三菱一号館美術館の
『テート美術館所蔵 コンスタブル展』に行ってきました。
日本ではじつに35年ぶりとなる大回顧展ですが、「ジョン・コンスタブル」という画家にピンとこない方もいるでしょうか。
コンスタブルは19世紀に活躍した風景画家で、イギリスではとっても有名なんです。
昨年開催された『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』を観に行ったという方!
実は、下の1点だけ、コンスタブルの作品が展示されていました。
ジョン・コンスタブル 《コルオートン・ホールのレノルズ記念碑》 1833-36 ロンドン・ナショナル・ギャラリー
※本展にはありません
コンスタブルは一歳年上の風景画家ターナーのライバルとして語られることがおおく、ロンドン展でも同じセクションに展示がありましたが、その作風は全く異なります。
J.M.W.ターナー 《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》 1829 ロンドン・ナショナル・ギャラリー
※本展にはありません
コンスタブルの作品は一見すると地味にみえるかもしれません。
しかし、そこに描かれる「身近な自然風景」は海を越えたフランスで大注目され、のちのモネやルノアールによる「印象主義運動」につながっていくんですよね。
なんだか、興味がわいてきませんか。
以下に、『コンスタブル展』の感想を書きました。
「コンスタブルって良く知らないし、なんだか地味だなー」と迷っている方の参考になればうれしいです。
『コンスタブル展』 感想・楽しいポイント
コンスタブルってどんな画家?
ジョン・コンスタブル《自画像》1806 テート美術館蔵
ジョン・コンスタブルン(1776-1837)は、イングランド東部にあるサフォーク州に生まれました。
生まれ故郷や、家族と訪れた土地、親友の住むソールズベリーなど、自身が強く愛着を感じる場所を描くことにこだわった画家です。
●入学後も「身近な自然風景」を描くことにこだわったが、評価されるのに時間がかかった。
●早くから戸外での制作を重要視。
●フランス人の画商がパリのサロンにコンスタブルの作品を出品して金賞を獲得。母国イギリスよりもフランスでの評価の方が早かった。
●コンスタブルの「身近な自然風景」はフランスの若い芸術家にインスピレーションを与え、やがて「印象派」につながった。
●同時代の風景画家ターナーと比較されることがおおく、イギリス風景画を語るにはこの2人は欠かせない。
愛着のある思い出の田舎風景
下の作品は、父親が製粉所を営む故郷フラットフォードの風景です。
コンスタブルはこのように自分が愛着を感じる土地を、リアルでありのままに描くことを好みました。
子ども頃の楽しかった記憶と強く結びついた風景こそが、画家を志すきっかけだったのだそうです。
ジョン・コンスタブル《フラットフォードの製粉所(航行可能な川の情景)》1816-17 テート美術館
しかし、当時の美術界では「ピクチャレスク」=「絵のような風景画」が評価されていました。
現在でいうところの"映え"に近い感覚でしょうか。
木々の配置から光の加減まで、理想的な桃源郷のような風景画が好まれていました。
それは、ギリシャ神話や聖書をベースにするヨーロッパ風景画の伝統があったことや、18世紀のイギリスで世界初の産業革命を経験し、失われていく自然風景を尊ぶスピリッツが生まれたことが要因だと考えられています。
ジョン・コンスタブル《ザ・グローヴの屋敷、ハムステッド》1821-22年頃 テート美術館
そんななかで、
コンスタブルの写実的で自然をあるがままに描いた風景画は、故郷イギリスで評価されるまでには少し時間がかかりました。
風景画だけでは食べていけず、肖像画の仕事を受けて家族を支えていました。
太陽の下で描く
コンスタブルがこだわったのが、戸外制作です。
コンスタブルは自然を"あらゆる創造力がそこから湧き出る源泉"だとして、その本質をつきつめるには戸外で描く必要があると考えていたそうです。
ジョン・コンスタブル《デダムの谷》1805-17 栃木県立美術館
1814年から17年にかけては、スケッチのみならず完全に戸外で描こうとまでしています。
コンスタブル展ではサイズの小さめな作品が多い印象を受けたのですが、これが要因なのかな思ったり。
戸外では描くにはあまり大きなサイズでは難しそうですものね(完全に想像ですが、、、)。
コンスタブルと「バルビゾン派」と「印象派」
ジョン・コンスタブル《干し草車》1821 ロンドン・ナショナル・ギャラリー ※本展にはありません
コンスタブルが評価されたのは、この《干し草車》の風景画がきっかけです。
1824年にパリで開催されたル・サロン展で金賞を獲得し、母国イギリスよりも先にフランスで注目を集めました。
ロマン主義の巨匠ドラクロワからも高い評価を受けたのだとか。
それを見ていたフランスの若い芸術家たちは、「自然そのものの美しさをありのままに」描くコンスタブルに共鳴し、やがて「バルビゾン派」と呼ばれる写実主義グループになりました。
ジャン=フランソワ・ミレー-《落ち穂拾い》1857 オルセー美術館
有名な画家では、テオドール・ルソー。
また、《晩鐘》や《落ち穂拾い》で知られるミレーも晩年にバルビゾンに移り住んでいます。
そしてこのバルビゾン派を土壌に生まれたのが、モネやルノアールなどの「印象派」です。
空のコンスタブル、海のターナー
もちろん、コンスタブルのほかにも印象派に影響を与えた画家はたくさんいます。
好敵手であるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーもまた、その一人です。
ターナーはコンスタブルの一つ歳上。
コンスタブルを語るときには必ずターナーが出てきます。
J.M.W.ターナー《ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号》1832 東京富士美術館
1832年のロイヤル・アカデミー展では二人の作品が隣同士で展示され、図らずも直接対決となりました。
今回の『コンスタブル展』では、その様子を再現するように隣同士で展示されているのが粋なところです。
ジョン・コンスタブル《ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日)》1832発表 テート美術館
ところで、
海の作品が多いターナーに対し、コンスタブルの風景画では空や雲が印象的です。
ジョン・コンスタブル《雲の習作》1822 テート美術館蔵
戸外制作にくわえて気象学研究までしてその表現を突き詰めていたのだそうで、コンスタブルの風景画を見返すと、雲ひとつとっても光や影までいろいろな色彩を使って描かれているのがわかります。
こちらの《雲の習作》も、
華やかではないけれど落ち着いていて穏やかな、コンスタブルらしい作品です。
コンスタブルの「ピクチャレスク」な風景
コンスタブルがイギリスで評価を得たのは1829年2月。
彼の妻が結核で亡くなってから数か月後のことでした。
ロイヤル・アカデミーの正会員に選出されてからのコンスタブルは、批評家の批判に縛られずに自由な描画ができるようになり、モチーフを思うままに配置しなおした「ピクチャレスク」な風景画にも取組みました。
ジョン・コンスタブル《虹が立つハムステッド・ヒース》1836 テート美術館蔵
『コンスタブル展』撮影スポット
この《虹が立つハムステッド・ヒース》は、本展で唯一撮影できる作品です。
これまでの風景画も素朴で美しかったですが、この作品では光の差し込み方や虹などが理想的な配置で描かれています。
*
*
*
フランスに先立ちイギリスで迎えた風景画の黄金時代。
コンスタブルやターナーは、その代表的な画家とされ、後世に残した影響は絶大です。
思い返せば、コンスタブルの身近で素朴な風景画は、印象派運動が始まるずっと前から戸外制作にこだわっていたことから始まりました。
ジョン・コンスタブル《ハムステッド・ヒース、「塩入れ」と呼ばれる家のある風景》1819-20頃 テート美術館
室内から見える色と太陽の下で見る色が違うこと、影の色が灰色だけではないことなど、早くから光と色の無限の変化をとらえていた、偉大な画家です。
思い出のつまった各地の風景を、時にはありのままに、時には理想を込めて。
一筆一筆色を重ねているコンスタブルの表情が目に浮かぶようでした。
のどかな風景画に、とっても癒された展覧会でした。
『コンスタブル展』情報
グッズ
三菱一号館美術館のグッズは、いつも安定の可愛さ。
種類もとっても充実しているので迷ってしまします。
私はポストカーとキーホルダー、そしてマグカップを購入しました。
キーホルダーは、コンスタブルが使っていたパレットを模したもので、展覧会で実物を見ることができます。
様々な色を使っていたのだな、とわかる愛おしさ。
両面レジンのような加工になっていて、裏面まで気を抜いていないデザインです。
そしておすすめなのがこちらのマグカップです。
私は展覧会の開催2日目に行ったのでまだ在庫があったのですが、数日後には一時的に欠品していたほど人気だった模様。
絵柄は3種類あるのですが、決めるのに5分くらいかかりました笑
くすみのある水色の持ち手までもがかわいいです。
ショップは会場外にあるので、ロッカーにお財布を置いて鑑賞してもOKです。
混雑状況・所要時間
日曜日の昼に行ったのですが、そんなに混雑していませんでした。
チケット売り場も全く並ばず、ロッカーにも余裕がありましたし、たいていの作品は一人でゆったりと鑑賞できました。
所要時間は1時間半程度です。
音声ガイド
本展には音声ガイドはありません。
撮影スポット
三菱一号館美術館で開催される展覧会にはほぼ毎回撮影スポットがあります。
本展では《虹が立つハムステッド・ヒース》が撮影OKの作品です。
展覧会の最後にありますよ。
展覧会概要
展覧会名 | テート美術館所蔵 コンスタブル展 |
公式サイト | 特設サイト/美術館Twitter |
会場 | 三菱一号館美術館 |
会期 | 2021年2月20日(土)〜5月30日(日) |
所要時間 | 1時間半程度 |
混雑 | 日曜日のお昼に行きましたが、ゆったり観られました。 |
音声ガイド | 本展には音声ガイドはありません。 |
グッズ | かわいいグッズが充実。マグカップがおすすめ。 |
撮影スポット | 最後にある《虹が立つハムステッド・ヒース》が撮影OK |
おまけ
三菱一号館美術館のミュージアムショップ「1894」の出口にはいつもガチャガチャが置いてあるのですが、久しぶりにラインナップが変わっていました。
確か以前はポシェットだった気が、、、現在はピンバッジになっています。
美術館のガチャは必ずやる私。
「推し画家ルドンでろーーーー!!」ってまわした結果、ヴァロットンが当たりました。
シニカルな感じが、これはこれでかわいいですね。
関連情報
東京都美術館では3月28日(日)まで吉田博の木版画展が開催中です。
版画の領域を逸脱した透明感のある洋画のような木版画がきれいです。
また、大阪では3月28日(日)まで『リヒテンシュタイン展』が開催中。
お姫様気分になれる華やかでゴージャスな展覧会です。
2020年から、イギリスに関わる展覧会が続いています。
コンスタブルと敵手であるターナーはロンドン展にも展示されていました。
イギリスで、風景画と並んで人気だった肖像画が勢ぞろいした「KING&QUEEN展」もおもしろかった。
スコットランドの画家ピータードイグは、今回の『コンスタブル展』に多くの作品を貸し出している「テート美術館」で個展を開いたことがあります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
クリックいただけるとうれしいです^^
コメント