SOMPO美術館の
「 フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」 に行ってきました。
モノクロの素描作品が多かったので、
カラフルな作品を期待する方にはもしかしたらちょっと「あれ?」となるかもしれないんですけれども、個人的には楽しく鑑賞できました。
線の一本一本にセンスがあってすっごく格好いいので、暑い中でも観に行ってよかったです。
「ロートレック展 時をつかむ線」 感想
ロートレックと夜の世界
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年―1901年) は19世紀末のフランスを代表する画家です。
夜の街で働く人たち ― 歌手、俳優、踊り子、芸人、娼婦などをモデルに制作した「リトグラフ」や「ポスター作品」で有名になり、フランス・アールヌーヴォー期に活躍しました。
ロートレックはフランスの最も古い伯爵家(貴族の家系)の生まれです。
もともと身体が弱かったことに加えて、15歳頃に2回の骨折をしたことで下半身の成長が止まってしまいました。
身長は150センチほど。
帽子をかぶってお髭を生やした写真が有名です。
障害によって差別を受けるようになったロートレックが居場所としたのが、さまざまな芸術家や知識人たちが集まるパリ・モンマルトルでした。
モンマルトルのキャバレーや娼館に出入りし、自分と同じく世間から差別を受けながら働く女性たちに共感したロートレックは、彼女たちをモデルに愛情をもって作品を制作。
やがて、その作品たちはパリの人々から愛されるようになりました。
36歳で短い人生の幕を閉じたロートレックですが、
その技術の詰まったラフと大胆な構図、色彩感覚は、100年以上の時を経た現代でも古臭さを感じさせません。
ロートレックのモデルたち
ジャヌ・アヴリル(ダンサー)
《ジャヌ・アヴリル(文字のせ前)》1893 リトグラフ(左)
《ジャヌ・アヴリル(『ポスター傑作集』)》1895 リトグラフ(右)
ジャヌ・アヴリル はシャンゼリゼの「ジャルダン・ド・パリ」に出演したダンサーです。
ジャヌに魅了されたロートレックは彼女をモデルに数々の絵画や版画を制作しました。
写真(左)はポスターになる前の文字なし状態の作品です。
このようにロートレック展では、文字を載せる前の作品単体の状態を楽しむことができるものがいくつかあります。
《ディヴァン・ジャポネ》1893 リトグラフ
ロートレックが ジャヌ・アヴリルを描いた作品では、こちらの方が有名ですね。
「ディヴァン・ジャポネ」という日本風の装飾が施された長椅子の宣伝用ポスターです。
《ディヴァン・ジャポネ》1893 リトグラフ(部分)
この表情の描き方がとても好きです。
スタイルが良くて綺麗な女性なのでしょうが、ただ美化しているわけではない感じ。
暗がりで光るステージと黄色の椅子、女性のオレンジ色の髪がアクセントになっています。
【『レスタンプ・オリジナル』誌表紙》 1893頃 リトグラフ
ジャヌはロートレックの理解者の一人でもあったそうです。
ロートレックは彼女を版画集《『レスタンプ・オリジナル』誌表紙》にも登場させていますし、ジャヌ自身もロートレックにポスターを注文するなどしていました。
アリスティド・ブリュアン(歌手)
《エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて》1892 リトグラフ
アリスティド・ブリュアンはモンマルトルのスター歌手です。
このポスターは ブリュアンが舞台「エルドラド」に出演する際にロートレックに依頼して制作されました。
「赤いマフラー・黒のつば広帽・ステッキ」というロートレックが描いたブリュアン象が人々に浸透したことで、ブリュアンはさらなる人気を博したのだそうです。
《キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)》1893 リトグラフ
ブリュアンがモデルのポスターではこちらの方が有名でしょうか。
ブリュアンのキャバレ「ミルリトン」の宣伝用ポスターです。
ブリュアンはこのポスターをとても気に入り、署名と番号入りでミルリトンでも販売しました。
斜めの構図が粋ですね。
ミシア・ナタンソン(編集長の妻)
『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター 1895 リトグラフ
雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』では1893年以降から芸術家による描きおろしの版画作品が掲載されるようになりました。
ロートレック以外にも、モーリス・ドニやヴァロットンなどのナビ派の画家たちが参加しています。
これは雑誌の編集長タデ・ナタンソンの妻ミシアがスケートをする様子を描いたものです。
"編集長の妻"を描いているというのが、ビジネスマンとしてのロートレックの一面を垣間見せている気がします。
芸術家というとどうしても世間とは切り離された別世界にいるイメージがありますが、ポスターや雑誌デザインに携わったロートレックには商業的・俗世間的な側面もあったのかな…?
だとしたらセンス抜群の天才ロートレックが、ちょっとだけ身近に感じられる気がしてきます。
まあこれは全部わたしの勝手なイメージで、ロートレックからしたら本当に彼女をモデルに描きたかっただけなのかもしれませんが。
とはいえこのロートレック展では、ロートレックの私的な写真や自身の母親への手紙などの展示もあり、ロートレックの人となりを少しだけ覗くことができます。
だから見る側としてはより一層作品に深入りして鑑賞したくなってくるんですよ…!
ロートレックの素描の数々
《『リンガー・ロンガー・ルー』を歌うイヴェット・ギルベール(『ル・リール』誌)》1894 リトグラフ
本展には"フィロス・コレクション"というタイトルがついています。
フィロス・コレクションとは、アメリカのベリンダとポール・フィロス夫妻が20年以上にわたって収集している総数300点以上のロートレック作品の個人コレクションのことです。
素描を中心に紙媒体の作品が多いそうで、コレクションは現在も増え続けているとのこと。
今回のロートレック展でもカラー作品よりも素描作品がとても多いです。
というか、ロートレック自体が素描がめちゃくちゃ多い画家で、その数は生涯で約5000点弱に及んでいます。
単純計算すると、素描を描き始めた7歳頃から最晩年の36歳まで 1日1点描いていることになるらしいです。
これ素描だけの数ですからね・・・恐ろしいものです。
簡単にササーっと描かれているように見えるし、モノクロなので派手さはありません。
でも、切り取り方がおもしろかったり、ラフの段階から表情に味があったりして、絵画好きとしては非常に楽しく鑑賞しました。
お気に入り作品
《マルセル・ランデール嬢の胸像》1895年 リトグラフ
ロートレック展での私のお気に入りは《マルセル・ランデール嬢の胸像》です。
マルセル・ランデールは当時のパリのトップ女優でロートレック作品では複数回モデルになっています。
この何とも言えない表情が良いですよね。
全体を通して、ロートレックが描く、とくに女性は人間性がにじみ出ているようですごく惹かれました。
撮影不可だったのですが 娼館の女性を描いた作品もすごく好きでした。
夜のイメージではなくて、彼女たちの人間味を大事にした描写になっています。
- 2-51. 展覧会『彼女たち』のためのポスター
- 2-52-1. 行水をする女(版画集『彼女たち』)
- 2-52-2. 髪をとかす女(版画集『彼女たち』)
- 2-52-3. 仰向けの女、疲労(版画集『彼女たち』)
ぜひ注目してみてください。
*感想は公式HPと本展解説も参考にさせていただきました
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「ロートレック展」の情報
グッズ
ロートレック展のグッズ売り場は、規模はそこまで大きくはないですが、ポストカードやクリアファイル、トートバッグやTシャツなど定番ものはすべて網羅されています
グッズ売り場は 展示会場内にありますので お財布を持ってお入りください。
ポストカード
ポストカードはたくさん種類がありました。
ロートレックの絵はやっぱりおしゃれで、ポストカードにはピッタリですね。
ポストカードは 165円(税込) でした。
メタルブックマーカー(しおり)
定番のメタルブックマーカーも買いました。
《エグランティーヌ嬢一座》がモチーフです。
メタルブックマーカーは精巧な作りなのがすごく好きです。
今回買ったものも、斜線の部分が美しくてモチーフの踊り子たちに負けていません。
ちなみに実際の作品でも同じ部分に(ここまで細かくはないですが)斜めの線が入っています。
よく見て作られているなと感じます。
メタルブックマーカーは 1,100円(税込) です。
ブックマーカー(しおり)
プラスチック版のブックマーカーも買いました。
お気に入り作品《マルセル・ランデール嬢の胸像》がグッズ化されていて嬉しくなりました。
裏表でデザインがすこし違います。
ブックマーカーは 440円(税込) です。
ポーチ(傘を持つ男)
《傘を持つ男》のポーチも買いました。
この絵、先ほどメタルブックマーカのモチーフになっていた《エグランティーヌ嬢一座》のポスターに添えられたイラストで、いわばメインではないんですね。
でもすごく可愛くて、いいなーと思っていたらやっぱりグッズ化されていた…。
さすがです。
裏面がチャコールグレーになっていて、裏地もついていました。
ポーチはほかにも数種類あり、 1,760円(税込) でした。
ガトーブール(焼き菓子)
焼き菓子が一つ入ったカンカンも買いました。
《ジャヌ・アヴリル(『ポスター傑作集』)》がモチーフになっていてます。
缶はスライド式です。
お菓子は一つだけなんですけど、まあこれは缶が目的で買う人が多いと思うので無問題ですね。
お菓子はバターたっぷり濃厚なお味で美味しかったです。
ガトーブール缶は 990円(税込) でした。
ブラインドポーチ(全8種)
開封するまで中身が分からない、ランダムポーチが売っていたので買ってみました。
こういう遊び心のあるグッズってすごく楽しいですよね。
私が当たったのは《『ラ・ヴァッシュ・アランジェ(怒れる牝牛)』誌」》のデザインのものです。
狙っていたのとは違ったけど、これにご縁があったということで。
ポストカードも買っていたのでお揃いになりました。
ポーチは裏地はないものの、裏面にロートレック展のロゴが印刷されていてこれまた凝ったデザインです。
ブラインドポーチは 880円(税込) でした。
缶バッジ ガチャ(全10種)
小銭があったので久しぶりにガチャガチャにもチャレンジ。
缶バッジとキーホルダーだったかな…と2種類くらいあって、私は缶バッジのガチャをやってみました。
ロートレックのデフォルメチックなかわいい自画像が当たりました。
ガチャガチャは 100円玉×4枚の 400円で、両替機もありました。
混雑状況・所要時間
6月下旬の平日夕方に行きました。
雨だったからかほとんど混んではいませんでした。
所要時間は 1時間半程度です。
チケット
チケットは当日券とネットの事前購入券の2種類です。
- 当日券:一般 1,800円
- 事前購入券:日時指定予約制で 一般 1,600円
事前購入券を当日に買うこともできるので、断然、200円安い事前購入券のほうがおすすめです。
私は美術館に入る30分くらい前に買いました。
混雑していなかったからか、予約時間より10分以上早く到着してもすぐに入場させてくれました。
音声ガイド
ロートレック展に音声ガイドはありません。
ロッカー
SOMPO美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーの使用は無料で100円玉も不要です。
撮影スポット
ロートレック展は展示作品のうち数点が撮影可能。
撮影可能作品は本文に載せているものがすべてです。
それ以外の撮影スポットは以下の4か所です。
- 美術館前の交差点の看板
- 美術館入り口の看板
- 展示会場内のポスター
- SOMPO美術館所蔵のゴッホの《ひまわり》
巡回
ロートレック展は 東京 → 北海道 → 長野 と巡回します。
詳しくは次の開催概要まとめをご覧ください。
開催概要まとめ
展覧会名 |
フィロス・コレクション |
● 東京 |
2024年6月22日(土)〜9月23日(月) |
● 北海道 |
2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日) |
● 長野 |
2025年1月18日(土)〜4月6日(日) |
開室時間 |
10:00 – 18:00(金曜日は20:00まで) |
休室日 |
月曜日 |
混雑状況 | 平日夕方・混雑なし |
所要時間 | 1時間半 |
チケット | 当日券 1,800円(事前購入券 1,600円) |
ロッカー | あり(無料/100円玉不要) |
音声ガイド | なし |
撮影 | 作品数点、他 |
グッズ | 展示会場内にあり/そこそこ充実 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
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関連情報
この秋、工事のためしばらく休館していた三菱一号館美術館が再開館するの、すっごくすっごく楽しみなんです。
再開館一発目の記念展覧会でロートレック作品が展示されます。
●『不在』―ソフィ・カルとトゥールーズ=ロートレック
会期: 2024年11月23日(土)〜2025年1月26日(日)
ちなみにその次がビアズリー展です。
● オーブリー・ビアズリー展(仮称)
会期: 2025年2月15日(土)〜5月11日(日)
今からワクワクしているんですよ。
どちらも必ず行きます!
●「写本 ーいとも優雅なる中世の小宇宙」
2024年9月29日(日)まで 東京→北海道 と巡回します。
国立西洋美術館の小企画展で過去3回にわたって展示された中世の可憐な内藤コレクションの「写本」。
本展はその集大成ともいえる展示です。
● 「TORIO展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回中。
パリ・東京・大阪の3つの美術館からテーマを決めて作品を3つトリオで展示しています。
自由な解釈で3つを見比べて楽しむ新しい展示構成がとてもおもしろく、知的好奇心が刺激される展覧会でした。
● 「デ・キリコ展」
2024年12月8日(日)まで 東京 → 大阪 と巡回します。
デ・キリコの全体像が分かる展覧会なうえ、独特・奇妙とおもしろい作風で飽きがこないので初見にも優しい展覧会です。
TRIO展にも1点、デ・キリコの作品が展示されているので、気に入ったらぜひこの大回顧展も。
● 「印象派 モネからアメリカへ」
2025年1月5日(日)まで、東京(上野) → 福岡 → 東京(八王子) → 大阪と巡回中。
印象派の波はヨーロッパだけでなく、海を越えたアメリカにも影響を与えていました。
アメリカらしい特徴を描いたアメリカ的な印象派作品にたくさん出会えます。
●「北欧の神秘」
2025年3月26日(水)まで「東京 → 長野 → 滋賀 → 静岡」 と1年をかけて全国を巡回中。
すーっごい素敵な展覧会でした。
北欧の風景というだけでもキラキラして聞こえるのに、絵画表現がとてもドラマチックだったりファンタジーだったりで観ているだけで楽しかったです。
●「エドワード・ゴーリーを巡る旅」
2023年に渋谷区立松濤美術館で開催したエドワード・ゴーリー展。
2024年9月1日(日)まで 千葉→神奈川 と巡回します。
絵本のなかの不思議でちょっと怖い世界感をモノクロの細かな線画で表現したイラストは見ごたえありです。
●「カナレットとヴェネツィアの輝き 」
2025年6月22日(日)まで「静岡 → 東京 → 京都 → 山口」と全国を巡回中。
たくさんのヴェネツィアの景色が堪能できました。
カナレットをはじめ画家それぞれが自らのヴェネツィアの思い出を語ってくれているようで、とても穏やかな気持ちなれる展覧会でした。
これまでの美術展の感想はこちらにまとまっています。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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