世田谷美術館の
『グランマ・モーゼス展 - 素敵な100年人生』に行ってきました。
砧公園内看板より撮影
どの絵も明るくてあったかくて、自然と笑顔がでてくるものばかりでした。
農場の主婦として伝統的なアメリカのライフスタイルを歩んだモーゼスおばあちゃん。
70歳を過ぎてから本格的に絵を描き始め、101歳の大往生をとげた素敵なおばあちゃん。
力づよくて幸せいっぱいの展覧会でした。
『グランマ・モーゼス展』の感想と楽しいポイント
グランマ・モーゼス - 素敵な100年人生
グランマ・モーゼスは
アメリカではだれもが知っている有名アーティストです。
70代から本格的に絵を描き始め、
80歳の時にニューヨークで初めての個展を開くなど、人生の晩年に大ブレイクしました。
グランマ・モーゼスの描く明るくて素朴な風景は、第2次世界大戦や東西冷戦で心を痛めたアメリカの人々の気持ちを癒し、元気を与えるものでした。
●愛称グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)
●ニューヨーク州東部の農家と亜麻布工場を営む家に生まれる
●緑豊かな草地と手つかずの森のある土地で自然に囲まれて育つ
●12歳のときに奉公に出てから、裁縫や料理、家事を覚える
●27歳でトーマス・サーモン・モーゼスと結婚
●農家の主婦として働き、手作りのポテトチップやバターを作って生計を立てながら、自然とともに丁寧で素朴な暮らしを営み、家庭を切り盛りしてきた
●72歳のとき、娘のすすめで最初の刺繍絵を制作
●リウマチで針仕事が難しくなると、次第に絵を描くようになる
●75歳で本格的に絵を描き始める
●地元のドラッグストア主催の活動に作品を出品したことがきっかけで、無名な蒐集家の目にとまる
●作品がニューヨークに持ち込まれ、モーゼスの絵に感銘を受けた画廊が彼女の展覧会を開催
●いくつかの重要な展覧会を経て、大ブレイク
●101歳でこの世を去るまで、素朴な暮らしを紡ぎながら絵を描き続けた
針から筆へ ― グランマ・モーゼスのはじまり
グランマ・モーゼス《海辺のコテージ》1941年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
グランマ・モーゼスが生きていた時代、裁縫は女性にとって非常に大切な教養のひとつでした。
モーゼスは
本格的な絵を描き始める前に、このような刺繍絵をたくさん制作しています。
カラフルで明るい色をふんだんに使った刺繍絵は、友人や家族にもプレゼントされていたそうです。
その後、リュウマチによって刺繍をするのが難しくなると、妹のすすめで絵を描くようになりました。
グランマ・モーゼス《窓ごしに見たフージック谷》1946年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
モーゼスは、絵を描く際に「窓」を想像して風景を切り取って描くのだそうです。
刺繍をするときに布を刺繍枠でひっぱりながら針を刺していきますが、その名残があるのでしょうか。
絵具をポンポンと置くように乗せるような描き方もまた、刺繍に通ずるものがあるように思います。
泣きたくなるような「くらし」の思い出
グランマ・モーゼス《アップル・バター作り》1947年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
グランマ・モーゼスの魅力は作品と共に、モーゼス自身のライフスタイルにもありました。
馬や牛や鶏を飼い、畑を耕し、自分で作物をそだてて作る料理。
家族と孫たち、近所の人々との暮らし。
はぎれを集めてキルトをつくったり、果樹園でアップル・バターをつくったり。
古き良きアメリカの伝統的な暮らしを営むモーゼスの姿は、戦争で傷ついた人々を癒し、どこか昔を懐かしみ慈しむような気持ちにさせました。
モーゼスの暮らしを撮ったドキュメンタリー映画はアカデミー賞にもノミネートされています。
グランマ・モーゼス《キルティング・ビー》1950年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
モーゼスのくらしに郷愁をそそられるのは、令和時代の日本でも変わらないように思います。
なかなかこんな丁寧な生活はできないけど、どこか懐かしいような、憧れのような、泣きたくなるような。
擦れた心に寄り添ってくれる作品ばかりでした。
ひとりひとり、ひとつひとつ
グランマ・モーゼス《シュガリング・オフ》1955年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
グランマ・モーゼスの絵は観ていてすごく楽しいです。
遠くまでひろがる広大な景色と、たくさんの登場人物たち。
それらもまた、ひとつひとつ、ていねいに描き分けられているからです。
動物にいたるまでそれぞれに個性があって、生き生きとしていて、モーゼスが周囲のことをよく観察していたのだろうことが伺えます。
どの人物に注目しても主役になり得るし、名わき役にもなり得る。
優劣がないというか、
世界全体を大きく包み込むような愛情がありました。
グランマ・モーゼス《雷雨》1948年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
近頃は、どのニュースをみても自分の力のおよばない場所で信じられないようなことが起こっていて、たくさんの人が苦しんでいて、本当にどうしようもない世の中だなと思ってしまいます。
自分や家族にも起こり得るかもしれない。
毎日しっかりと起きて、食べて、働いて、寝て。
特別なことなんかいらないから、ただそれだけでいいのにな、と思います。
グランマ・モーゼス《虹》1961年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ寄託)
モーゼスの絵は
なんでもない毎日の大切さや、素朴であることの愛おしさを思い出させてくれました。
どの作品にも愛があって希望があって、
生きていくことや老いていくことの恐怖を和らげるように、そっと背中を支えてくれるような優しさがありました。
100年後も、200年後も、
きっとずっとたくさんの人たちに生きる力を分け与え続けていくのだろうなと感じました。
観に行けて本当によかったです。
ぜひ、観てみてください。
『グランマ・モーゼス展』情報
グッズ
とても充実した品数でした。
モーゼスの絵は、どんなアイテムになってもかわいらしい…!
ポストカード、文具、しおり、お菓子などなど。
だれにあげても喜ばれる素敵なアイテムばかりです。
図録
図録、買ってしまいました。
モーゼスの作品は登場する人や動物を細かく観たいなと思うので、図録を買ってよかったです。
展示作品紹介のほかにも
モーゼスの「ゆかりの地マップ」や「年譜」など知りたい情報がたっぷり詰まっています。
図録 2,700円税込
全208頁。
音声ガイドを購入したら200円割引券がもらえたので、すこしお安く買えました。
ポストカード各種
ポストカードもたくさん種類があり、お気に入りの作品がひとつは見つかると思います。
3種類あるのでどれも買ってきました。
こちらが通常のポストカード。
印刷もきれいで色がよく出ています。
ポストカード 各150円税込
そして、変わり種がこちら。
布でできたメッセージカードと、糸巻型のメッセージカードです。
刺繍絵をしていたモーゼスらしいグッズだと思いました。
糸巻型メッセージカード 各275円税込
「布だより」の方はその名のとおり布でできたメッセージカードです。
絵の面は布、裏面は紙製でメッセージと宛名を書けるようになっています。
布だより 各220円税込
ふつうのポストカードとはまた違ったやさしい色出しがかわいいです。
クリアしおり
必ず買ってしまうしおり。
使いやすいクリアタイプは10種類以上あり選ぶのがたのしかったです。
クリアしおり 198円税込
下敷きみたいな素材で
金属のしおりよりも日常使いしやすいタイプです。
クリアしおりというだけあって、光に充てるとこんな感じで透けます。
かわいい。
ひとつ200円以下とお値段もしないので全種類ほしくなってしまいました。
お菓子
美術館グッズではお菓子も定番。
家ですこしずつ愛でながら食べるのが楽しいですね。
金平糖 454円税込
私は「金平糖」と「プリントクッキーアソート」を選びました。
金平糖は3種類あり、私は青色をチョイス。
プリントクッキーアソート 756円税込
クッキーアソートの方は、なんとモーゼスの作品が全面プリントしてありました。
細かいところまでよくできています。
お土産にも良さそう。
食べるのがもったいないです。
5,000円以上で…
世田谷美術館では、5,000円以上でなんとモーゼス展のポスターがもらえました。
おそらく街中に貼ってあるのとおなじ、大きいサイズです。
素敵なサプライズでした。
混雑状況・所要時間
私は祝日(雪の予報があった次の日)に行きました。
事前予約していきましたが
それほど混雑しておらず、当日券でも入れない事は無かったと思います。
所要時間は展示だけなら1時間半くらい。
ゆったりと思い思いに見ることができました。
音声ガイド
ナビゲーターは「北の国から」の俳優・吉岡秀隆さん。
スペシャルトラックはタレントの結城アンナさんで、税込600円です。
映像作品の鑑賞スポットあり
世田谷美術館の場合、
展示会場外(美術館内の誰でも閲覧できるスペース)にモーゼスのドキュメンタリー映画の一部が観られるスポットがあります。
映像は10分程度です。
モーゼスの自然に囲まれたくらしがどのようなものかがよくわかりますので、できれば少し早めに美術館に到着して、映像を観てから展覧会を鑑賞するのがおすすめです。
ひ孫たちに囲まれて
お花を摘んだり馬をつかったり…モーゼスの絵の中にいるようでした。
フォトスポット
世田谷美術館では、美術館の入り口目の前にモーゼスの写真が飾られていて、撮影OKです。
花柄のエプロンに、レースの袖が素敵でした。
チケット
世田谷美術館では日時指定予約制で 一般1,600円でしたが、チケット料金は開催地域によって異なるようです。
空きがあれば当日券でも入ることができ、私が行った日はどの時間帯も満員になっていませんでした。
会期終了間際はすこし混雑するかもしれません。
私は、オンライン限定の「グッズ・セット券」を購入しました。
「グランマのメープルシロップせっけん」がついて2,180円です。
グランマのメープルシロップせっけん 880円税込
「グランマのメープルシロップせっけん」はメープルシロップを練り込んだオリジナルレシピによる石鹸で、モーゼスの作品《シュガリング・オフ》からインスピレーションを得ているのだそうです。
グッズ売り場でも購入できますが、チケットとセットの方が300円お安いです。
ロッカー
世田谷美術館では無料のロッカーが利用できます。
100円玉が必要です。
巡回
本展は5都市(大阪 → 名古屋 → 静岡 → 東京 →広島)を巡回中。
残すは広島県のみとなります。
くわしくは次の開催情報をご覧ください。
開催情報
展覧会名 | 生誕160周年記念 グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生 |
公式サイト | 展覧会特設サイト モーゼス展Twitter:@grandmamoses100 |
東京(終) | ・会場:世田谷美術館 ・美術館公式Twitter:@setabi_official ・会期:2021年11月20日(土)~2022年2月27日(日) |
チケット | 日時指定予約優先 一般 1,600円 |
所要時間 | 1時間半~2時間程度 |
ロッカー | 無料(100円玉必要) |
混雑 | ゆったりと観られる |
音声ガイド | ナビゲーター:俳優・吉岡秀隆さん スペシャルトラックはタレントの結城アンナさん 税込600円 |
撮影スポット | あり |
グッズ | 充実 |
大阪(終) |
・会場:あべのハルカス美術館 ・会期:2021年4月17日(日)〜6月27日(日) |
名古屋(終) |
・会場:名古屋市美術館 ・会期:2021年7月10(土)~9月5日(日) |
静岡(終) |
・会場:静岡市美術館 ・会期:2021年9月14(火)~11月7日(日) |
● 広島 |
・会場: 東広島市立美術館 ・美術館公式Twitter:@hhmoa_twi ・会期:2022年4月12日(火)~5月22日(日) |
※お出かけ前に公式サイトをご確認ください
おまけ:『グランマ・モーゼス展』をもっと味わう
おまけⅠ:広島展は桜色
巡回展では地域ごとにチラシのデザインがちがっておもしろいです。
巡回ラストとなる広島展では桜色。
モーゼスが編んだお気に入りのショールもこんな色でした。
春の季節にぴったりです。
おまけⅡ:グランマ・モーゼスの言葉
思い返してみると、わたしの生涯というのは、
一生懸命に働いた一日のようなものでした。
仕事は遂行され、わたしは充足を感じます。
わたしは幸福で、満足でした。
わたしはそれ以上のものも知らなかったし、人生がくれたものを最大に享受しました。
そして、人生とは、わたし達自身が創るものなのです。
常にそうであったし、これからもそうあり続けることでしょう。
p.231-232抜粋
グランマ・モーゼス展では、
会場内のいたるところにモーゼスの言葉がちりばめられています。
1952年に出版された自伝『私の人生』から抜粋された言葉たちで、日本では1983年に『モーゼスおばあさんの絵の世界 - 田園生活100年の自伝』として出版されました(1991年に新版が刊行されています)。
モーゼスの言葉が添えられたことで作品がより一層輝いてみえましたし、自分の人生の晩年もこんな風になれたらなと思ったりしました。
興味がある方は、読んでみると楽しいですよ。
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▼印象派よりもずっとまえにいち早く戸外制作にくりだしたのが、イギリス画家コンスタブルです。
気象学を理解して雲の絶妙な変化を細かく描き分け、ゴッホも憧れた農民画家ミレーが属する「バルビゾン派」に大きな影響を与えました。
▼Twitterでは、気ままに美術や読書についてつぶやいていますのでよかったら見てください。
▼参考
・『モーゼスおばあさんの絵の世界 - 田園生活100年の自伝』アンナ.M.R.モーゼス 未来社
・グランマモーゼス展図録
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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