三菱一号館美術館の開館10周年記念
「1894 Visions ルドン、ロートレック展」
に行ってきました。
この展覧会の見どころは、
美術館の主要なコレクションである
ルドンと、ロートレックです。
フランスで印象派が大注目されるなか、印象派とは違った作風を確立した2人。
ルドンの絵はやっぱり綺麗すぎたし、
ロートレックのポスターのカッコいいこと!
三菱一号館が建てられた「1894年」を軸に、
ふたりの芸術家とその周囲を追っていく構成になっています。
19世紀末のフランス・アール・ヌーヴォーの雰囲気にひたれるなんともおしゃれな展覧会でした…✦
はじめに
1894年ってどんな時代?
「三菱一号館」は明治27年に丸の内で最初のオフィスビルとして建設されました。
明治27年は、西暦でいうと「1894年」。
19世紀の終わりにあたります。
世界的にみて、また日本的にみて、1894年とはいったいどんな時代だったのでしょうか。
世界史からみた1894年 ― 新しい芸術の芽吹き
欧米の先進国では第2次産業革命をむかえ、巨大な生産力・科学技術・軍事力が生みだされました。
1870年頃からの約20年間は大きな戦乱はありませんでしたが、植民地を広げる帝国主義の時代であり、やがて1914年の第一次世界大戦につながっていきます。
資本主義の発展によって急増したブルジョワジーたちによって美術市場は広がりをみせ、古代エジプトやアラブ、アジアの美術品がパリの街をにぎわせるなど、さまざまな芸術が共存するようになりました。
あの「印象派」がうまれてから20年。
印象派がようやく国内外で評価されるようになるなか、1894年の前衛画家たちは、印象派を吸収したうえで新たな表現を模索し、パステルや版画にまで領域を広げました。
クロード・モネ《印象、日の出》1872年 マルモッタン・モネ美術館 ※本展にはありません
日本史からみた1894年 ― 文明開化
いっぽう日本では大日本帝国憲法が公布されてから5年が経過し、日清戦争がはじまった年になります。
国は「富国強兵」「殖産興行」「文明開化」といったスローガンをかかげました。
日本でも西洋式の絵画が少しずつ認知され、フランスに留学して印象派の画風を学んだ黒田清輝が1893年に帰国すると、東京美術学校で「洋画科」設立の契機となりました。
この東京美術学校は、現在の「東京芸術大学」にあたります。
黒田清輝がフランス滞在中に描きサロンに入賞した初期の代表作《読書》は観たことがある方もおおいのではないでしょうか。
黒田清輝《読書》1891年 東京国立博物館 ※本展にはありません
1894Visions展 感想・楽しいポイント
#01|ルドンの不可思議
そんな「1894年」周辺の時代に活躍したのが、オディロン・ルドン(1840-1916)です。
あのモネと同じ年でありながら印象派とは違う道をいった不思議な画家でして、私も大好き!
印象派の絵はモネの《睡蓮》をみてもわかるように戸外制作が特徴です。
しかし、ルドンは心の内面や創造・夢の世界を描いた作品がおおく、どれもちょっと怖くて奇妙。
この目玉の絵なんて、いちどみたら忘れられなくないですか。
オディロン・ルドン 石版画集『夢のなかで』《VIII . 幻視》1879年 三菱一号館美術館蔵
ルドンの初期の作品は木炭と石版画をつかった黒い絵が中心です。
目玉の気球とか、人面花とか、人面卵とか・・・。
夢に出てきそう。 pic.twitter.com/m4LC4mBBp4
— mumuji|美術館と本 (@mumuject_art) October 7, 2020
ボードレールの詩集『悪の華』の挿絵もルドンです。
これほど適任なひとはいないですよね。
この詩集を基にした押見修造さんの漫画『惡の華』は2013年のアニメ化で話題になりました。
ルドンの挿絵を基にした目玉の花が出てきます。
ルドン「悪の華」Ⅷ. 章末の挿絵 岐阜県美術館蔵 ※本展にはありません / テレビアニメ「惡の華」公式サイト扉絵
そんな黒い絵を中心に描いていたルドンが色彩の世界に足を踏み入れたのは、彼が50歳になってからです。
黒と色彩の2面性が楽しめるのも、ルドンの魅力。
本展ではルドンの油彩・パステル絵画も観ることができます。
#02|綺麗なだけじゃないルドンの夢幻世界
ルドンがはじめて色彩の絵を発表したのが「1894年」でした。
私はルドンの色彩の絵が特に好きです。
色と色の混ざり合いが綺麗すぎるし、
なによりも青い色の発色がたまらないんですよね。
オディロン・ルドン《神秘的な対話》1896年頃 岐阜県美術館蔵
個人的にはルドンの色彩の絵ほど実物で観てほしい絵はないと思っています。
もっと透きとおっていて、色鮮やかでオーロラのベールがかかっているように思えるんですよ。
オディロン・ルドン《アポロンの戦車》1906-07年頃 岐阜県美術館蔵
いろいろな色を使っているのに汚く濁ることなく混ざりあっています。
しかし、ただ綺麗なだけでなく現実離れしたあの世に迷い込んだような怖さを秘めていて、何とも惹きつけられる作品が多いです。
ルドン、やっぱり好きだなあ・・・。
#03|ロートレックの小粋なポスター
三菱一号館美術館のコレクションのもう一つの主軸といえば、トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)ですね。
伯爵家に生まれながらパリのキャバレーや娼館に入り浸り、人間の営みの華やかな部分も裏に隠された部分も分け隔てなく描きました。
カラー・リトグラフ(多色石版画)という方法でつくられたロートレックのポスターは、日本の浮世絵のような輪郭線とグラデーションのない色塗りになっていて、とってもおしゃれ。
トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》1891年 三菱一号館美術館蔵
コレクションとして収集され、張ったとたん盗まれることもあったそうです。
ルドンとは全くちがうテーマや作風ですが、とても素敵な画家だなと思いました。
トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュのイギリス人》 1892年 三菱一号館美術館蔵
このほか、娼館の女性たちのリトグラフもありましてとても好きでした。
線の単純さが、生々しい場面のはずなのにどこか淡々としているんです。
"「ルドンが人間の内面を描いた」のに対して、「ロートレックは人間の本質を描いた」"
という解説がありましたが、
ロートレックは本質を描くためにこの単調な線で、世間から一歩引いて俯瞰で描いているのかな、と思ったりしました。
#04|印象派から抜け出したい画家たち
1874年から86年にかけて、全8回の印象派展がひらかれました。
印象派とは違う表現を見つけたルドンやロートレックも、じつは作風が確立するまではこの印象派展に出展しているんです。
ロートレックなどは以前見にいった「コートールド美術館展 魅惑の印象派」にも展示されていたくらいです。
トゥールーズ=ロートレック《個室の中》(「ラ・モール」にて)1899年頃 コートールド美術館蔵 ※本展にはありません
しかし、印象派の表現に不満を持った画家たちは独自の作風を模索します。
こういった動きをみせたのはセザンヌやスーラ、ゴッホやゴーギャンなど。
彼らは便宜上「後期印象派」とよばれたりしますが、それぞれ目指す方向はちがったそうです。
ポール・ゴーギャン『ノア ノア』《マーナ・ノ・ヴァルア・イノ(悪霊の日)》1893-94年 岐阜県美ジュt間蔵
ゴーギャンなんて、文明社会に嫌気がさして
「原始的な世界にこそ自分の表現がある!」
ってなかんじでタヒチに2年も住んでしまうんだから驚きです。
印象派という強大な壁からの脱出のために、もがいていたんですかね。
表現ってすごいな。
#05|19世紀に留学するハードルって
今でこそ留学する人はたくさんいますが、いまから100年以上もまえに海外に留学するって考えるだけで結構ハードじゃないですか。
そんな時代に遠い海を越えてフランスまで絵画を学んだ日本人がいたんですよね。
左:山本芳翠《裸婦》1880年頃 重要文化財/右:藤島武二《浴室の女》1906-07年頃 どちらも岐阜県立美術館蔵
女性の裸体を描くことがタブーだった日本で、西洋の芸術を持ち帰った功績たるや。
それにしても、西洋伝統の写実的な技法を学んだ山本芳翠に対し、ロートレックやゴッホと同じ画塾で学んだ印象派チックな技法の藤島武二の対比は興味深いです。
まとめ|とにかくみておけ!ルドンの《グラン・ブーケ》
1894年を軸にルドンとロートレックとその周辺を展望する展覧会。
同時代に生きた画家どうしの関係や影響のされ方がよくわかる、とてもおもしろい構成でした。
しかしですね!
そんなに難しいことを考えなくても、
とにかくルドンの《グラン・ブーケ》をみれば万々歳だと思うのですよ!
オディロン・ルドン《グラン・ブーケ》1901年 三菱一号館美術館蔵
美術愛好家ドムシー伯爵の食堂を飾った壁画で、248.3×162.9cmという大きな一枚のカンヴァスにパステルで描かれています。
2018年に三菱一号館美術館主催の
「ルドン―秘密の花園」展で公開されていますが、その時と同じように暗い部屋にこの《グラン・ブーケ》が一枚そびえ立つように展示されています。
もう、絵が発光しているんじゃないかっていうくらいに輝いているんです!
鮮やかな花瓶の青と
それに負けないくらいに存在感のある、実在するかもわからない不思議な花たち。
自然とため息がこぼれますよ…。
絶対行って後悔しない。
この絵が日本の美術館のコレクションにあって幸せだ・・・✿
観にいってやっぱりよかったです。
1894Visions展 グッズ・所要時間・混雑等
グッズ
三菱一号館美術館のショップは8年前から「株式会社East」さんが担当しています。
大人気だったハマスホイ展のグッズもEastさんが手がけていたのですが、今回もほんとうにかわいくて、選ぶのが大変なくらいなのでぜひともお立ち寄りください。
定番のポストカードや文具以外にも、
Tシャツやバッグ、スカーフ、キーホルダーなどなど、細部までこだわったものばかりです。
ルドン《グラン・ブーケ》のリバーシブルなキーホルダー
また、ミニチュアキャンバスは美術展のグッズとして毎回あるわけではないので、気に入った絵があればぜひ!
私が行ったときは開催から1週間後ですでに《グラン・ブーケ》他数種類が売り切れでした。
会期はまだまだありますので、補充されることを願います。
グッズ売り場を出たところには「画家が見たこども展」で人気だったガチャガチャも。
サコッシュの新柄が増えているそうです。
グッズ売り場は展示会場の外にあります。
お財布をもって入場する必要はありません。
チケット・音声ガイド
チケットは当日券と日時指定予約券どちらもあります。
もちろん日時指定の方が優先的に入場できます。
いつもとちがうのはチケット代が2,000円とすこし高い代わりに、音声ガイドがついているところです。
スマホアプリまたは、会場でガイド機を借りることもできるようでした。
①あらかじめ専用アプリをダウンロード
②時間がある人はスペシャルコンテンツを聴く
③美術館へGO(イヤホンを忘れずに)
④展示会場入り口で音声ガイドのパスコードを入手
⑤会場で音声ガイドデータをダウンロード(90MBくらい)
はじめて自分のスマホで音声ガイドを聴きながら鑑賞してみましたが、正直、スマホが途中でロックされたりといちいち面倒であまり好きではありませんでした。
でもすこしずつこのような方法にも慣れていかないとな、と思います。
所要時間・混雑状況
1時間半~2時間くらいで鑑賞できます。
抽選会がやっていた土曜日の午前に行きましたが、落ち着いてゆったりと観られました。
展示替え(11/24-25)
1894Visions展は展示替えがあります。
作品リストで確認したところ以下のとおりです。
後期のみ 76作品
※ルドンやロートレックの作品も含む
お好きな方は2回楽しめます。
私も12月ごろまた行こうかなと計画中。
楽しみです。
展覧会概要
展覧会名 | 開館10周年記念 1894 Visions ルドン、ロートレック展 |
公式サイト | 特設サイト / 美術館公式Twitter |
会期 | 2020年10月24日(土) ~ 2021年1月17日(日) ※展示替え期間:11月24日(火)・25日(水) |
会場 | 三菱一号館美術館(東京・丸の内) |
チケット | 2,000円 ※音声ガイド付! 日時指定券または当日券にて |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
混雑状況 | 土曜午前に行ってゆったり鑑賞できました |
グッズ | すごく充実 |
音声ガイド | 会場でガイド機の貸し出し/スマホアプリ 安井邦彦さん(声優・ナレーター) |
撮影スポット | あり(撮りの足したのでリベンジします…) |
▼図録はネットからも購入できます。
▼上野ではこちらの展覧会も
▼本展では、ルドンの内面的な表現に影響を受けた「ナビ派」の絵もすこしだけ展示されています。
▼ルドンがすきならこちらも絶対好き。「ナビ派」に影響を受けた現代の画家
▼本文でちらっと話題にした「コートールド美術館展」はこちら
▼三菱一号館美術館で長年グッズを担当されている株式会社Eastさんのグッズの雰囲気を知るにはこちら
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
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