渋谷区立 松涛美術館の
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 に行ってきました。
緻密な線が紡ぐモノトーンのイラストで知られる
世界的な絵本作家 エドワード・ゴーリーの作品が約250点も集結した展覧会です。
物語をたくさん読んでいるような感覚で、
ゴーリーの絵本をあまり知らない方でもじゅうぶん楽しめる展覧会だったと思います。
入場料 1,000円とは思えないボリュームと充実感で、とっても楽しい時間を過ごせました。
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 感想
※本文は図録を参考にさせていただきました
エドワード・ゴーリーの軌跡
エドワード・ゴーリー(Edward Gorey/1925‒2000)は、アメリカ生まれの絵本作家です。
兵役を経て、ハーバード大学でフランス文学を専攻。
28歳からニューヨークの出版社に勤め、後年にはマサチューセッツ州のケープコッドにある通称「エレファント・ハウス」に移り住み活動しました。
2000年に心臓発作で急逝された後に記念館が創られ、1年ごとに企画展が開催されています。
エドワード・ゴーリー 『無題』(ポストカードを撮影)
モノトーンの緻密な線描が特徴のゴーリーのイラストは 世界中に熱狂的なファンがおおく、日本でも『うろんな客』『不幸な子供』などの絵本が紹介されています。
絵本以外にも、挿絵・舞台と衣装デザイン・演劇やバレエのポスターなども手掛けています。
エドワード・ゴーリー 『青いアスピック』 1968年(ポストカードを撮影)
今回の『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展は、
ゴーリーの記念館「ゴーリーハウス」で開催されてきた企画展から「子供」「不思議な生き物」「舞台芸術」などのテーマを軸に約250 点の作品が集められました。
なかでも一番印象的なのは、絵本作家ゴーリーが描く「子共」像です。
エドワード・ゴーリーと『不幸な子供』
ほっこりエンド・大どんでん返しのハッピーエンドといった絵本の定番を、ゴーリーはあっさりと覆してきます。
ゴーリーの物語に出てくる子供は、常に悲惨な運命に苛まれているのです。
これはゴーリー自身の子供時代に関わりがあるのかもしれません。
エドワード・ゴーリー 『不幸な子供』 挿絵 1959年(ポストカードを撮影)
飛び級するほど聡明な子供だったゴーリーですが
11回の引越しと5つの学校の転向・両親の離婚(16年後に復縁して再婚)など、落ち着かない幼少期を過ごしています。
こういった自身の子供時代の経験は、"子供と「不幸」を遠ざけない"ゴーリーの作風に影響しているとも考えられているそうです。
エドワード・ゴーリー 『不幸な子供』 挿絵拡大 1959年(ポストカードを撮影)
実際、『不幸な子供』の挿絵は 緻密な黒の画面のなかで 女の子だけが白く浮かび上がり、まるで幽霊のようにもみえる怖さがあります。
どの挿絵にも必ずどこかに悪魔のような黒い生き物が描かれていて、女の子は物語がすすむなかで次々と不幸に見舞われ続け、ハッピーエンドを迎えることはありません。
エドワード・ゴーリー 『不幸な子供』 挿絵拡大 1959年(ポストカードを撮影)
タンスの角から手がのぞく
ゴーリーは以下のように語っています。
『最初は、子供たちのために書こうとはしていませんでした。親しい子供がいなかったものですから。(中略)けれども、私の本の中には児童書として出版されたもの以外にも子供向けの本がもっとあるんじゃないか、とずっと思ってきました。』
エドワード・ゴーリーと舞台芸術
ゴーリーが生涯愛してやまなかったのが、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)です、
ゴーリーとバレエとの出会いは12歳~13歳の頃。
なんとその後、34歳から54歳までの約20年間にほぼすべてのNYBCの公演を鑑賞していたと言われています。
エドワード・ゴーリー 『金箔のコウモリ』 挿絵 1965年(ポストカードを撮影)
NYCBの広告や商品デザインにも携わっていたバレエ好きのゴーリーなので、作品の中にはバレエをテーマにしたものも残されています。
登場するキャラクターに特定のモデルはいませんが、お気に入りのダンサーの特徴的なポーズを取り入れたりしていたそうです。
エドワード・ゴーリー 『無題(妖精のようなバレリーナ)』 1980年代頃(ポストカードを撮影)
幼いころから舞台芸術や衣装にも興味を持っていたゴーリーは、1970年代に『ドラキュラ』を基にしたミュージカルの衣装や舞台装置・ポスターなど総合デザインを手がけ、高く評価されました。
1978年(53歳)に アメリカ演劇界最高の栄誉とされているトニー賞において、衣装デザイン賞を受賞しています。
エドワード・ゴーリーの世界観
エドワード・ゴーリー『狂瀾怒濤 あるいはブラックドール騒動』挿絵(ポストカードを撮影)
ゴーリー緻密な線描は、カラフルで幸せな絵本の挿絵とは全くちがった ゴーリーならではの独特の世界観を存分に表現しています。
ゴーリー作品の常にどこか恐ろしく奇妙な雰囲気に、目を向けずにはいられません。
こうした読者を一気に物語に引き入れる悪魔的ともいえるパワーが、世界中に多くのファンを持つ源なのだなと感じました。
とても楽しい展覧会でした。観に行けて本当に良かったです。
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『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 情報
グッズ
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 のグッズは、ポストカードや文具などの定番品からタロットカードなど珍しいものまで、かなり充実したラインナップでした。
グッズ売り場は展示会場の外にありますので、鑑賞時にお財布を持って入らなくてもOKです。
図録
図録は紫色のカバーに、「ジャンブリーズ」の挿絵が描かれています。
「ジャンブリーズ」は19世紀イギリスの画家で詩人のエドワード・リアの詩にゴーリーがイラストを描いたもので、10人の個性あふれるキャラクターが船にのって旅をする物語。
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』という展覧会の図録にはピッタリです。
各章の扉が可愛くて、絵本を開いているような感覚もありました。
ソフトカバーなのが扱いやすくてまた良かったです。
図録は一時売り切れになっており、私が行ったときは幸い再販されたタイミンだったのか無事に買うことができました。
絶対に図録が欲しい方は、松濤美術館の公式Twitterを確認してからのほうが安全です。
ポストカード
ポストカードはたくさん種類がありました。
裏面が紫色と緑色のものがあったので、どちらとも買ってみました。
紙の素材が異なっているようで、紫色は真っ白の紙・緑色はうすく黄色がかった紙です。
どちらかというと紫色のほうが印刷が綺麗だと感じましたが、モノトーンの作品ばかりなのでそこまで大きな問題ではないかと思います。
裏面にイラストが描かれているものもあり、細部まで凝ったデザインとなっています。
マスキングテープ
マスキングテープもいくつか種類がありました。
私が選んだのは、ゴーリーが手彩色した青色が塗られた作品『蒼い時』のイラストが描かれたものです。
実物のイラストに塗られた青色は透明感のある深いコバルトブルーで本当に綺麗だったので、グッズになっていてうれしかったです。
テープのなかの絵柄は9種類もありました。
混雑状況・所要時間
平日の昼過ぎに行きましたが、あまり混雑はしていませんでした。
公式HPには以下の記載があります。
「土曜日・日曜日などの休日は、多くのお客様にご来館をいただいており、展示室・ショップともに、混雑が発生しています。お時間に余裕を持ってお越しください。平日は、比較的ゆったりとご覧いただけます。」
所要時間は1時間 ~ 1時間半くらいです。
チケット
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 のチケットは事前予約制ではなく、当日券のみです。
窓口で、紙のチケットがもらえます。
大規模展覧会ではないので 一般料金 1,000円なのですが、確実に1,000円以上の見ごたえのある展覧会だと思います。
渋谷区民の方は割引価格(金曜日は無料)で鑑賞できます。
ロッカー
松濤美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料ですが、100円玉が必要です。
音声ガイド
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 の音声ガイドはありません。
展示室にはたくさんの解説があったり、
ゴーリーの絵本が読めるようになっているので、音声ガイドが無くても問題なく堪能できました。
撮影スポット
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展には撮影スポットが2か所あります。
どちらも展示作品の拡大版です。
場所ですが、 1階が美術館入り口・グッズ売り場・ロッカーになっていて、展示会場は地下1階と2階になっています。
撮影スポットは、まず地下1階のエントランスに1か所。
エドワード・ゴーリー 『不幸な子供』挿絵より 1959年 撮影スポット
そして、2階のエントランスに1か所あります。
エドワード・ゴーリー 『ドラキュラ・トイシアター』表紙・原画より 1979年頃 撮影スポット
展示会場内の実物作品はすべて撮影NGですが、松濤美術館の回廊など展示会場外は撮影ができるようです。
窓口でチケットを受け取る際に、こんな注意書きが渡されます。
巡回
『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 は全国巡回予定です。
詳細はまだ出ていませんでした。
開催概要まとめ
展覧会名 | エドワード・ゴーリーを巡る旅 |
公式サイト | https://shoto-museum.jp/exhibitions/199gorey/ |
● 東京展(終了) |
2023年4月8日(土) ~ 6月11日(日) |
● 千葉展 | 2024年4月20日(土)~6月23日(日) ※展示替えあり ▶ 佐倉市立美術館 ▶ 美術館公式 X:@sakura_muse ▶ 美術館公式Instagram:@scmoa |
● 神奈川展 | 2024年7月6日(土)~9月1日(日) ※展示替えあり ▶ 横須賀美術館 ▶ 美術館公式 X:@yokosuka_moa ▶ 美術館公式Instagram:@yokosuka_moa |
混雑状況 | 平日昼過ぎ・混雑なし |
所要時間 | 1時間~1時間半 |
チケット | 一般 1,000円・当日券のみ |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | なし |
撮影 | 撮影スポット2か所 |
グッズ | 展示会場外にあり・充実 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
おまけ
チラシの色がかわいい
すごく細かなお話なのですが、今回の『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展 のチラシの色がめちゃくちゃ可愛いなと思っております。
チラシはチケット売り場の横に置いてありましたので、ぜひ貰ってみてみてください…!
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関連情報
● エドワード・ゴーリーの絵本
ゴーリーの絵本『おぞましい二人』。
"五歳のとき、ハロルド・スネドリーは病気の小動物を石ころでたたき殺しているところを見つかった"という一文からして、もう衝撃的。
●「写本 ーいとも優雅なる中世の小宇宙」
2024年9月29日(日)まで 東京→北海道 と巡回します。
国立西洋美術館の小企画展で過去3回にわたって展示された中世の可憐な内藤コレクションの「写本」。
本展はその集大成ともいえる展示です。
●「TRIO展」
2024年12月8日(日)まで、東京→大阪へと巡回します。
パリ・東京・大阪の3つの美術館コレクションから、共通テーマに沿ってピックアップした作品でトリオを組み、3つ並べて見比べてみようというおもしろい展示構成になってます、
時代も場所も絵柄も背景も超越した、トリオ展ならではのジャンルミックス展示が楽しいです。
● 「デ・キリコ展」
2024年12月8日(日)まで、東京→ 大阪と巡回します。
デ・キリコの全体像が分かる大回顧展。
独特・奇妙とおもしろい作風で飽きがこないので初見にも優しい展覧会です。
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京→福岡→東京→大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「ロートレック展 時をつかむ線」
2025年4月6日(日)まで「東京 → 北海道 → 長野」と全国を巡回中。
素描が多めですが有名なカラー作品の展示ももちろんあります。
滑らかでするっと伸びる線一本一本がセンス抜群な感じ…!
100年以上前の作品なのに古さを感じさせないのがロートレックの魅力だなと改めて感じられた展覧会で、とても楽しかったです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術や読書関連のTwitterにも時々出没しているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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