アーディソン美術館の
「パリ・オペラ座 ― 響き合う芸術の殿堂」展に行ってきました。
なんと作品リストの冊子が16ページにもわたる、ものすごい作品数の展覧会です。
絵画はもちろん、写真や設計図、舞台衣装や台本に至るまで あらゆる資料が集められています。
美術展のようでもあり博物展のようでもありの内容で、パリ・オペラ座の350年にわったる歩みをたどった展示構成になっています。
絵画だけをがっつり鑑賞したいという方にとっては、いわゆる「資料」的な展示がたくさんあるので すこし物足りなさを感じる部分もあるかもしれません。
しかし個人的には、一緒に観られる常設展「石橋財団コレクション選」に見ごたえのある絵画がたくさんあったので、絵画欲は存分に満たされました。
常設展の感想もおまけにのせているので、興味のある方はぜひご覧ください。
「パリ・オペラ座展」 感想
音楽とバレエとパリ・オペラ座
オペラ座といえば、やっぱりバレエですよね。
パリ・オペラ座展では、バレエに関するの絵画資料など様々なものが展示されています。
《悪魔のロベール》1851年頃 リトグラフ、手彩色 兵庫県立芸術文化センター薄井憲二バレエ・コレクション蔵
ロマンティック・バレエの時代を代表するバレリーナ、マリー・タリオーニ(1804-1882)の自筆の手紙が観られたのはうれしかったです。
マリー・タリオーニは、はじめてトゥーシューズを履いて踊ったとして知られているプリマドンナです。
アルフレッド・エドワード・シャロン《『パ・ド・カトル』を踊るカルロッタ・グリジ、マリー・タリオーニ、ルシル・グラーン、ファニー・チェリート》1845年 リトグラフ、手彩色 兵庫県立芸術文化センター 薄井憲二バレエ・コレクション
マリー・タリオーニは、自身の父親が振り付けた『悪魔のロベール』の尼僧の踊りで注目され、のちに同じく父親が振り付けた演目『ラ・シルフィード』の主役を演じてその名を轟かせました。
この『ラ・シルフィード』ではじめてチュチュを着てつま先立ちで踊られたと記録されています。
《『ラ・シルフィード』を踊るマリー・タリオーニ》1839–1840年頃 エングレーヴィング、手彩色 兵庫県立芸術文化センター薄井憲二バレエ・コレクション蔵
彼女が当時使っていたトゥーシューズの展示もあったのですが、現在のものよりも薄くてやわらかそうで、こんなシューズでつま先立ちしていたのかと思うと信じられませんでした。
『パピヨン(蝶々)』(台本) 1860年 / 『ジゼル、あるいはウィリたち』(台本) 1841年 兵庫県立芸術文化センター薄井憲二バレエ・コレクション蔵
そのほか、バレエ演目の台本など興味深い資料がたくさん。
バレエの舞台も今では多様な表現がありますが、その原点に触れられたような気がしてとても楽しく鑑賞しました。
ドガとパリ・オペラ座
バレエと関連の深い画家としては、やっぱりエドガー・ドガ(1834-1917)になるかと思います。
オルセー美術館からあの有名な絵画、《バレエの授業》が見られたのは嬉しかったです。
エドガー・ドガ《バレエの授業》1873–1876年 油彩・カンヴァス オルセー美術館蔵
ドガは、マネ、モネ、ルノワールなどと同じく印象派を立ち上げた初期メンバーのひとりですが、異質の存在です。
ドガの作風は、一般的に印象派絵画として思いうかべる(例えばモネの睡蓮のような)外にキャンヴァスをもって描かれた光のうつろいを表現をするような画風ではありません。
エドガー・ドガ《踊りの稽古場にて》1895–1898年 パステル・紙 アーティゾン美術館
ドガの絵画のモチーフといえば稽古場や舞台上にいる"踊り子"ですが、これにはいくつか理由があったようです
それは、ドガ本人が「まぶしがり病」と称する網膜の病のために外の光が苦手だったこと、もともと都会生活とそこで営む人間に関心があり人体の動きを表現することに長けてたことなどによるもので、ドガにとってはこの"室内の踊り子"というモチーフは、これ以上ないほどにぴったりの題材だったからだとか。
エドガー・ドガ《舞台袖の3人の踊り子》1880–1885年頃 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館
パリ・オペラ座展にはドガの絵を観に行ったようなものなので、このセクションがやっぱり一番好きでした。
本展では、10点ほどのドガの作品が展示されています。
マネとパリ・オペラ座
パリ・オペラ座が創設された17世紀のオペラは貴族のためのものでした。
それが19世紀になると市民階級も集まるようになり、仮面舞踏会が開かれるなど 舞台観劇以外も楽しめる場所として人気になったそうです。
エドゥアール・マネ《オペラ座の仮面舞踏会》1873年 油彩・カンヴァス ワシントン、ナショナル・ギャラリー蔵
人々が観劇する傍ら、娼婦の女性たちも出入りする男女の交流も行われたパリ・オペラ座。
マネが描いた《オペラ座の仮面舞踏会》はその様子がよくあらわされた興味深い作品です。
多くの男性に混ざる、むき出しの足をさらした女性は娼婦のモチーフです。
また、右にいる男性はマネ本人だと言われていています。
エドゥアール・マネ《オペラ座の仮面舞踏会》1873年 油彩・カンヴァス (部分)
撮影はできませんでしたが、この絵の隣には、マネによって同時期に描かれた アーディソン美術館所蔵の《オペラ座の仮面舞踏会》の絵画が並べられています。
アーディソン美術館の《オペラ座の仮面舞踏会》には上流階級の女性が描かれていて、娼婦を描いたナショナルギャラリーの作品と比べられるようになっています。
人々の表情やしぐさが多種多様で、じっくり近づいて観たくなる作品でした。
まとめ
レオノール・フィニ《『タンホイザー』レジーヌ・クレスパンのためのエリーザベトの冠》1963年頃 金属 フランス国立図書館蔵
パリ・オペラ座展。
美術ファンとしてはもうすこし絵画がおおいとうれしいなとは思うものの、膨大な資料と内容の濃さで十分に楽しめました。
撮影はできなかったのですが、壁画の習作やシャガールの天井画の習作、ジャック = エミール・ブランシュの絵画などものすごくパワフルなお気に入り作品を見つけられたと思います。
藤田嗣治《オペラ座の夢(『魅せられたる河』より) 1951年刊行 エッチング、カラーエッチング アーティゾン美術館蔵
人生のうちにもう一度パリに行って、実物を観たいな。
総じて、とっても楽しかったです。
「パリ・オペラ座展」 情報
グッズ
今回はじめてアーディソン美術館に行ってきたのですが、グッズ売り場がとても充実していますね。
「美術館の所蔵作品グッズ」と「パリ・オペラ座展専用グッズ」とが一緒に売っているのですが、パリ・オペラ座展のグッズコーナーは中規模程度だった印象です。
グッズ売り場は会場の外にありますので、お財布を持たずに鑑賞してOK。
ただし、鑑賞後にロッカーに戻ってからお買い物するのが面倒であれば、やっぱりお財布をもっていった方がいいと思います。
ポストカード
まずは定番のポストカードです。
アーディソン美術館の所蔵作品のポストカードが多くて、「パリ・オペラ座展」に特化したものは数種類でした。
ハンドクリーム(Senteur et Beaute)
次は『Senteur et Beaute(サンタール・エ・ボーテ)』のハンドクリーム。
南仏プロヴァンスで香水や化粧品を製造するブランドということですが、日本でも通販などでふつうに購入できます。
なかなかこういう機会がないと手に取るきっかけがないので、買ってみました。
香りが3種類くらいあって、私はコットンリネンを選びました。
嫌いな人がいないような、とっても良い香りです。
ピローミスト(Senteur et Beaute)
そして Senteur et Beaute(サンタール・エ・ボーテ)からもうひとつ、ピローミストも買いました。
秋冬は寝る前に香水をつけるのが好きなので、まさにぴったりなアイテムです。
香りはハンドクリームと同じものが3種類あり、私はホワイトティーを選びました。
とっても複雑で高貴な香りです。
テスターが置いてあるので、好みのものをゆっくり選んで買うことができます。
どちらも1000円代だったかな…?
そんなにお高くなかったので、手軽に手に取れます。
クッキー
最後はお菓子!
フランスのクッキーですかね。
こちらも味が3種類くらいあり、私はキャラメルを選びました。
ザクザク香ばしいお味でとっても美味しかったです。
美術展にいくと、展覧会の国にちなんだお菓子をほぼ毎回買っています。
滅多に食べない味なので新鮮ですし、家に帰ってもその国の余韻に浸れるのが優雅な気がして好きです。
混雑状況・所要時間
11月中旬の平日午後に行ってきました。
それなりにお客さんはいたのですが、不快感を感じるほどではありませんでした。
所要時間は1時半~2時間くらいです。
チケット
アーティゾン美術館は日時指定予約制のため、来館前にネットでチケットをご購入する必要があります。
購入完了メールにQRコードが付いていて、当日は自動改札ゲートにQRコードをかざして入館します。
チケットは一般 1,800円税込 です。
ロッカー
アーディソン美術館では、2階に1か所 ロッカーがあります。
ロッカーは鍵式で無料。
100円玉は不要です。
写真撮影
「パリ・オペラ座展」では、展示会場内の一部の作品でのみ撮影OK。
主要な作品のおおくは撮影NGだった印象です。
ちなみに、
常設展「石橋財団コレクション選」では、一部の作品をのぞきほとんどの作品で撮影OKでした。
音声ガイド
「パリ・オペラ座展」の音声ガイドはありません。
一方、常設展「石橋財団コレクション選」ではアーディソン美術館公式アプリで聴ける無料音声ガイドがあります。
観たい作品を検索・タップするか、番号を入力するとガイドが見られる仕様です。
音声で聴きたい場合はイヤホン必須ですが、音声と同じ内容はアプリ内の文章でも読むことができます。
開催概要
展覧会名 | パリ・オペラ座 ― 響き合う芸術の殿堂 |
特設サイト | パリ・オペラ座展 特設サイト東京展 |
● 東京展 |
2022年11月5日(土) – 2023年2月5日(日) |
混雑状況 | 平日午後はほどほどな賑わい |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 一般 1,800円税込(日時指定予約制) |
ロッカー | あり(無料・100円玉不要) |
音声ガイド | なし 一緒に観られる常設展ではアプリで無料音声ガイドあり |
撮影 | 一部の作品のみ撮影OK 一緒に観られる常設展ではほとんどの作品で撮影OK |
グッズ | ショップは会場外 豊富な品揃えだが、本展専用グッズは中規模 |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
おまけ | 常設展「石橋財団コレクション 選」
石橋財団コレクション 選
パリ・オペラ座展のエリアが終わってエレベーターを降りると、そのまま常設展会場に行くことができます。
パリ・オペラ座展が閉展する2023年2月5日(日)までは「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後」が開催しています。
アーディソン美術館に今回初めて行ったのですが、こちらの常設展のコレクション、かなり好きでした。
美術館に行ってもそう毎度常設展に立ち寄ることはないのですが、こちらだったら何度でも通えそうです。
まず、推し画家のひとり ベルト・モリゾー作品を観られたので、はじめからテンションが上がりました。
モリゾーの《バルコニーの女と子ども》は、女性の可憐さと女の子の頬のぷっくり感がとっても可愛らしい。
背景や衣装なども含めたすべての部分で男性画家にはない繊細な表現がなされていて、大好きな画家です。
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年 油彩・カンヴァス アーディソン美術館蔵
そして、いちど見てみたかった 岸田劉生の《麗子像》。
想像していたよりも不気味なかんじではなくて意外でしたが、よく考えれば自分の娘の絵なんですもんね。
額縁までが作品かのようにマッチしていたところも印象的でした。
岸田劉生《麗子像》1922年 テンペラ・カンヴァス アーディソン美術館蔵
ピカソとその時代展で大好きになった、パウル・クレー作品も観てきました。
どうやって描いているのか、色の重なり合いがやっぱり宇宙のようです。
アーディソン美術館はクレー作品の所蔵数も多く、今回は2作品の展示でしたが今後の常設展も楽しみになりました。
パウル・クレー《羊飼い》1929年 油彩・合板に貼られたカンヴァス アーディソン美術館蔵
モネやルノワール、ゴッホなどなど有名どころもたくさんあって、どれも見ごたえのある作品ばかりでした。
本展「パリ・オペラ座展」で満たされなかった絵画欲が、十分に満たされて大満足です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年 油彩・カンヴァス アーディソン美術館蔵
Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後
特集コーナー展示では、「Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後」が開催していました。
《トランクの箱》シリーズは、20世紀に最も影響力のある芸術家といわれている マルセル・デュシャン(1887-1968)が制作したオブジェです。
マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)シリーズB》1952年、1946年(鉛筆素描)68点のミニチュア版レプリカ、鉛筆による素描、革製トランク アーディソン美術館蔵
マルセル・デュシャンは、大量生産された既製品をオブジェとして作品にしてしまう「レディ・メイド」の概念を考案した芸術家です。
この《トランクの箱》シリーズも、トランクの中にデュシャンの代表的な作品のレプリカが収められた レディ・メイド進化版のような作品となっています。
マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)シリーズB》部分
これに倣って数多くのアーティストたちが箱詰め作品を制作していて、アーティストの鞄の中身を覗いているような楽しい作品たちが並んでいました。
常設展、立ち寄ってみて良かったです。
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関連情報
▼ 1月29日まで 三菱一号館美術館の「ヴァロットン ― 黒と白展」が開催中。
センス抜群のモノクロの世界が、めちゃくちゃ良かったです。
▼ 1月下旬まで東京国立西洋美術館で「ピカソとその時代展」が開催中。
ピカソ、パウル・クレーなどキュビズムの画家たちの作品が集結しています。
個人的には2022年でいちばん楽しかった展覧会かもしれません。
2月からは大阪に巡回予定です。
▼ 12月からは大阪で「特別展アリス」が開催中。
ご家族、お友達、デートで行っても楽しめる、アリスの世界を満遍なく満喫できる展覧会になっています。
▼ 愛知では「ゲルハルト・リヒター展」が開催中。
現代の大芸術家リヒターの大回顧展で、見ごたえがものすごい展覧会です。
日本初公開であり、ホロコーストを主題にした《ビルケナウ》はぜひ観ておかなくては…!
▼ Twitterでは、気ままに美術や読書についてつぶやいていますのでよかったら見てください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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