国立新美術館で開催中の
『ルーヴル美術館展 愛を描く』 に行ってきました。
この美術展のテーマは「愛」。
ギリシア・ローマ神話を題材とする神話画、わたしたち人間の日常生活をとらえた風俗画など、様々な登場人物たちが描く「愛」のかたちが観られる展覧会です。
本展では、ルーブル美術館のコレクションの中から厳選された73点が展示されています。
誰もが知る有名美術館の名前がつく展覧会なだけあって、お客さんが多くかなり賑わっていました。
『ルーブル美術館展 愛を描く』感想
作品画像はルーブル美術館のリンク先より引用しています
神様と人間の「愛」
ヨーロッパにおける"愛"は、「古代ギリシア・ローマ」と「キリスト教」という大きく2つの文化の源流をたどることができます。
『ルーヴル美術館展 愛を描く』では、ギリシア・ローマ神話、聖書、叙事詩などから"愛"にまつわる絵画とともに、たくさんの物語を知ることができます。
フランソワ・ジェラール《アモルとプシュケ》、または《アモルの最初のキスを受けるプシュケ》1798年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
例えばこの《アモルとプシュケ》は、「愛の神様・アモル」と「人間の美しい王女・プシュケ」の種族を超えた禁断の愛の物語。
絵画のテーマとしてもとても人気が高く、今回のルーブル美術館展のチラシや看板に選ばれているメイン作品になっています。
クロード=マリー・デュビュッフ《アポロンとキュパリッソス》1821年 油彩/カンヴァス カルヴェ美術館蔵
《アポロンとキュパリッソス》もまたインパクトがありました。
ギリシア神話に登場する「美少年・キュパリッソス」と「最高神ゼウスの息子・アポロン」が描かれているのですが、なんだか見てはいけない場面をこっそりのぞいているようでドギマギしてしまいました。
どちらも、"愛"を象徴するような作品です。
紡がれていく「愛」
神様たちの"愛"があれば、現実世界の人間の"愛"もあります。
18世紀のフランスでは、上流階級の男女が自然のなかで会話やダンスをしながら恋の駆け引きをするテーマが人気になりました。
《庭園に集うイタリア喜劇の役者たち》もそのうちの一つです。
ジャン=バティスト・パテル《庭園に集うイタリア喜劇の役者たち》1720年頃 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
中央に描かれている男女。
女性に体を傾けながら言い寄っているような男性と、女性のほうは自分の足を男性の上に乗せていたりしています。
お互いにこのやりとりを楽しんでいるような、何とも明るく華やかな場面です。
ハブリエル・メツー《ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習》、または《音楽のレッスン》1659-1662年頃 油彩/板 ルーブル美術館蔵
一方、風俗画が盛んに描かれたオランダでは、身分や年齢にかかわらない身近で人間味あふれる愛の一場面が描かれました。
《ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習》がそのひとつ。
フランス絵画のような派手さは無いのですが、静かに少しずつ育まれていく愛を思わせる、落ち着いた作風の作品です。
魅惑的な「愛」
誘惑・欲望、というのもまた"愛"の一部ですね。
神話でも、男神が人間の女性をさらったり、女神が人間の男性を誘惑したりといった物語にあふれています。
ジャック・ブランシャール《チモーネとエフィジェニア》、または《人間に驚くヴィーナスと三美神》1629年頃 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
女性の体はとても肉感的でエロティックなものがおおいです。
また、女性の肌が絵の中で一番明るく光っているように描かれているのが印象的でした。
女の私でも思わず魅入ってしまう美しさです。
ジョヴァンニ・ビリヴェルト《カルロとウバルドの誘惑》1629-30年頃 油彩/銅板 ルーブル美術館蔵
なかでも、フランソワ・ブーシェは、個人的には別格でした。
ブーシェは、ルイ15世の妾・ポンパドゥール夫人のお気に入り画家で、後に国王付き首席画家にまで上り詰めたロココ美術を代表する画家のひとりです。
フランソワ・ブーシェ《褐色の髪のオダリスク》1745年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
彼の描く女性は、純白さ・美しさ・儚さを高められるだけ高めていて、まるで天使みたいです。
昨年、同じく国立新美術館で開催された『メトロポリタン美術館展』でもブーシェ作品の美しさに感動したのですが、何度見てもやっぱり心を持っていかれます。
ドラマチックな「愛」-《かんぬき》
今回のルーブル美術館展でいちばん見てよかったと思ったのはやっぱりこれ。
ジャン=オノレ・フラゴナールの《かんぬき》でした。
自由奔放な快楽を肯定する「リベルティナージュ」という思想が、18世紀のフランス上流社会の一部の知的エリートの間で流行しました。
そんなエロティシズムのアイコン的存在となったのが、この《かんぬき》でした。
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-78年頃 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
スポットライトに照らされた、ミュージカルの一場面のようなポージングが印象的です。
男性が手を伸ばす先にあるのは"かんぬき"。
男女の営みの前に後ろ手に扉の鍵を閉める、なんて演出をドラマや映画で時々見かけますが、こんな大昔からあった表現なんですね。
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》(部分) ルーブル美術館蔵
「かんぬき」は男性性器の暗示、「壺とバラの花」は女性性器・処女喪失の暗示。
乱れたベッドの脇にあるリンゴは、人類最初の女性であるエバの誘惑と原罪を連想させるモチーフとのことで、これからくり広げられる男女の濃密な営みを想像させられます。
女性の表情が何とも言えず、受け入れているのか拒否しているのか、いろいろな読み取り方ができる作品です。
様々な「愛」のかたち
恋愛以外の"愛"のかたちもありますね。
財産を使い果たしてボロボロになって帰ってきた息子を迎える父の物語《放蕩息子の帰宅》のテーマもまた、父子の"愛"といえます。
リオネッロ・スパーダ《放蕩息子の帰宅》1615年頃 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
《イタリアの婚姻契約》では、恥ずかし気に下を向く娘の手を握る母親もまた"愛"。
その後ろで、召使の女性を思わず目で追ってしまっている父親もまたある種の"愛"。
ギヨーム・ボディニエ《イタリアの婚姻契約》1831年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
さまざまな愛のかたちが垣間見える、微笑ましく平和な作品だと思いました。
お気に入りの1枚
70点以上が展示された今回の『ルーブル美術館展 愛を描く』。
わたしのお気に入りは、フランソワ・ブーシェの《アモルの標的》です。
東京展では、会場の一番目に展示されている大判の作品となっています。
フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》1758年 油彩/ファンバス ルーブル美術館蔵
ヴィーナスの息子である愛の神アモル(キューピッド)が放った矢がハートに刺さると恋人たちの愛の誕生する、という可愛らしい作品。
しかし下の方を観ると、不要になった矢を燃やすキューピッドがいて、真実の愛は一つであることを表しているのだとか。
透き通るような水色と、ピンクのぷくぷく肌の可愛らしいキューピッドが本当に綺麗でした。
やっぱりブーシェ作品、好きですね。
ブーシェのアモルを描いた作品は他にもこんなものが観られます(↓)。
フランソワ・ブーシェ《アモルを支える三美神》1765年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館蔵
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『ルーブル美術館展 愛を描く』は、絵画鑑賞にそこまで興味のないような方でも非常にとっつきやすい展覧会になっているなと感じました。
一人の画家の人生をたどったり、時代ごとに深掘りしていくようなマニア向けの構成というよりは、"愛"というテーマに沿って作品が集められていてとってもわかりやすく、気軽に観に行っても満足できると思います。
デートやお友達と感想を言い合いながら観に行くのも良いですね。
とっても楽しかったです。
『ルーブル美術館展 愛を描く』情報
グッズ
『ルーブル美術館展 愛を描く』のグッズ売り場は結構大きなスペースでしたが、種類はふつうくらい。
ポストカードや雑貨など定番のものはそろっています。
同じコーナーが数か所に設けられているので、混雑していてもスムーズに買い物ができました。
グッズ売り場は展示会場内にありますので、お財布を持ってお入りください。
ポストカード
ポストカードは5種類買ってきました。
かなり種類が多かったので、お気に入りの絵画がきっと見つかると思います。
ポストカードは各 165円税込 でした。
しおり
このメタルタイプのしおり、もう何個も持っているのについつい買ってしまいます。
《かんぬき》の絵画でひっそり登場するリンゴの形に、「おっ!」となりました。
しおりは 1,100円税込でした。
混雑状況・所要時間
3月中旬、平日の夕方に行ったのですが 結構混雑していました。
春休み中だったからかもしれません。学生さん世代が多かったです。
すべてのセクションで画像くらいの込み具合で、ゆったり優雅に観られる感じではありませんでした。
さすが、ルーブル美術館の求心力を感じます。
所要時間は1時間半~2時間程度です。
チケット
チケットは、日時指定予約制です。
当日券もありますが、混雑が予想されるので予約していくことを強くおすすめいたします。
私は公式チケットサイトで購入しました。
入場時間を平日は1時間単位、土日祝日は30分単位で選択できます。
チケットは 一般 2,100円税込 です。
ロッカー
国立新美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料ですが、100円玉が必要です。
音声ガイド
『ルーブル美術館展 愛を描く』の音声ガイドは、当日貸出のみで 650円税込 でした。
案内人として、俳優・満島ひかりさん。
解説ナレーションは、声優・森川智之さんです。
撮影スポット
『ルーブル美術館展 愛を描く』では、展示会場内の第4章のセクションのみすべて撮影可能でした。
大判作品も多数撮影できます。
巡回
『ルーブル美術館展 愛を描く』は東京会場終了後、京都へ巡回します。
くわしくは次の開催概要をご覧ください。
開催概要
展覧会名 | ルーヴル美術館展 愛を描く |
特設サイト | https://www.ntv.co.jp/love_louvre/ |
● 東京展 |
2023年3月1日(水)〜6月12日(月) |
● 京都展 |
2023年6月27日(火)〜9月24日(日) |
混雑状況 | 平日夕方・混雑 |
所要時間 | 1時間半~2時間程度 |
チケット | 一般 2,100円税込 |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | 会場レンタル 650円 |
撮影 | 第4章セクション撮影可 |
グッズ | 会場内にあるためお財布持ち込み |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
おまけ
ネット予約でも"紙チケット"もえらえるよ
『ルーブル美術館展 愛を描く』では、事前にネット予約していった場合でも紙チケットがもらえます。
ネットチケットはどうも味気なくて寂しいけど、紙のチケットをもらうと観に行った思い出が増えるような気がするのでとっても嬉しいです。
余談ですが、"愛を描く"というテーマだったのでネイルもピンクを塗っていきました。
こうやって楽しみながら鑑賞しております。
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関連情報
●『ピカソとその時代展』
東京から巡回して現在は大阪で開催中。
ピカソの女性像はやはり観ごたえがあり、生でみる迫力を実感できます。
クレーのカラフルな絵画も美しいです。
●『エゴン・シーレ展』
東京にて4月9日まで開催中。
オーストリアの若き天才・エゴン・シーレがまとめって見られるほか、クリムトなども堪能できます。
グッズ買いすぎってくらい買ってます。
●『ブダペスト展』2019年
オーストリアの代表画家であるエゴン・シーレ。
オーストリアは以前はオーストリア=ハンガリー帝国として、ハプスブルク家の最後の領土でした。
2019年のブダペスト展も素敵な女性の絵がたくさん展示されました。
●『メトロポリタン美術館展』2022年
国立新美術館の昨年の展覧会。大きな美術館の展示をよくやってくれますね。
やはり有名美術館にある作品はやはりそれだけのパワーがある、というのを実感しました。
『ルーブル美術館展 愛を描く』でも展示のあったブーシェ作品もありました。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術や読書関連のTwitterにも時々出没しているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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