学で絵を学んだイギリス出身の画家で、この《ヴェネツィアの思い出》では現実を描写しつつも気まぐれにアレンジを加えたリアルとフィクションが組み合わさった作品なのだそうです。
建物の陰側を描いているので全体的に暗めの色彩ですが、そのぶん空の水色が良く映えます。
私の最推し画家オディロン・ルドンの作風にちょっと似ている気もしまして。
こういう夢と現実の狭間みたいな雰囲気、めちゃくちゃ大好きです。
この「カナレット展」でたくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
それぞれの画家がヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、穏やかな気持ちなれる展覧会でした。
とっても楽しかったです。
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「カナレット展」 情報
グッズ
カナレット展のグッズ売り場は小規模でした。
それでもポストカードやクリアファイル、文具やアクセサリーなどの定番品はそろっていて、私もすこしだけ買ってきました。
レシートをもらい忘れてしまったので個々のお値段が分からなくなっちゃったんですが、全部でピッタリ2,000円だったことは確かです。
グッズ売り場は 展示会場内にありますのでお財布を持ってお入りください。
ポストカード
ポストカードはほどよく種類がありました。
私はカナレットと、それ以外の画家もいくつか買ってきました。
キャンディーポーチ
モネが描いた《パラッツォ・ダーリオ、ヴェネツィア》があしらわれたミニポーチを買いました。
飴が5個入っています。
飴はちょっと溶けていたんですけど、まあ、ポーチのおまけみたいなものなので良しとしましょう。
ふつうに美味しいコーヒー飴でした。
ポーチは裏面と内側は無地ですが、チャックもスムーズで、小物を入れるのにはピッタリのサイズです。
気軽に使える美術展グッズって感じで、さっそく使いたいと思います。
キャンディーポーチは 大体 1,100円くらいだったような。
そんなに高くなかったです。
混雑状況・所要時間
平日のお昼過ぎに行きまして、ゆったり鑑賞できました。
所要時間は1時間半~2時間半程度。
解説の文字情報が多めなのでじっくり読むと時間がかかると思います。
チケット
チケットは 一般 1,800円(税込) です。
事前にネットで購入しておけば 100円お安い、1,700円になります。
日時指定制ではないので、入場の直前に購入してもOK。
窓口で購入しても絵柄付きチケットをもらえるわけではないので、断然、ネット事前購入券のほうをおすすめします。
音声ガイド
カナレット展の音声ガイドは 650円(税込)です。
会場レンタル版のみで、アプリ版はありません。
ナビゲーターは 声優の浪川大輔さんです。
貴族に仕える執事(じいや?)のキャラクターが登場するので、聞いていてとても楽しいですよ。
ロッカー
SOMPO美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料で、100円玉も不要 です。
撮影スポット
カナレット展は、展示会場内の第2章以降のセクションで撮影可能です(一部撮影不可あり)。
それ以外の撮影スポットは3か所あります。
- SOMPO美術館 すぐの交差点の看板
- SOMPO美術館 入口の看板
- 展示最後にあるSOMPO美術館所蔵のゴッホ《ひまわり》
会場によって展示作品に違いあり
出品リストのうち、SOMPO美術館では展示がないものがいくつかあるようです。
巡回する美術館ごとにそれぞれ違いがあるのかな?
巡回あり
カナレット展は「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
詳しくは次の開催情報をご覧ください。
開催概要まとめ
展覧会名 |
カナレットとヴェネツィアの輝き |
● 静岡(終了) |
2024年7月27日(土)〜 9月29日(日) |
● 東京 |
2024年10月12日(土)~ 12月28日(土) |
● 京都 |
2025年2月15日(土)〜 4月13日(日) |
● 山口 |
2025年4月24日(木)〜 6月22日(日) |
開室時間 |
10:00 – 18:00/金曜日は20:00まで |
休館日 |
月曜日※/展示替期間/年末年始 |
混雑状況 | 平日昼・ゆったり |
所要時間 | 1時間半~2時間半 |
チケット | 一般 1,800円(事前購入券 1,700円) 日時指定なし |
ロッカー | あり(無料/100円玉不要) |
音声ガイド | 会場レンタル版 650円(税込) |
撮影 | 作品は第2章以降撮影可(一部不可あり)/撮影スポットあり |
グッズ | 展示会場内にあり/小規模 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
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関連情報
●「田中一村展」
2024年12月1日(日)まで東京都美術館で開催中。
10月25日(金)以降は展示替え後の後期展示になります。
当時の日本の最南端・奄美大島に単身移住して絵を描いたゴーギャンみたいな晩年を過ごした一村。
南の島ならではの動植物を描いた個性的な作品がたくさんありました。
● 「TORIO展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回中。
パリ・東京・大阪の3つの美術館からテーマを決めて作品を3つトリオで展示しています。
自由な解釈で3つを見比べて楽しむ新しい展示構成がとてもおもしろく、知的好奇心が刺激される展覧会でした。
● 「デ・キリコ展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回します。
デ・キリコの全体像が分かる展覧会なうえ、独特・奇妙とおもしろい作風で飽きがこないので初見にも優しい展覧会です。
TRIO展にも1点、デ・キリコの作品が展示されているので、気に入ったらぜひこの大回顧展も。
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京(上野) → 福岡 → 東京(八王子) → 大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「ロートレック展 時をつかむ線」
2025年4月6日(日)まで「東京 → 北海道 → 長野」と全国を巡回中。
素描が多めですが有名なカラー作品の展示ももちろんあります。
滑らかでするっと伸びる線一本一本がセンス抜群な感じ…!
100年以上前の作品なのに古さを感じさせないのがロートレックの魅力だなと改めて感じられた展覧会で、とても楽しかったです。
▼これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
11年前の卒業旅行で行ったヴェネツィアの写真を貼っておきます。
撮影:大学生だった筆者
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