東京国立近代美術館の
「 大竹伸朗展 」に行ってきました。
BS日テレ「ぶらぶら美術館・博物館」で取り上げられたのを見ていたら行きたくなって、急遽観に行くことを決めました。
ぶら美では、大竹伸朗さんご本人が登場して一緒に展覧会を回りながら自らの作品を解説をしてくれた貴重な放送回でした。
これから書いていく大竹伸朗展の感想は、「ぶら美」で話された内容を織り交ぜながら個人的に楽しかったところを集めて書かせていただいております。
「大竹伸朗展」 感想
「大竹伸朗展」は大竹伸朗さん16年ぶりの大回顧展で、約500点近くの作品が集められた大規模展覧会になっています。
大竹伸朗《宇和島駅》1997 作家蔵
大竹伸朗さんの作品は、ふつうの人なら素通りしてしまうような廃棄物(スナックの扉や看板)も、大竹さんを介すことで作品として完成してしまうから不思議。
まず美術館の外からしてこれ(↑)ですから。
入る前からすでに、いい空気感をかもしだしていますよね。
現代芸術家・大竹伸朗の《自画像》
大竹伸朗《男》男 1974–75 富山県美術館蔵
大竹伸朗(おおたけしんろう)さんは日本を代表する現代美術家のひとりで、絵画・版画・彫刻・映像・巨大な建造物など、数多くの作品を手掛けています。
また、デザインや音楽活動、文筆活動など、アート以外の幅広い分野における活躍でも知られています。
大竹作品のほとんどは、大竹さんが出会った様々なものの模写や切り貼り、ただ対象を移動させてきただけのものなど、いわゆるレディメイド的な作品で形成されています。
大竹伸朗《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》 2012 作家蔵
「既にそこにあるもの」
と呼ばれるテーマのもとに、以前は別の誰かが所有していたものや街中に廃棄されていたものなどを組み合わせて作品が生み出されていきます。
大竹さん曰く
「全く0の地点、なにもないところから何かを作り出すことに昔から興味がなかった」。
大竹伸朗展のなかでもひときわ目を惹いた大作《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》もまた、「既にそこにあるもの」が寄せ集められた巨大作品です。
大竹伸朗《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》家の内部 2012 作家蔵
大竹さんはこの作品を作っている際
「自分の内側に入って拾った記憶を一個一個貼っているような錯覚に陥った」
と話しています。
家の中にある巨大なスクラップブックには、そのページ全てにスクラップが施してあるそうです。
大竹伸朗《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》 2012 作家蔵
ちなみにこの家と車の2つを合わせて一つの作品です。
本作は大竹伸朗展の最初のセクションに設置されていて、観る人を一気に大竹さんの生み出す世界観に惹き込んでいきました。
ニューシャネル
大竹伸朗《ニューシャネル》1998 作家蔵
廃業したスナックの扉でつくられた《ニューシャネル》は、今回の大竹伸朗展でもいろいろなところで使われている独特なフォント"大竹文字"の源となった扉です。
大竹さん自身が 制作拠点にしている宇和島の街中を歩いているときに偶然見つけたのがこの扉で、出会ったときは結構な衝撃があったといいます。
半年くらいかけてビルのオーナーを探すところから始まり、なんとか譲ってもらったのだそうです。
素人の手作り感が漂う"ニューシャネル"の文字のたたずまいと、酔っぱらったお客さんが蹴り飛ばしたらしき破損具合がいい味を出しています。
大竹伸朗《ニューシャネル》部分 1998 作家蔵
この《ニューシャネル》は今回の大竹伸朗展においては「移行」というセクションに属した作品です。
というのも、ニューシャネルの扉に大竹さんが手を加えたのは枠をつけたのみ。
「移行」セクションでは、「何処かから何処かまで場所を動かす(「移行」すること)だけで作品にしているもの」がテーマとなっていて、冒頭でふれた《宇和島駅》もまた、この「移行」セクションに属した作品になります。
大竹伸朗《ニューシャネル》部分 1998 作家蔵
大竹さんは言います。
「手を加えるとだめになる。芸術とかアートの本質は常に逃げてて、他人が見つけたとたんすぐ逃げる。僕の視点でアートと重ねて見つけたとたんに、ドアは残ったけど何か手に取れないものはもうすでにどっか違うニューシャネルの場を見つけている。」
網膜シリーズ
大竹伸朗展 網膜シリーズ展示風景
「夢/網膜」というセクションに並ぶのは、大竹伸朗さんの作品制作において1980年代から始まった「網膜シリーズ」です。
"夢"をテーマにした作品群で、大竹伸朗展のなかでも個人的に一番好きなゾーンでした。
大竹伸朗展 展示風景(すべて1988–90年制作・作家蔵)
作品は左から 《ファインダー像 VIII》/《ファインダー像 III》/《ファインダー像 VIII》/《Small Retina》
夢の中で見るものに興味を持ち
"光が当たるから物が見えるわけだが、夢のなかで目をつぶっているのになぜ物が見えるのか?"ということを考えながら生まれたシリーズなのだそうです。
大竹伸朗《網膜(クレバス)》1990 作家蔵
色の重なり方や混ざり合い方など
偶然性が非常に強い作品であり、そこがまた美しいのがこの網膜シリーズだと思います。
特に好きだったのは《網膜(クレバス)》です。
大竹伸朗《網膜(クレバス)》部分 1990 作家蔵
深くて濃い青なのに透けてみえる絶妙な色合いが本当に綺麗なんですよ…!
上に向かって伸びる山型の造形もまたエネルギッシュに感じました。
雰囲気ががらりと変わりますが、下(↓)の作品もまた網膜シリーズに属するものです。
大竹伸朗《網膜(ニュー・トン・オブ・タンジェ I)》 1992–93 作家蔵
「層」というセクションにあるのですが、実物は本当に圧巻です。
たくさんの写真が黄ばんだテープのようなもので縁取りされて貼り付けてあり、その膨大な数には目を見張るものがありました。
大竹伸朗《網膜(ニュー・トン・オブ・タンジェ I)》 1992–93 作家蔵
このオブジェは大竹さんがモロッコに滞在した時の印象を作品にしたもので、モチーフは「ハエ」。
たくさんのハエが飛び交うのを見て、"ハエが見たもの・ハエの網膜"を作品にしてしまったのだそうです。
作品にはプラスチック製のハエが600匹貼りつけられています。
本物が一匹だけ混ざっているのですが、どこだと思いますか。
象徴的な場所に入れられていて、上(↑)の画像に答えが隠れていますよ。
音
大竹伸朗《レディオ・ヘッド・サーファー》部分 1994-953 作家蔵
「音」というセクションもおもしろかったです。
「音」と聞いて映像作品を想像していた私ですが、大竹さんの作品はもうそのままというか…。
作品に音響機器がくっついています。
大竹伸朗《ゴミ男》部分 1987 東京都現代美術館
何ならコードが伸びているし、アンプが置いてあります。
自動演奏させるためにモーターが付いていたりします。
すっごく楽しいですよね。
そんな「音」セクションの最後、
大竹伸朗展のラストを飾る作品が《ダブ平&ニューシャネル》でした。
大竹伸朗《ダブ平&ニューシャネル》1999 公益財団法人 福武財団
ダブ平の"ダブ"はdub(ダブ)という音楽からとったらしいです。
ステージ中央にいるギターがバンドのリーダー・ダブ平、左のベースがボブ、右のギターがエイジ、ドラムがアダムとしっかり名前がついていてなんだかとってもキュート。
実際には幕の開け閉めや、遠隔操作で楽器が演奏できる仕掛けがあります。
カラフルな色合いと、モノの集合、音とモーター。
大竹伸朗さんの作り出す作品たちには、常識を覆すような奔放でパワーのある雰囲気があって、世界観がすごく好きだなと思いました。
観に行けて本当に良かったです。
大竹伸朗展・お気に入り作品
大竹伸朗展、とってもとっても楽しかったです。
惹かれた作品はたくさんあるのですが、今回は3つを選びました。
まずはやっぱり大竹伸朗さんと言えば、のスクラップブックですよね。
《2002 Night and Day》の雰囲気が好みでした。
大竹伸朗《2002 Night and Day》2002 作家蔵
今回の大竹伸朗展には、大竹さんの全スクラップブック作品・71冊すべてが展示されています。
ちなみに現在72冊目を制作中とのことです。
誰かの画集や作品集に直接印刷物を貼り込むことも多々あるようで、選ぶ基準は製本が丈夫どうかだそう。
てっきり真っ白なスケッチブックに貼っていると思っていたので、意外も意外でした。
大竹伸朗《時憶/フィードバック》2015 作家蔵
《時憶/フィードバック》もよかったです。
回転している円盤の上を延々と人形が転げまわっている作品で、時空の歪みに巻き込まれてしまったヒトに見えるおもしろい作品です。
大竹伸朗《残景0》2022.1.31 作家蔵
最後にやっぱり外せないのが《残景0》。
この大竹伸朗展のチラシにも採用されている作品になります。
実物は証明に照らされてキラキラ輝いているとっても美しいもので、金粉・樹脂・真珠などが埋め込まれて光っているようです。
完成までにどれだけの時間が費やされているのか想像できないほどに本当にいろいろなモノが貼り付けられていて、恐ろしいほどの密度でした。
大竹伸朗《残景0》2022.1.31 作家蔵
制作していても作品の終わり(完成)はすぐには分からない。
2~3か月 置かないと分からない。
結局2~3か月後に見て「ああ、終わってたな」ということも多い。
大竹さん曰く、「やりすぎないのがいい」そうです。
「大竹伸朗展」 情報
グッズ
「大竹伸朗展」のグッズ、いくつか買ってきました。
今回のグッズはすべて大竹伸朗さんご本人のデザイン・監修のもとに作られています。
ほかの美術展とは一味違ったものがおおくありました。
グッズ売り場は展示会場の外にありますので お財布を持たずに鑑賞してOK です。
キャンディ缶「ニューシャネル」
すごくかわいかったのが、ニューシャネルのキャンディ缶です。
ニューシャネルの独特の味のあるフォントがそのまま缶に浮彫されています。
缶は蓋が扉式になっているタイプで、作りも丈夫でしっかりしています。
これは缶が欲しくて買うグッズですよね。
しかしながら、ちゃんと中身のキャンディも凝っていました。
「ニュ」「-」「シャ」「ネル」のキャンディです。
しっかり遊び心があって楽しいアイテムでした。
キャンディ缶「ニューシャネル」は 1,430円税込 です。
活版ブックマーク
次は活版ブックマーク(しおり)です。
手で触ると凹みがある印刷で、紙製なので汚れやすくはあれど厚手で固めな質感です。
たしか色は蛍光オレンジ・蛍光ピンク・蛍光グリーン・黒の4種。
絵柄は3種類あったと思います。
画像は、オレンジ・セット1の種類です。
「すぐです、天の国」狙いで買いました。
活版ブックマークは各種 1,100円税込 です。
ワッペンシール「イチロー」
次はワニさんワッペンシールです。
なんだかかわいいので買ってしまいました。
いくつか種類があって、チューリップと悩みましたが「イチロー」にしました。
布製品に貼るにはアイロンが必要ですが、それ以外の製品にはシールステッカーとしてそのまま貼り付けことができるみたいです。
ワッペンシールは 1,210円税込 です。
Tシャツ「ニューシャネル」
最後はニューシャネルTシャツです。
ニューシャネルの抜けてる字体はTシャツになっても可愛くて、シンプルなデザインながらとってもお気に入り。
表は"ニューシャネル"
裏は"ケルン"
どちらも銀文字です。
Tシャツはこういったモノクロデザイン以外にもカラフルなイラストのものもあり、サイズ展開も豊富でした。
Tシャツ・ニューシャネルは 5,500円税込 です。
混雑状況・所要時間
大竹伸朗展 展示風景
12月末の平日夕方に行ってきました。
セクションによって人の多さもまちまちでしたが、会場が広いので特に不自由なくゆっくり鑑賞できました。
会期終了間際はもしかしたらもう少し混むかもしれません。
所要時間は1時半~2時間くらいです。
チケット
私は窓口で購入する当日券を利用しましたが、待ち時間なく入ることができました。
このような紙チケットがもらえて嬉しかったです。
予約優先Webチケットも販売しています。
(東京国立近代美術館ではWebチケット購入者にも当日入り口で紙のチケットを配布してくれた記憶があります。今回はどうなのか定かではありませんが…。)
チケットは、当日・事前に関わらず 一般 1,500円税込 です。
ロッカー
東京国立近代美術館ではロッカーが利用できます。
ロッカーの使用は無料ですが、100円玉は必要です。
経験上、平日でもいっぱいになっていることが多々ありますのでご注意ください。
写真撮影
「大竹伸朗展」は会場内撮影OKです。
撮影したい方はスマホやカメラをもって会場にお入りください。
音声ガイド・作品リスト
「大竹伸朗展」の音声ガイドはありません。
作品リストは会場配布は無く、「Catalog Pocket」というアプリで無料で閲覧できます。
なかには音声作品もありますので、事前にダウンロードしておくのがおすすめです。
音声作品を会場内で聴きたい場合は、当日にイヤホンを持参してください。
ちなみに、簡易版の作品リストと会場マップは 東京国立近代美術館公式サイトに掲載されています。
くわしくは以下をご確認ください。
巡回
大竹伸朗展は、東京展 → 愛媛 → 富山 と巡回予定です。
次の開催情報をご確認ください。
開催概要
「大竹伸朗展」の情報をまとめました。
※お出かけ前に美術館公式サイトをご確認ください。
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です。
展覧会名 | 大竹伸朗展 |
特設サイト | 特設サイトはこちら |
● 東京展 |
2022年11月1日(火)〜2023年2月5日(日) |
● 愛媛展 |
2023年5月3日(水)〜7月2日(日) |
● 富山展 |
2023年8月5日(土)〜9月18日(月) |
混雑状況 | 平日夕方は窮屈感なく観られた |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 一般 1,500円税込 |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | なし 作品リストと音声作品は専用アプリから 音声作品を会場で聴くならイヤホン持参 |
撮影 | 会場内撮影OK |
グッズ | ショップは会場外・豊富な品揃え |
おまけ
宇和島駅、光ります
大竹伸朗《宇和島駅》1997 作家蔵:ネオン点灯
東京国立近代美術館では、15時30分~21時まで《宇和島駅》のネオンが点灯されます。
光る時間帯を狙って行くのも楽しいです。
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関連情報
▼ 1月29日まで 三菱一号館美術館で「ヴァロットン ― 黒と白展」が開催。
センス抜群のモノクロの世界が、めちゃくちゃ良かったです。
▼ 2月5日まで、アーディソン美術館で「パリ・オペラ座-芸術の殿堂」が開催。
バレエとオペラと音楽と…芸術の原点ともいえるオペラ座の350年以上の歴史を一度にふれることができます。
常設展示もとっても良かったので、どちらの感想も書きました。
▼ 2月4日からは国立国際美術館(大阪)で「ピカソとその時代展」が開催。
ピカソ、パウル・クレーなどキュビズムの画家たちの作品が集結しています。
▼ 3月5日まであべのハルカス美術館(大阪)で「特別展アリス」が開催。
ご家族、お友達、デートで行っても楽しめる、アリスの世界を満遍なく満喫できる展覧会になっています。
▼ 1月29日まで、愛知県・豊田市美術館にて「ゲルハルト・リヒター展」が開催。
現代の大芸術家リヒターの大回顧展で、見ごたえがものすごい展覧会です。
日本初公開であり、ホロコーストを主題にした《ビルケナウ》はぜひ観ておきたい…!
▼ Twitterでは、気ままに美術や読書についてつぶやいています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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