東京都現代美術館の『デイヴィッド・ホックニー展』 に行ってきました。
現代で最も革新的な画家のひとり デイヴィッド・ホックニー(1937- )の大規模な個展で、日本では27年ぶりの開催となります。
本展では、デイヴィッド・ホックニーさんの 画材や技法を駆使したダイナミックな作品の数々がお迎えしてくれました。
見上げるほどの巨大絵画や、部屋をぐるっと一周する90メートルのデジタル作品まで、見ごたえのあるエンターテイメント性たっぷりの展覧会です。
『デイヴィッド・ホックニー展』 感想
感想はデイビッド・ホックニー展図録を参考にさせていただきました。
デイヴィッド・ホックニーの多様な技法
デイヴィッド・ホックニー《自画像、2021年12月10日》2021年 作家蔵
デイヴィッド・ホックニー(David Hockney/1937 – )はイギリスのブラッドフォード生まれの画家で、今年で86歳になる方です。
ロンドンの王立美術学校在学時に発表した作品が脚光を浴び、現代を代表する画家のひとりとして知られています。
60年以上にわたり作品を生み出し続けたホックニーは現在、フランスのノルマンディーを拠点に精力的に新作を発表しています。
デイヴィッド・ホックニー《スプリンクラー》1967年 東京都現代美術館蔵
「親しい人々の姿、傍らにあるもの、拠点とする地や旅先の風景など、眼前にある現実の世界を観察してきた」というホックニーの作品は、その時々でいろいろな表現方法がとられます。
この《スプリンクラー》という作品は、ホックニーがカリフォルニアで制作を始めた作品です。
あらゆるものが人工的だと感じたホックニーは、大胆に赤い枠をつけることで対象を遠ざけて観察者のような目線の作品に仕上げました。
デイヴィッド・ホックニー《リトグラフの瑞(線、クレヨンと2種類のブルーの淡彩)》(部分)1978-80年 東京都現代美術館
プールの飛び込み台の作品は リトグラフ(いわゆる版画)ですが、水面の揺らめきや光の動きを表現するために何度も版を重ねるという手段をとっています。
ペインティング、リトグラフ、デジタル、時には事務用のコピー機やファックスを使うなど、対象によって多種多様な画材や技法が用いられているので、ホックニー作品は観ていて飽きないし非常におもしろいんです。
「逆」遠近法
このデイヴィッド・ホックニー展で特に惹かれたのは、時空間を凌駕した遠近法の作品でした。
伝統的な西洋美術の技術として「一点透視図法」があると思います。
遠近法の一つでありいわゆるパースをきちんととって描かれた絵は、空間の歪みを整え、立体的かつリアルな描写ができます。
そんなリアルな風景とくらべてみると下の作品(↓)がとてもおかしなことになっているのがわかります。
デイヴィッド・ホックニー《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》1983年 東京都現代美術館
この《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》は、ホックニーが京都の龍安寺で撮影した100枚以上の写真を貼り合わせたフォト・コラージュです。
移動しながらシャッターを切り続けていたとのことで、写真を組み合わせることで複数の視点・複数の時間が交差して一枚の風景画を作り上げています。
デイヴィッド・ホックニー《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》拡大
二次元の作品なのに、動画や漫画ようなコマ送り的な動きが生まれています。
時間と視点が入り乱れているので、観ていると時空間が歪んだような不思議な感覚になってくるところが楽しかったです。
超巨大な戸外制作絵画
《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》のダイナミックさはぜひとも実際に観て味わってほしい!
ホックニーが幼少期に慣れ親しんだイギリス郊外の風景を描いたもので、タイトルのとおりカンヴァスを持ち出して外で描き上げた戸外制作なのですが…。
なんと50枚のカンヴァスを使った超巨大絵画なんです。
デイヴィッド・ホックニー《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》2007年 テート
かなり遠くから観ないと全体を見渡せないほど。
展示室の壁一面を覆いつくす大きさで、絵画なのにインスタレーションのような…。
実際にイギリスの風景が目の前に広がっているような没入感のある荘厳な超大作でした。
制作風景の映像が観られるのですが、なんて大変な工程を踏んでいるのかと驚かされます。
あまりにも巨大すぎてクレーン車を使っての組み立て作業のため、完成までに50枚の全容を確認できたのはたった数回だったとか。
そのためよく見ると少し絵がずれているところがあったりして、それが逆に本当に手描きなのだと実感させられます。
デイヴィッド・ホックニー《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》拡大 2007年 テート
真っ白な展示室の一室にこの作品だけが置かれています。
風の音が聞こえてくるような涼やかさと神秘的な雰囲気が漂っていて、ソファに座って穏やかな気持ちでゆっくりじっくり鑑賞しました。
現代的なiPad作品
2010年。
ホックニーはイースト・ヨークシャーの移り変わる自然の様相を表すために「春の到来」という主題の構想を抱きますが、この構想の実現を可能にしたのが、iPadでした。
デイヴィッド・ホックニー展には多くのiPad作品が展示されています。
デイヴィッド・ホックニー《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲートー12月29日 No.1》2011年
デジタル絵画なんて、味がない、趣がない、といった心配は一切必要ありません。
ホックニーのデジタル絵画は、やわらかな光や滴の輝き、雨の湿り気を見事にとらえたとても美しいものばかりでした。
ホックニーの表現力とデジタルならではの色彩表現がマッチして素晴らしい空間が生み出されています。
デイヴィッド・ホックニー展 《春の」到来、イースト・ヨークシャー》シリーズ展示風景
デジタルなのにまるで油絵の具の盛り上がりを感じられるような立体的に見える表現がたくさんあって、驚くばかり。
思わず作品に顔を近づけてデジタルの筆跡を確認してしまうこともありました。
デイヴィッド・ホックニー展 《春の」到来、イースト・ヨークシャー》2011年 油彩
一緒に展示されている油彩画もまたインパクトがありました。
32枚のカンヴァスで構成された大きなスケールの作品で、日本画のようなグラデーションが少ない平面的な表現が為されています。
iPad作品の方が遠近感や立体感が強く出ていて、デジタルとアナログの常識がちぐはぐにされた展示構成がまた粋だなと思いました。
部屋を一周する90メートルの横長作品
デイヴィッド・ホックニー展 《ノルマンディーの12カ月 2020-2021年》展示風景
2019年3月。
拠点をフランス・ノルマンディーに移したホックニ―は、クールベやモネ、ラウール・デュフィなど多くの画家に愛されたこの地で、移ろう自然と「春の到来」の主題に臨みました。
そして2020年から2021年にかけて制作したのが、全長90メートルの超横長作品《ノルマンディーの12カ月 2020-2021年》です。
デイヴィッド・ホックニー展 《ノルマンディーの12カ月 2020-2021年》展示風景
長すぎて部屋をぐるっと一周する作品は、デジタルだからこそできるサイズ感。
雪が降る冬の風景から始まって、暖かな日差しの春、緑がおおう夏、実りの秋へと続きます。
デイヴィッド・ホックニー展 《ノルマンディーの12カ月 2020-2021年》部分
近くでみるとかなりラフに描かれていて、この雪の表現などは デジタルペンシルを点々と重ねているのがよく分かっておもしろいです。
なんと、ホックニ―はデジタル作品の制作過程の映像まで展示してくれています。
とっても太っ腹。
絵描きさんにはたまらない映像ではないでしょうか。
デイビッド・ホックニーのデジタル作品の制作過程映像
ホックニーがどのようにしてこういったデジタル作品を描き上げているのか。
筆運びまでわかります。
何度も消したり描き直したりしながら完成までを見届けられる、貴重な映像が観られました。
総じて「デイビッド・ホックニー展」、とても楽しかったです。
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『デイヴィッド・ホックニー展』の情報
グッズ
デイヴィッド・ホックニー展 のグッズは
定番のポストカードやトートバッグ、パズルやカレンダーなどたくさんの種類がありました。
作品がカラフルで明るい色が多かったので、グッズもとてもポップでかわいいアイテムばかりです。
グッズ売り場は展示会場の中にありますので、鑑賞時にお財布を持ってお入りください。
図録
図録を買いました。
A5変形サイズ(約15.7×22.7cm)だったので、コンパクトで持って帰りやすいし保管しやすいしで大変助かります。
全ての図録にこのサイズを出してほしいくらいです。
横に長い作品も、見開きになっている楽しい仕様です。
サイズは小さいけど作品の色や雰囲気はばっちりだし文字の大きさも丁度良く、購入してよかったです。
図録は 3,300円(税込)でした。
ポストカード
ポストカードはたくさん種類がありました。
普通サイズから大判横長サイズ、正方形サイズなど作品に合わせた大きさです。
保管には普通サイズのポストカードがいいのですが、このデイヴィッド・ホックニー展での目玉である横長作品は外せなかったので結局いろいろと購入してきました。
ポストカードはサイズによって値段が異なります。
定型サイズ: 165円(税込)
変形サイズ: 275円(税込)
ロゴ:アクリルキーホルダー
展覧会ロゴがモチーフのアクリルキーホルダーなんてものまで買ってしまった…。
昔のホテルの鍵みたいでかわいかったので、仕方ありませんよね。
青色のほかにも 蛍光イエローと蛍光グリーンがあったと思います。
アクリルキーホルダーは 880円(税込)でした。
混雑状況・所要時間
8月の平日昼過ぎに行きました。
夏休み真っ最中だったので混雑しているかなと警戒していましたが、ゆったり落ち着いて鑑賞できました。
所要時間は1時間半~2時間程度です。
チケット
デイヴィッド・ホックニー展 のチケットは事前購入するオンラインチケットと当日券 どちらもあります。
オンラインチケットは「日付&時間指定」ではなく「日付指定のみ」で、鑑賞日当日のオンライン購入も可能のようです。
私は当日券を購入しました。
チケットカウンターが混んでいたらスマホからオンラインチケットを買えばいいやと思っていたのですが、全く並ばず待ち時間ゼロでした。
当日券は展覧会デザインなど特別なものではなかったので、オンライン購入でもよかったかなと思います。
チケットは 一般料金 2,300円。
オンラインチケットのみ、平日限定ペアチケットやグッズ付きチケットが購入できます。
音声ガイド/ 展示作品一覧
デイヴィッド・ホックニー展 では音声ガイドはありません。
展示作品一覧は、展覧会の最初にQRコードで読み取ってスマホから閲覧できます。
ロッカー
東京都現代美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーは無料の100円玉投入方式(使用後は返却)で、両替機もあります。
撮影スポット
「デイビッド・ホックニー展」 撮影スポット
デイヴィッド・ホックニー展では、会場内の1Fの展示作品すべてが撮影可能になっています。
また、美術館ロビーにはデイヴィッド・ホックニーの作品《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》の撮影スポットがあります。
巡回
デイヴィッド・ホックニー展は東京のみで、巡回はありません。
開催概要まとめ
展覧会名 | デイヴィッド・ホックニー展 |
特設サイト | https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.html |
● 東京展 |
2023年7月15日(土)~11月5日(日) |
休室日 | 月曜日(9/18、10/9は開館)、9/19、10/10 |
開室時間 | 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) |
混雑状況 | 平日昼過ぎ・混雑なし |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 一般 2,300円・WEB事前予約/当日券 |
ロッカー | あり(無料・100円玉必要) |
音声ガイド | なし |
撮影 | 1F展示作品の撮影可 会場外撮影スポットあり |
グッズ | 展示会場内にあり・充実 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
おまけ
鑑賞ガイドと新聞
デイヴィッド・ホックニー展では、鑑賞ガイドと展覧会関連の読売新聞の記事がもらえます。
鑑賞ガイドは会場のいちばん最初に、新聞は展示最後のほうの廊下(記憶が定かではない)に置いてありますので、記念に欲しい方はお忘れなく!
展覧会イメージのパフェを食べました!
美術館2Fにあるカフェ&ラウンジ「二階のサンドイッチ」でお昼を食べました。
美術館での食事は久しぶり…!
楽しみにしていた デイヴィッド・ホックニー展をイメージしたパフェ「ノルマンディーの光」も堪能しました。
《ノルマンディーの12カ月》の作品を連想させる明るい黄色がかわいい!
デイヴィッド・ホックニー展 イメージのパフェ(税込 1,080円)
とか思っていたのですが全然違くて、ホイックニ―の「ラッパスイセン」の作品をイメージしているそうです。
マンゴーやパッションフルーツなどが入った爽やか系のパフェでした。
サンドイッチは、レモンが効いた夏らしいチキンサンドでとっても美味しかったです。
照り焼きチキンサンド(税込 680円)
「二階のサンドイッチ」は パン屋さんのようにサンドイッチを選んで自分でトレーに乗せてカウンターで購入。
飲み物やパフェは、パンと一緒にカウンターで注文するシステムです。
はじめて利用したのでちょっとドキドキしたのですが、表示がわかりやすくて安心でした。
ちなみに、東京都現代美術館のB1階には「100本のスプーン」というレストランもあります。
100本のスプーンでも、もうちょっとグレードアップしたコラボパフェが食べられます。
お好みの方に行ってみてください。
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関連情報
●『エドワード・ゴーリーを巡る旅』展
ビアズリーなど、モノクロの線画が好きな人は絶対にはまると思います。
絵本の挿絵なのに、ちょっと不気味で怖くてとても見ていて面白く、すごく充実した時間を過ごしました。
全国巡回すると発表されているけど、まだ詳細は出ていない…?
●『 ルーヴル美術館展 愛を描く』
9月24日(日)まで、京都市京セラ美術館で開催中。
"愛"をテーマに、あのルーブル美術館から作品が集結しています。
フラゴナールの《かんぬき》、フランソワ・ブーシェの《アモルの標的》はぜひ見てほしい…!
●『マティス展』(2023年)
終了したばかりのマティス展。
マティスのカラフルな色づかいが好きなら、今回のデイヴィッド・ホックニー作品も好きかもしれません。
似ているわけではないけど、色のパワーみたいなものはどちらからももらえたと思います。
●『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』(2022年)
マティスは、2022年にも観ていました。
「ピカソとその時代展」でのマティスは切り紙絵が中心だったので、今回のマティス展では油絵や彫刻も観られます。
これまでの美術展の感想はこちらです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録のTwitterもやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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