国立西洋美術館の
「モネ 睡蓮のとき」 に行ってきました。
今年すでに2回くらいモネ関連の展示を観たのでスルーしようかと思ったのですが、やっぱり気になって参戦。
平日でもかなりの混雑具合で、さすがモネだなと痛感しました。
最晩年の作品が特に良かったです。
※ ネタバレを避けたい方は感想をスキップして
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「モネ 睡蓮のとき」 感想
睡蓮の世界
本展「モネ 睡蓮のとき」のメインとなるのはもちろん〈睡蓮〉です。
モネが最晩年まで取り組んだ巨大な〈睡蓮〉の大装飾画の構想は最終的にパリのオランジュリー美術館で繰り広げられたわけですが、その制作過程において、70代になるモネはおびただしい数の作品を残したそうです。
クロード・モネ《睡蓮》1916 国立西洋美術館
上の画像の《睡蓮》は国立西洋美術館が所蔵しています。
青の水面、緑の葉、赤紫の花弁と睡蓮らしさがたっぷりつまった作品でした。
かと思えば、下の作品のように黄色みを帯びた《睡蓮》も。
同じ主題でも色遣いによってかもし出す雰囲気が全く違ってくるのがとても興味深いです。
クロード・モネ《睡蓮の池》1917–1919頃 マルモッタン・モネ美術館
〈睡蓮〉の主題は1909年以前にはほとんど登場しておらず、1914年以降の大装飾画の制作で初めて重要なモチーフになったのだそうです。
モネが亡くなるのが1926年ですから、ざっと12年程度。
"モネといえば睡蓮"のイメージが強かったけれど、モネの画家人生の中では〈睡蓮〉を描いていた期間はかなり後半のほうになるということですね。
この頃のモネは、白内障の兆候や最愛の妻の死などによって画業に一時の空白期間がありました。
しかし1914年に再び奮起し、大装飾画の構想に精力的に取り組みはじめました。
クロード・モネ《睡蓮》1916–1919頃 マルモッタン・モネ美術館
こちらの青の《睡蓮》が特に綺麗でした。
深みのある群青色のような青です。
ほかの作品の〈睡蓮〉では花びらに遣われていた赤みがかった紫色が、本作では花の根元の部分に遣われています。
睡蓮の花びら自体は薄い水色で、光にぽうっと照らされているような透明感のある透き通った画面がとても美しかったです。
藤、アガパンサス
「モネ 睡蓮のとき」では〈睡蓮〉以外の草花のモチーフの作品もいくつか見ることができます。
どれもこれもとっても可愛いくて大好きでした。
まず印象的だったのは《藤》。
横長の作品でもう一つの《藤》と2つ並んで展示されていて、本物の藤棚のように美しかったです。
薄紫の画面が伸びやかで、花の香まで漂ってくるようでした。
クロード・モネ《藤》1919-1920頃 マルモッタン・モネ美術館
もうひとつが《アガパンサス》。
くねっと伸びる茎に青みのある花が咲き、背景の薄紫と黄緑色とのバランスがとても幻想的でした。
クロード・モネ《アガパンサス》1914-1917頃 マルモッタン・モネ美術館
〈アガパンサス〉は睡蓮と同じ時期に咲く草花だそうで、本作でも手前にあるアガパンサスの先には睡蓮らしき花が一緒に描かれています。
また、この《アガパンサス》と関連する作品として下の画像の《睡蓮》の習作も残されています。
クロード・モネ《睡蓮》1914-1917頃 マルモッタン・モネ美術館
当初、〈藤〉と〈アガパンサス〉は大装飾画の構想の中で重要な役割を担うはずでした。
ところが、モネはこれらの花々による装飾の計画を取りやめ、壁一面を池の水面と光の反映で飾ることに決めます。
結果的に〈藤〉も〈アガパンサス〉も、実現されることのなかった幻の装飾のモチーフとなりました。
赤の絵具
モネが晩年に白内障に苦しめられたことは有名な話です。
「赤が泥の色に見える」
とこぼしたこともあったそうです。
モネは失明を恐れて手術をしていませんでしたが、83歳でほとんど見えない状態になると右目を手術。
見えるようになったものの、青みが強かったり、視界が黄色がかっていたりと完全に元通りにはならず、矯正用メガネを試しながら描きました。
クロード・モネ《日本の橋》1918-1924頃 マルモッタン・モネ美術館
一瞬の光を捉える色彩の世界を描くモネにとって、この目の状態はとても苦しかったはずです。
それでもモネは絵を描くのを諦めるなんてことはできませんでした。
この頃の作品は上の画像にある《日本の橋》のように赤が目立ち、タッチも荒々しいものが多いです。
私の母も白内障で「見えなくなった、見えなくなった」と言うことが増えました。
モネの葛藤はとても他人事とは思えず感情移入してしまいます。
10年くらい前にモネ展を観たときはこんな気持ちにはならなかったのに、自分も親も歳をとったのだなと思います。
クロード・モネ《ばらの小道》1920-1922頃 マルモッタン・モネ美術館
そんな葛藤の中でも、この《ばらの小道》はすごく美しい作品です。
薔薇の形はほとんど分からず潰れたようになっていますが、それでも何色も何色も色を重ねて薔薇のトンネルのようになった小道が見えてきます。
誰もが描けるものではないですよね。
悲しみのなかで
第一次世界大戦時、モネの家族も戦地に行き、モネの自宅があるジヴェルニーには連日大勢の死傷者が運ばれてきました。
それでもモネは引き続き絵を描き続けます。
この頃のモネの《睡蓮》はうなだれるように垂れ下がった〈枝垂れ柳〉の間から、悲しげに顔をのぞかせていました。
クロード・モネ《睡蓮》1916-1919頃 マルモッタン・モネ美術館
「大勢の人々が苦しみ、命を落としている中で、形や色の些細なことを考えるのは恥ずべきかもしれない」と思いつつも、その悲しみを乗り越えるには描き続けるしかなかったのだと言います。
モネにとって絵を描くことは生きることだったのだなと思いました。
お気に入り作品
「モネ 睡蓮のとき」の中でのお気に入り作品は2つ。
モネの最後のイーゼル画とされる〈ばらの庭〉の連作です。
展示された連作全4点のなかでも印象的だったのは、最初と最後の〈ばらの庭〉です。
クロード・モネ《ばらの庭から見た画家の家》1922-1924頃 マルモッタン・モネ美術館
連作の最初《ばらの庭から見た画家の家》は赤の世界。
左上奥にあるピンク色が画家の家だそうです。
下にあるのが薔薇の花なのかな。
赤と緑の色彩が力強く、モネの思いの強さがそのまま表れているように思えました。
一方、連作の最後《ばらの庭から見た家》は青の世界。
同じ風景を描いているのに、これだけ色が違うというのが不思議ですね。
どの形もはっきりしていない抽象画のような作品で、赤い〈ばらの庭〉とは異なる、清流のような清らかな印象を受けました。
クロード・モネ《ばらの庭から見た家》1922-1924頃 マルモッタン・モネ美術館
音声ガイドではこんなモネの言葉が紹介されています。
私が見ているものの形は歪んでいるし、色は誇張されていて、まったく恐ろしいようなものです。
今見えているように自然を見ろなどと宣告されるなら、目が見えないほうがマシで、いつも見ていた美しいものの思い出のほうを大切にしたいのです 。
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2024年の私の美術館巡りはこれで終わりです。
来年もたくさんの展覧会に行きたいです。
「 モネ 睡蓮のとき」 情報
グッズ
本展のグッズ売り場はそんなに規模は大きくありませんが、種類は多かったです。
ただ混みあっていてゆっくり時間をかけて選べるような感じではありませんでした。
人気商品はすでに売り切れていて、予約注文できるようでした。
グッズ売り場は 展示会場外にありますので財布を持たずに鑑賞しても大丈夫ですが、グッズ売り場に入るのにも並ぶ必要がありますのでご注意ください。
ポストカード
ポストカードは種類が多かったです。
とくに青い作品の種類が豊富で、《藤》など横長の作品に合わせた大判サイズのものもありました。
ポストカードは 165円(税込)
大判サイズになると 220円(税込)でした。
PETブックマーカー
ブックマーカーも買ってきました。
気に入ってしまった《藤》。
表ももちろん可愛いですが・・・
裏面の展覧会のロゴ入りのほうもかわいいです。
PETブックマーカーは 440円(税込)でした。
メタルブックマーカー
メタルバージョンのブックマーカーも買ってきました。
大装飾画制作で実現されなかった幻の主題の1つ《アガパンサス》の作品がモチーフです。
とても可愛らしい作品だったので、ブックマーカーになっていてとても嬉しい。
メタルブックマーカーは 1,100円(税込)でした。
ロール付箋
ロール付箋も買ってきました。
マスキングテープかと思って買ってきたら付箋だったんですけど、とても可愛いです。
モチーフの作品は本展「モネ 睡蓮のとき」のメインビジュアルにもなっている《睡蓮》で、作品と展覧会のロゴがプリントされています。
点線で綺麗に切り取れるようになっていて、付箋としても使いやすい工夫がなされています。
ロール付箋は 605円(税込)でした。
混雑状況
かなり人が多かったです。
平日のお昼過ぎに行ったのですが、ここまで混雑していた展覧会は久しぶりでした。
さすがモネ!!
あらかじめ事前購入チケットを買って行ったにも関わらず、入場するまでに20分くらい並びました。
当日券の場合は、チケットを購入するためにさらに並ぶことになります。
そんな感じなので、会場内でも非常に混雑。
常に近くに誰かがいるという状況でした。
第3章の撮影可能エリアでの混雑具合はこんな感じで(↓)、正直ゆっくり鑑賞できるような環境では全くなかったですね。
ここ以外のセクションもおおよそ同じような混み具合です。
広い空間になると少しはマシになります。
驚いたのが、グッズ売り場に入場するところでも並ぶことです。
グッズ売り場自体は展示会場の外(美術館の1階フロア)にありチケットなしで誰でも入ることができるのですが、まずは美術館の外の列に並び、中に入ってからも少し並びます。
実際の様子が画像(↓)のとおりで、手前にある赤のコーンがグッズ売り場に並ぶ列。
外と中でトータル20分くらい並びました。
ちなみに奥にある青のコーンはチケットを買うのに並ぶ列です。
グッズ売り場担当の係員さんの会話が聞こえてきたのですが、「平日に20分くらい並ぶのはまだいい方で、土日だと1時間くらいになる」とのことでした。
グッズ売り場に入ってからも、売り場自体が小規模なスペースなのでかなりの混雑。
買い物中も常に次の入場者がすぐそばで待っているため無言のプレッシャーもあり、あまりゆっくり買い物できる雰囲気ではありません。
ササっと選んで出てきました。
所要時間
所要時間は1時間半~2時間程度です。
混雑していたこともあり、いつもよりさらっと観てきた自覚があります。
チケット
チケットは 一般 2,300円(税込) です。
ウェブで事前購入するか、当日券かになります。
土日祝と2025年2月の全日程に限り日時指定券が導入されました。
少しでも待ち時間を短縮したいなら、ウェブで事前購入しておくことを全力でお勧めします。
音声ガイド
音声ガイドがあってとても良かったです。
会場がかなり混みあっていたので、音声ガイドのお話と音楽がなければ優雅な気分にはなれませんでした。
石田ゆり子さん(アーティストとしてはlilyさん)と大橋トリオさんのコラボ楽曲「私のモネ」がとてもきれいな曲でした。
YouTubeでも聴くことができます。
- ナビゲーター:石田ゆり子 さん
- 展覧会テーマソング:「私のモネ」
うた・作詞:lily さん
楽曲プロデュース:大橋トリオさん - 当日貸出価格:650円(税込)
- 収録時間:約30分
ロッカー
国立西洋美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料で、100円玉が必要 です。
あくまでも私が行った日の話ですが、まず入場するのに並ぶ必要があるので荷物を持ったままとりあえず並んでください。
一番前まで来たタイミングで係員さんにロッカーを使用したい旨を伝えると、列を抜けてさせてもらえます。
ロッカーに荷物を入れ終わったらまた係員さんに伝えれば、そのまま入場させてもらえました。
撮影スポット
本展「モネ 睡蓮のとき」では「第3章 大装飾画への道」が撮影可能です。
また、展覧会会場入り口のフロアの窓ガラス(↓)もとても綺麗です。
巡回
「モネ 睡蓮のとき」は 東京 → 京都 → 愛知 と巡回予定です。
詳しくは次の開催概要まとめをご覧ください。
開催概要まとめ
お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください。
開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です。
展覧会名 |
モネ 睡蓮のとき |
● 東京 |
2024年10月5日(土)-2025年2月11日(火・祝) |
● 京都 |
2025年3月7日(金)--2025年6月8日(日) |
● 愛知 |
2025年6月21日(土)-9月15日(月・祝) |
開室時間 |
9:30 〜 17:30 |
休館日 |
月曜日、 12/28(土)-1/1(水・祝)、1/14(火) |
混雑状況 | 平日昼・かなり混雑 |
所要時間 | 1時間半~2時間半 |
チケット | 一般 2,300円(税込) 事前購入していくことを全力でお勧め |
ロッカー | あり/無料/100円玉必要 |
音声ガイド | 当日貸出 650円(税込) |
撮影 | 撮影可能エリアあり |
グッズ | 展示会場外にあり/小規模/かなり混雑 |
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関連情報
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京(上野) → 福岡 → 東京(八王子) → 大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」
2025年1月26日(日)まで三菱一号館美術館で開催。
美術館コレクションの中核であるロートレックの作品たちと、フランス現代アーティストであるソフィ・カル氏のコラボレーションです。
生涯にわたって「存在」する人物を描いたロートレックと、「不在」をテーマに作品をつくるソフィ・カル。
「不在」と「存在」が時代を超えて混ざり合うなんとも心に刺さる展覧会でした。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「ロートレック展 時をつかむ線」
2025年4月6日(日)まで「東京 → 北海道 → 長野」と全国を巡回中。
素描が多めですが有名なカラー作品の展示ももちろんあります。
滑らかでするっと伸びる線一本一本がセンス抜群な感じ…!
100年以上前の作品なのに古さを感じさせないのがロートレックの魅力だなと改めて感じられた展覧会で、とても楽しかったです。
●「カナレットとヴェネツィアの輝き 」
2025年6月22日(日)まで「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
たくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
カナレットをはじめ画家それぞれが自らのヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、とても穏やかな気持ちなれる展覧会でした。
▼これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916-1919頃 マルモッタン・モネ美術館
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