三菱一号館美術館の
「ルノワール×セザンヌ ― モダンを拓いた2人の巨匠」に行ってきました。
印象派の巨匠・ルノワール、ポスト印象派の巨匠・セザンヌ、それぞれの作品を見比べながら鑑賞できる楽しい展覧会でした。
風景画、人物画、花や果物などの静物画 、、、、
「この分野ではルノワールが好き」
「この分野ではセザンヌが好き」
などと自分勝手にジャッジしながら鑑賞できてとっても楽しかったです。
この記事では美術展の備忘録として作品写真と共に展覧会の内容と感想を書いています。 ネタバレを避けてグッズなどの展覧会情報だけを知りたい方は「ルノワール×セザンヌ展 情報」までジャンプしてください。 |
「ルノワール×セザンヌ展」 感想
ルノワールとセザンヌ、ざっくり比較表
ルノワールは同時代の印象派の画家のなかでは珍しく労働者階級の出身でした。
一方、セザンヌは銀行家の息子であり、父親から巨額な遺産を受け継いで経済的な不安はなかったようです。
ルノワールとセザンヌはどちらも画家を目指してパリへ行きますが、アカデミーやサロンからの高く評価されたルノワールに対して、セザンヌの評価はなかなかに厳しいものでした。
1860年代初頭、ルノワールとセザンヌは印象派の画家たちを通じて知り合いました。
後にそれぞれ印象派、ポスト印象派を代表する巨匠として名をはせた二人の画家は、互いを尊重し、認め合える、生涯にわたって良好な関係を築いていったそうです。
南仏・プロヴァンスの地でともに作品を描くなど、家族ぐるみの付き合いもあったとのことです。
パリのアトリエに座るルノワール/レ・ローヴのアトリエに座るポールセザンヌ(撮影=エミール・ベルナール)/どちらも部分 オルセー美術館
ピエール=オーギュスト・ルノワール Pierre-Auguste Renoir |
ポール・セザンヌ Paul Cézanne |
●1841-1919年(享年78歳) | ●1839-1906年(享年67歳) |
●フランス中南部 リモージュ出身 ●貧しい仕立屋の息子として生まれる |
●フランス南部 プロヴァンス出身 ●銀行家の家庭に生まる |
●明るく社交的な性格 | ●人付き合いをあまり好まない性格 |
●経済的な事情から磁器工場で見習工として働く |
●絵の学校と、父の希望で大学の法学部どちらにも通う |
●印象派展とサロン両方に出展 この頃の代表作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》 |
●パリのサロンで落選続き 第1回と第3回の印象派展には出展したが厳しい批評が多かった |
●1890年、20歳年下のお針子アリーヌ・シャリゴと結婚 | ●1869年、オルタンス・フィケ(当時18歳)と知り合い、のちに同棲、結婚 |
●結婚後は妻や家族の日常をテーマにした作品を制作 | ●1878年、印象派からの離脱 後のキュビズムの元となるような独自の表現へ |
ルノワールとセザンヌ、果物
本展でまず出迎えてくれるのは二人の果物の作品。
私が特に楽しみにしていたのがルノワールの《桃》でした。
多種多様な色が模様のように重ねられた背景に、赤やピンクや黄色で美味しそうに熟れた桃が描かれています。
なんて可愛らしいんだろう!
ピエール=オーギュスト・ルノワール《桃》1881年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
セザンヌが描いた《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》と比べると、雰囲気の違いがおもしろいですね。
わらひもの装飾が施された壺は、セザンヌが好んで描いたモチーフだそうです。
ルノワールがいろいろな色を用いているのに比べると、セザンヌの作品は色数が少なめ。
どうやら、モチーフの形や空間を重要視していたようです。
歪んでいるように見えるテーブルとリンゴのモチーフは"THE・セザンヌ"って感じの作品ですよね。
ポール・セザンヌ《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》1890-94年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
果物の静物画のなかでは、圧倒的にルノワールの《桃》が好きでした。
というか、この《桃》を観たいがために展覧会に行ったといっても過言ではありません。
ルノワールとセザンヌ、風景
続いては風景画です。
これもまたルノワールとセザンヌ、二人の違いがはっきりと表れています。
ルノワールの《イギリス種の梨の木》は、印象派の画家たちの多くが魅了されたパリ郊外の町・ルーヴシエンヌの風景です。
全体的にしゅわわ~っとソフトフォーカスがかかったようですよね。
遠目で見るからこのように見えるのではなく、作品を間近で観察しても絵具が混ざっていて、ぼやけた感じに描かれているんです。
ルノワールって、最後の方は印象派の筆触分割(色を混ぜずに隣り合うように置いていく技法)の技法になじめずにフェードアウトしていった画家なのですが、なんだか、その理由が分かるような気がしました。
ルノワールの風景は、ふわっとしていて明るくて光をたっぷり含んだ透明感のある画面が印象的ですよね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《イギリス種の梨の木》1873年 油彩、カンヴァス オルセー美術館
それに比べて、このセザンヌの《赤い岩》。
描かれているのはセザンヌの故郷エスク=アン=プロヴァンスの近郊ビベミュス採石場なのですが、色が混ざるどころか分割されまくっているのが分かります。
近くで見るとそれぞれの色を縦、横、斜め、と一定の方向を意識して描かれています。
刺繍のクロスステッチとか、マンガの網掛けとか、そういう色の置き方に類似しているなと思いました。
風景画っぽくない、風変わりな雰囲気があります。
ポール・セザンヌ《赤い岩》1895-1900年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
風景画では、全体的にセザンヌの作品が好きでした。
新しい感じがして、ピカソやモンドリアンなど、のちの前衛芸術へと続いていく片鱗を観ることができた気がします。
ルノワールとセザンヌ、家族
次は人物画。
ルノワールとセザンヌ、それぞれの家族を描いた作品が印象的でした。
ルノワールの《ガブリエルとジャン》では、ルノワールの次男ジャンくんと、乳母のガブリエル・ルナールがモデルになっています。
全体的にオレンジや黄色などの暖色が使われていて、ジャンくんのぷくぷくした肌の質感、ガブリエルの張りのある女性的な肌の質感がよくわかります。
暖かく家庭的な雰囲気があり、二人の人柄まで伝わってくるようでした。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《ガブリエルとジャン》1895-6年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
対照的に、セザンヌの《セザンヌ夫人の肖像》では全体的に冷たい印象。
表情も乏しく、椅子に座っているだけで動きが少ない作品です。
本作品以外にも、セザンヌが自身の息子を描いた肖像も展示されているのですが、やっぱり無表情で寂しい雰囲気でした。
息子から父セザンヌには「もう少しモデルを大事にして」とクレームが入っていたそうですよ。
どうやらセザンヌはモデルに「動くな」という厳しい指令を出していたらしく、何だか静物画と同じようなテンションで人物画に取り組んでいたのかなと思いました。
ポール・セザンヌ《セザンヌ夫人の肖像》1885-95年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
とはいえ、人物画に関しては圧倒的にセザンヌのほうが好きなんですよね。
ルノワールのあたたかくて幸せな感じも嫌いじゃないんだけど、、、
表情が綿密に描かれていて人物だけをフューチャーした作品が多いルノワールに対して、セザンヌが描く淡白で感情を押し付けない作風のほうが、なんとなく居心地が良いんですよ。
私は モーリス・ドニやピエール・ボナールなどナビ派の画家の人物の絵(ナビ派はセザンヌを絶賛していました)が大好きなのですが、ナビ派はセザンヌに比べて暖色を使った可愛い作品も多いけど、表情を綿密に描いていない点はセザンヌに通じるところがあります。
人物重視というよりも、背景を含めた画面全体で色や形や雰囲気を楽しむ感じの人物画というか。
今回の展示で、今更ながら自分の好きな傾向が分かった気がしました。
ルノワールとセザンヌ、静物
印象派の画家たちは「静物画」というジャンルを刷新していったと言われています。
それまで絵画のジャンルの中ではヒエラルキーの最下層にあった「静物画」でしたが、印象派の画家たちによってさまざまな表現が実験的に試され、新しい描き方で描かれました。
我々の(印象主義の)運動で一番重要な点は、
絵画を主題から解放したことにあるという気がする。
私は、花を描いて、それをただ「花」と呼ぶことが出来る。
それに何かの物語を語らせる必要はないのだ。
これはルノワールの言葉です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《いちご》1905年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
ルノワールの《いちご》は暖かな色調と、モチーフを集めた密度のある構図など、ルノワールの特徴が存分に反映された作品です。
おとぎ話のなかで優しいおばあさんがお庭で育てた苺を子どもたちにふるまってくれる、みたいな暖かな光景が思い浮かびます。
ポール・セザンヌ《花と果物》1880年頃 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
セザンヌの《花と果物》もとても可愛らしい作品でした。
背景やテーブルには冷たい色調を用いながらも、花とレモンとオレンジには暖色系が使われていて配色のバランスが絶妙です。
セザンヌは印象派の画家との交流を経て次第に明るい作風になっていったそうですが、これもまたその影響なのでしょうか。
静物画では、ルノワールもセザンヌもどちらも好きでした。
お気に入りの2枚
今回は2つの花の作品を選びました。
ルノワールの《桟敷席の花束》は劇場をテーマに描かれたものです。
劇場の桟敷席(一般席よりも一段高く設けられた特別席)に薔薇の花束が置かれた本作は、ルノワールの暖かな色彩とはまた一味違ったドラマチックな雰囲気をかもし出しています。
この花束の意味するところは何なのか、人物が描かれていなくても物語が始まりそうな想像力を掻き立てる素敵な作品です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《桟敷席の花束》1880年 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
セザンヌの《青い花瓶の花》もまた良かった!
実はこの作品は1つ前にご紹介した《花と果物》と、もともとは同じ1つの絵画でした。
20世紀初頭に数枚に切り分けられてしまったのだそうです。
背景が全体的に冷たい色調だからこそ、花びらのささやかなピンク色がこんなにも引き立って見えるから不思議。
分割されていなかったら本当はどんな絵だったのか、観てみたかったなと思います。
ポール・セザンヌ《青い花瓶の花》1880年頃 油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
ルドンの展示もあり
本展では、オディロン・ルドンの作品も数点展示されていてすっごく嬉しかったです!
ルドンは、ルノワールとセザンヌのちょうど真ん中、1840年に生まれたフランスの画家です。
印象派の画家たちと同世代でありながら、「象徴主義」と呼ばれる、印象派とはまた違ったジャンルで活躍しました。
夢や幻の世界を描いている作品が多く、現実味のない不思議な世界観が魅力なんです。
オディロン・ルドン《小舟》1900年頃 パステル、紙 三菱一号館美術館寄託
なかでも本展で観られた《小舟》はめちゃくちゃ美しかった!
暗いネイビーブルーの背景も惹き込まれるものがありますし、小舟に乗った聖女たちの光がまた印象的です。
実物では蛍光色の絵具を使っているかのように強い光を感じる作品で、聖女たちの服が周囲に比べてより鮮やかな色になっていることも相まって、よりオーラのある神聖な雰囲気をかもし出しています。
しばらく観ていたくなる作品でした。
オディロン・ルドン《グラン・ブーケ(大きな花束)》1901年 三菱一号館美術館
そして、三菱一号館美術館に行くたびに観られる《グラン・ブーケ(大きな花束)》。
今回は撮影OKだったので撮ってきました。
数か月振りの再会です。
うん、やっぱり大好きです。
「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」、とても楽しかったです。
暑かったけど行ってよかった!!
「ルノワール×セザンヌ展」情報
グッズ
ルノワール×セザンヌ展のグッズは小規模ながら定番グッズがそろっています。
Tシャツやボールペン、メモ帳、コーヒーなどありましたが、今回は少しだけ買ってきました。
ショップは展示会場の外にありますが「展示会場出口 → 小展示室 → ショップ」と流れるルートになっていますので、お財布を持って鑑賞したほうがスムーズです。
ポストカード
まずはポストカード。
ルノワールもセザンヌも同じ枚数で買ってきました。
今回はほとんどの作品で撮影ができたので、気に入ったものを少しずつ。
ルノワールの薔薇の静物がなかったのは残念でしたが、念願だった《桃》はゲットしてきました。
ポストカードは1枚 165円(税込)でした。
ステッカー
ステッカーも買ってきました。
ルノワールの《花》をトリミングしたステッカーで、図らずも当日していったネイルと色合いがピッタリでした♪
手帳に貼ります!
ステッカー「花」は 440円(税込)でした。
音声ガイド
ルノワール×セザンヌ展は会場での機器貸出による音声ガイドあり。
ルノワールとセザンヌそれぞれが自分自身を紹介してくれるという設定なので、普通の音声ガイドよりもハードル低めで楽しく聴くことができると思います。
- 当日貸出価格:650円(税込)
- ルノワール役:声優・羽多野 渉 さん
- セザンヌ役:声優・細谷 佳正 さん
混雑状況
平日のお昼過ぎに行ったのですが、そこまで混雑していませんでした。
所要時間
所要時間は1時間~1時間半程度です。
私の場合は、解説をすべて読み、音声ガイドを聴きながら、各エリアを写真を撮りつつ2周くらいして1時間半弱でした。
チケット
チケットは 一般 2,500円(税込) です。
日付指定なし、窓口でもWeb事前購入でも同じ値段です。
窓口で長時間並ぶ可能性は少ないとは思いますが、窓口なら絵柄チケットが貰えるといった特典もないと思われますので、Webで事前に買っておくことをおすすめします。
私は「印象派をめぐる旅チケット」というセット券を購入しました。
これは今回の「ルノワール×セザンヌ展」と10月に国立西洋美術館で開催予定の「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語展」の両展のセット券で、単品で買うよりも600円安くなります。
Webで購入した後に、三菱一号館美術館の窓口で画像(↑)のような紙のチケットと交換するシステムです。
「ルノワール×セザンヌ展」は鑑賞し終わったので左側の半券が切られていて、「印象派―室内をめぐる物語展」の赤い半券はまだ残っています。
両展とも観に行こうと思っている方はこのチケットがとってもおすすめです(日付指定不要で会期中いつでも行けます)。
ロッカー
三菱一号館美術館では無料のロッカーを利用できます。
ロッカーは鍵式で100円玉不要です。
撮影スポット
ルノワール×セザンヌ展の展示作品は、一部を除きほとんどの作品で撮影OKです。
巡回
ルノワール×セザンヌ展は世界巡回展です。
イタリア、スイス、香港を経て、日本にやってきました。
日本ではこの三菱一号館美術館が唯一の開催地になりますので、それ以外の場所での巡回はありません。
展覧会情報まとめ
お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください。
以下はすべて東京展の情報です。
展覧会名 |
オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより |
● 東京会場 |
2025年5月29日(木)~9月7日(日)
|
開室時間 |
10:00-18:00
|
休館日 |
月曜日
|
混雑状況 | 平日昼・混雑していない |
所要時間 | 1時間~1時間半 |
チケット | 一般当日 2,500円 窓口もWebも変わらないのでWeb事前購入推奨 |
ロッカー | 無料/100円玉不要 |
音声ガイド | あり |
撮影 | 展示会場内の一部を除き撮影OK |
グッズ | 「展示会場外」にて小規模 |
巡回 |
なし |
番外編:《ピアノを弾く少女たち》のアイシャドウ
今回のルノワール×セザンヌ展では、ルノワールの代表作《ピアノを弾く少女たち》が展示されています。
私は美術館巡りには及ばないものの結構コスメも好きなので、作品を観たときに 「これは MilleFée(ミルフィー)の絵画アイシャドウで使われてた作品だ(全く同じではないけど)!」と思い出しました。
(私が持っている種類は、ルノワールの「花束」であり「ピアノを弾く少女たち」はないのですが、、、)
思わぬ結びつきでした。
こういう偶然がきっかけでコスメが好きになったり、反対に絵画鑑賞が好きになったりすることもありますよね。
気になる方はぜひチェックしてみてくださいね ^^
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関連情報
■「モネ 睡蓮のとき」
2025年9月15日まで「東京 → 京都 → 愛知」と全国を巡回中。
モネの睡蓮ばかりを集めた、睡蓮づくしの展覧会です。
また、晩年のジヴェルニーの自宅で描いたバラの庭の作品も素晴らしかったです。

■「異端の奇才 ビアズリー展」
2026年1月18日まで「東京 → 福岡 → 高知」と全国を巡回中。
25年の生涯を駆け抜けた新進気鋭の画家 ビアズリーの作品がたくさん集められています。
あの独特な毒のある絵柄がたまりません。

■「オディロン・ルドン ― 光の夢、影の輝き」(終了)
ルドンの「黒」から「色彩」への画風の変容を一望できます。
ルドン流進化論といわれる石版画集『起源』が9点揃って展示されますし、油彩やパステルの作品の美しさをあふれんばかりに味わえます。
今のところ2025年に観に行った展覧会のなかでもNO.1に大満足の展覧会でした!
最推し画家の展覧会なので当たり前ではあるんですけどね!

▼ 2020年から観に行った美術展の感想はこちらにまとめています

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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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