東京都美術館で開催中の『マティス展』 に行ってきました。
油彩・彫刻・切り紙絵など 約150点が展示された、国内20年ぶりの大回顧展です。
マティスが自分の表現にずっと挑戦し続けている様が、ありありと感じられる展覧会でした。
マティスの色鮮やかな絵を観ると前向きな気持ちになれますね。
私がとくに感動したのは、最終章。
マティスが最晩年に手掛けた集大成「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」の展示です。
『マティス展』 感想
色の魔術師、アンリ・マティス
「夢」荘のアトリエでのアンリ・マティス 1948-51 /撮影ミシェル・シマ(撮影可能エリアより撮影)
アンリ・マティス(Henri Matisse/1869 – 1954)は、知る人ぞ知る超有名画家です。
マティスが絵を描き始めたのは21歳の時なのですが、虫垂炎にかかっている間の暇つぶしがきっかけだったそうです。
ひょんなことから、自分の天職と出会ってしまったんですね。
撮影可能エリア「マティス年譜」
● 19世紀から20世紀に活躍したフランス生まれの画家
● 大胆な色彩と荒々しい筆づかいで描く「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれる画風の立役者
● フォーヴィスム後には「色彩」と向き合い、平面的で装飾的な表現へ
● 晩年は「切り紙絵」に取組み、リズミカルな形と色彩の表現へ
● 1948年から51年にかけて手掛けたヴァンスの「ロザリオ礼拝堂」は マティス芸術の集大成
マティスは 現代美術史において最も重要な芸術家のひとりとされています。
マティスの「室内の人物」
フォーヴィスムでの大胆な画風から「抽象化」「単純化」と独自の表現を追求していったマティスですが、1918年に南フランスのニースに拠点を移してからは、小さめなカンヴァスに肖像画や室内画、風景画を描く、伝統的な絵画の概念に向き合うようになります。
しかし、これは保守的な意味での立ち戻り、立ち止まりではありませんでした。
マティスは、自身がこれまで獲得してきたもの一切を問い直そうと、常に挑戦を続けていたのだそうです。
アンリ・マティス《グールゴー男爵夫人の肖像》 1924年 油彩/カンヴァス パリ装飾美術館寄託
マティスが描く室内人物画のなかでも ひときわインパクトがあったのは《グールゴー男爵夫人の肖像》です。
テーブルクロスの花模様、女性の唇、どちらもパキっとした鮮やかな赤色で自然と目が誘導されます。
ピカソ作品にもこんな女性いなかったっけ…?
と前に観に行った『ピカソとその時代』展を調べてみると、やはりピカソも似た雰囲気の女性の絵画を描いていました。
マティスとピカソは友人であり、ライバルでもあったそうです。
アンリ・マティス《グールゴー男爵夫人の肖像》部分
1930年代のはじまりとともに、マティスは船でアメリカに渡ります。
この旅行で新しい風を感じたマティスは心身ともに生まれ変わり、再び「単純化」の表現の道へと進みました。
アンリ・マティス《若い女性と白い毛皮の外套》1944年 油彩/カンヴァス グルノーブル美術館寄託
《若い女性と白い毛皮の外套》では、女性の顔が何とも言えずかわいらしくて好きでした。
後ろの赤い壁の模様が、次に出てくる「赤い室内画」につながるような気がします。
アンリ・マティス《座るバラ色の裸婦》1935年4月–1936年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
《座るバラ色の裸婦》のようにかなり単純化が進んだ作品もありました。
男爵夫人の作品と比べるとその振り幅の広さたるや。
マティスが自分の表現を深く深く掘り進めていっていることが伺えます。
マティスの「赤い室内」
アンリ・マティス《石膏のある静物》1927年 油彩/カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館蔵
戦争がはじまると、マティスは老いと病の療養のためニースからヴァンスへと拠点を移します。
寝たきりの時期でもドローイングや本の挿絵の制作などに没頭したそうで、とくに「ヴァンス室内画」と呼ばれる赤色の背景が特徴の静物画は、今回のマティス展のみどころの一つだと思います。
アンリ・マティス《マグノリアのある静物》1941年12月 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
《マグノリアのある静物》は、マティスが「実験のタブロー(油絵)」と呼んだうちの1点で、数カ月かけて数十点のデッサンを経て制作されました。
筆跡がほとんどない一面真っ赤の背景。
葉に囲まれたマグノリアの白い花が 室内で浮かんでいるようにみえる、印象的な絵画です。
原田マハさんの小説『ジヴェルニーの食卓』にも登場する作品なのだそうです。
アンリ・マティス《赤の大きな室内》1948年春 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
1946年から48年にかけて集中的に描かれた、ヴァンス室内画シリーズは《赤の大きな室内》で締めくくられました。
マティスの絵画にくり返し描かれる「赤」「アトリエ」「画中画」が総合された、マティスの色彩に関する仕事が凝縮された大作とされています。
こうして「赤」の作品が集まるととても力強く、エネルギーに満ちているように感じます。
私だったら年老いた療養中に赤い絵具を選べるかな、考えてしまいました。
マティスの「切り紙絵」、リズムを刻む模様
マティス展 展示風景
「それぞれの赤は赤のまま、青は青のまま ―ちょうど、ジャズのように」
1930年代から習作のための手段のひとつだった「切り紙絵」が、40年代になると、マティスにとって長年探求してきた色彩とドローイングの対立を解消する手段として重要なものとなっていったそうです。
アンリ・マティス《白い象の悪夢(版画シリーズ《ジャズ》より)》1947年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
ありものの色紙を使うのではなく、自分で彩色した紙を使った切り絵です。
色はすべて単色で、濃淡もほとんどなく平面的で装飾的。
まるでジャズの音楽が流れるように、軽快にリズムを刻むような波打つ形状をしています。
アンリ・マティス《礁湖(版画シリーズ《ジャズ》より)》1947年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
私にとってマティスというとこの切り紙絵のイメージが強くて、正直何が何やらわからないと思っていました。
しかし、こうして展覧会をとおしてマティスの探求の道のりを初期からずっと辿っていくと、すべて自分の表現したいものを形にするために挑戦して挑戦して…の繰り返しだったのだと知りました。
訳が分からなかった作品も、これまでとは違って見えてくるようです。
運命の仕事、「ロザリオ礼拝堂」
円形装飾《聖母子》を描くアンリ・マティス/上祭服(裏側のマケット・実現せず)
私が今回いちばん感動したのは、マティス展の最終章。
マティスが最晩年に没頭した、マティスの最高傑作と言われる場所。
色と光にあふれた、「ロザリオ礼拝堂」です。
「この礼拝堂は、私の人生をかけた仕事の到達点であり
今も続く探求の果てに、私が選んだのではなく、運命によって選ばれた仕事である ―」
"神を信じているかにかかわらず、精神が高まり、考えがはっきりし、気持ちそのものが軽くなるような場"として、マティスが内装から装飾、典礼用の衣装のデザインなどあらゆるものをプロデュースしました。
こちらのサイトで、ロザリオ礼拝堂の内部の写真が閲覧できますので是非見てみてください。
マティス展ではロザリオ礼拝堂の4K映像が観られるのですが、その清涼感といったら…!
ステンドグラスからこぼれる青と黄色の光に、マティスの無駄のない線で描かれた司祭の壁画。
本当に"気持ちそのものが軽くなる"ような場所だなと感じました。
実物を観に行きたいです。
お気に入りの3枚
マティス展での私のお気に入りの作品3点です。
《ホットチョコレートポットのある静物》は、モチーフがいいなと思ったのと、マティスもこんな絵を描くんだなと印象に残りました。
アンリ・マティス《ホットチョコレートポットのある静物》1900–02年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
《立っているヌード 》も好きでした。
細かなところが省かれているからこそ、どんな女性像かはそれぞれの想像に委ねられているような気がして、作品が押しつけがましくなくゆとりがある感じがします。
私は「風のように自由で綺麗な女性なんだろうな…」と思っているのですが、実際はどうなのだろうか。
アンリ・マティス《立っているヌード 》1947年 油彩/カンヴァス カトー=カンブレジ・マティス美術館寄託
マティスが亡くなる前年に制作された《オレンジのあるヌード》は、マティス展でマティスを知ったからこそ好きになれた作品だと思います。
子どもでも描けるんじゃないかとか、そういうことではなくて。
余分なものを省いて省いて伝えたいものだけが残った、、、のかもしれないなと感じました。
うまく言葉にできません。
アンリ・マティス《オレンジのあるヌード》1953年 墨、切り紙絵
最後に、マティス展の終わりで語られるマティスの言葉を残しておきます。
会場でこれを見た時に泣きそうになって、思わずメモってしまったんですね。
私もこんな風に人生を歩みたいんだなと。
「自分の表現方法を見つけたら、自分が求めているのは何か、と自らに問いかけ、それを見出そうとする探求の中で、簡単なものから複雑なものへと挑戦するべきだ。
自分の深い感動に対する率直さを持ち続けることができるなら、興味は衰えず、いつまでも制作の熱意を持ち、若いころの自分から学ぶことをやめることはないでしょう。
これに勝ることが、他にあろうか。」
マティスがニースの地でこれまでを見つめなおして自分の表現を見つけたように、私も無意味に感じてしまう今の自分を昇華して本当に望む生き方を見つけてみたいなと思いました。
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『マティス展』の情報
グッズ
マティス展 のグッズ売り場は定番のポストカードや文具以外にも、食品系、Tシャツやトートバッグなどかなり充実したラインナップになっています。
グッズ売り場は展示会場の中にありますので、鑑賞時にお財布を持ってお入りください。
また、東京都美術館入り口前の常設グッズ売り場にも、今回のマティス展に合わせたグッズが小規模に展開されています。
常設グッズ売り場は、チケットを買わずとも誰でも利用することができます。
ポストカード
ポストカードはたくさん種類がありました。
マティス展で気に入った作品が、ひとつはポストカードに採用されているのではと思います。
また、今回特徴的だったのは、壁掛け用の額縁もかなり力を入れて売られていた点です。
紙製の800円程度のものから凝った装飾の1万円近いお値段のものまで、どれもデザイン性が高くておしゃれなものばかりでした。
マティス展のポストカードに限らず使えるものなので、額縁を探している方はぜひチェックしてみてください。
ポストカードは 1枚 165円(税込)です。
マスキングテープ《ジャズ》
美術展のお土産に、マスキングテープも最近はよく買います。
私が選んだのはカラフルな切り紙絵のプリントで、手帳に貼るとやっぱり可愛いですね。
マティス展のマスキングテープは作品ごとに切り離せるようになっているので、いろいろな使い方ができそうです。
テープのなかの絵柄は8種類ありました。
マスキングテープは 480円(税込)でした。
500円ガチャ(ピンバッジ)
グッズ売り場の出口付近に、500円玉ガチャがあったのでやってみました。
これも切り紙絵シリーズからの作品で、20種類のうちどれか1つが当たります。
このピンバッジはまあまあ雑なつくりで、画像でもわかるとおり裏面の青い台紙がはみ出してしまっています。
正直あまりおすすめはしませんが、それも含めてガチャを楽しめる方はぜひ。
キャンディ
東京都美術館エントランスにある常設のグッズ売り場では、今回のマティス展に合わせたグッズが小規模に展開しています。
切手シール、ボールペンやキーホルダーなど、かなり可愛いアイテムがおおいので要チェックです。
私はキャンディを購入しました。
マティス作品の一部がモチーフになっていて、カラフルでとてもかわいいです。
味も非常に美味しいのでお土産にもいいと思います。
マティスのキャンディは 660円(税込)でした。
混雑状況・所要時間
平日の昼過ぎに行きましたが、結構賑わっていました。
音声ガイド対象作品の周りには常に人だかりができていて、順番に並んで鑑賞するような具合です。
所要時間は2時間程度です。
チケット
マティス展 のチケットは事前予約制と当日券どちらもあります。
平日でもかなり賑わっているので、待ち時間なく鑑賞したい場合は事前予約チケットを購入した方がよさそうです。
公式チケットサイト(ARTPASS)で購入した場合に限り、予約日時に空きがある場合のみ最大2回まで日時変更が可能です。
私は平日限定で使える「音声ガイドセット券」を購入しました。
チケットは 一般料金 2,200円。
平日限定音声ガイドセット券は 2,750円です。
音声ガイド
マティス展の音声ガイドのナビゲーターは、俳優の上白石萌歌さんです。
会場レンタル版は 650円(税込)
アプリでの事前ダウンロード版は 800円(税込)で、アプリ版は2023年8月20日まで何度でも聴くことが可能です、
私のように「平日限定音声ガイドセット券」を購入した場合は、会場レンタル版になります。
ロッカー
東京都美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料ですが、100円玉が必要です。
撮影スポット
マティス展は、会場内の第4章~6章までの1フロアが撮影可能エリアになっています。
また、会場外のマティス展の大看板の隣には、NHKの番組「BAEBAE美術館」のモニュメントがありました。
巡回
マティス展は東京のみで、巡回はありません。
開催概要まとめ
展覧会名 | マティス展 |
特設サイト | https://matisse2023.exhibit.jp/ |
● 東京展 |
2023年4月27日(木)~ 8月20日(日) |
休室日 | 月曜日、7月18日(火) ただし、 7月17日(月・祝)、 8月14日(月)は開室 |
開室時間 | 9:30~17:30、 金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで |
混雑状況 | 平日昼過ぎ・混雑 |
所要時間 | 2時間程度 |
チケット | 一般 2,200円・事前予約/当日券 |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | あり |
撮影 | 会場内撮影可能エリアあり 会場外「BAEBAE美術館」モニュメントあり |
グッズ | 展示会場内にあり・充実 美術館エントランスの常設グッズ売り場にもあり |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
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関連情報
● 原田マハさんの小説『ジヴェルニーの食卓』
ヴァンス時代のマティスの作品《マグノリアのある静物》が登場するそうです。
私もまだ読んでいなかったので、すぐに読もうと思います。
● 『マティス 自由なフォルム』
2024年 5月27日(月)まで、国立新美術館で開催中。
マティス展の2024年バージョンですね。
マティスが晩年に取り組んだ「切り紙絵」をメインにビックサイズの作品も含めて160点の作品が集まっています。
特にロザリオ礼拝堂の原寸大空間は青と黄色のステンドグラスが美しく素敵な空間でした。
●『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展
ビアズリーなど、モノクロの線画が好きな人は絶対にはまると思います。
絵本の挿絵なのに、ちょっと不気味で怖くてとても見ていて面白く、すごく充実した時間を過ごしました。
全国巡回すると発表されているけど、まだ詳細は出ていない…?
●『 ルーヴル美術館展 愛を描く』
5月27日(月)まで、国立新美術館で開催中。
"愛"をテーマに、あのルーブル美術館から作品が集結しています。
フラゴナールの《かんぬき》、フランソワ・ブーシェの《アモルの標的》はぜひ見てほしい…!
●『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』(2022年)
マティスは、2022年にも観ていました。
「ピカソとその時代展」でのマティスは切り紙絵が中心だったので、今回のマティス展では油絵や彫刻も観られます。
これまでの美術展の感想はこちらです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録のTwitterもやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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