東京都美術館の
「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」に行ってきました。
2月のことですけれども。
少々時間がたってしまった現在、
この「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」は東京都での展示が終了。
6月まで北海道で開催され、
7月からは大阪、10月からは宮城県を巡回する予定となっています。
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」の感想
全体の感想
オランダ絵画らしい素朴で日常的な風俗画がたくさん展示されていて、展覧会全体の落ち着いた空気感に癒されました。
派手さはないけれど、粛々と名画を紹介してくれる展覧会だと思います。
だからこそ、音声ガイドがあるととっても濃厚な時間になります。
ぜひ、音声ガイド、聞いてみてください。
ちなみに「ドレスデン国立古典絵画館」は
ドイツ東部ザクセン州の州都・ドレスデンのツヴィンガー宮殿の一角にある美術館です。
ドイツ・ドレスデンの街並み
オランダ絵画は「市民の絵画」
私がオランダ絵画に惹かれる理由は
宗教画よりも「肖像画・風俗画・風景画・静物画」といった現実的で親しみやすいジャンルが中心だという点です。
それは、オランダ絵画が 教会や宮廷のためではなく、お金持ちの市民のために発達したからです。
16世紀にスペインから独立したオランダは、プロテスタント国家であり商業国家となりました。
偶像崇拝を認めないプロテスタントですので
絵画は教会や宮廷のものではなく、コレクションを楽しんだり投資の対象として使うお金持ちの「新興市民」を対象に発達していきました。
ヘラルト・テル・ボルフ《手を洗う女》1655-56年頃 油彩、板 ドレスデン国立古典絵画館
こういった日常的な場面が描かれた絵がとても好きです。
女性のドレスの光沢感、壁にかかった絵の額縁、テーブルクロスの絵柄など、細かなディティールに注目するのも、当時の生活を観るようで楽しい…!
また、レンブラントの肖像画《若きサスキアの肖像》は、独特な空気をまとった個性的な作品でした。
レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》1633年 油彩、板 ドレスデン国立古典絵画館
サスキアという女性はレンブラントの奥さんで、ふたりはまさにこの肖像画が描かれた1633年に婚約しています。
わたしがサスキアならもう少し綺麗に描いてほしいところですけれども、目を引く作品ではありますね。
レンブラントはオランダ美術最大の巨匠であり、
宗教的な絵も描きますし、有名な《夜警》のように集合絵を歴史画に見立てた絵も描くし、このような肖像画も描くし、非常にジャンルの広い画家です。
しかし、オランダではそんなオールラウンダーよりも、運河を描くのが得意、森林が得意、といったように、専門に特化した画家の方が一般的でした。
パウルス・ポッテル《家畜の群れ》1652年 油彩、板 ドレスデン国立古典絵画館
パステル・ポッテルは風景画、なかでも牛のいる風景が得意だったそうです。
のどかでやわらかな日差しや風を感じる、とても暖かい作品です。
"鳥売り"の隠れた意味
オランダ絵画に見られる
寓意というのか、隠れたメッセージを潜ませる絵画もまた、鑑賞者を楽しませてくれます。
例えば"鳥売り"のテーマです。
ハブリエル・メツー《鳥売りの男》という作品は、一見みすぼらしい老人が綺麗な格好をした若い女性に鳥を売るワンシーンを描いた作品です。
しかし、オランダ絵画での「鳥」は"男女の関係"の象徴。
複数の鳥を売るというのは、男女の関係をお金で売り買いすることの寓意で、娼婦と客の関係を示していると解釈できる作品になっています。
ハブリエル・メツー《鳥売りの男》1662年 油彩、板 ドレスデン国立古典絵画館
本展では、同じくハブリエル・メツーの《鳥売りの女》の展示もあり、比べながら見るととてもおもしろいです。
《鳥売りの女》のほうは、鳥を売るのは女性で、男性が客。
《鳥売りの男》とは立場が逆転している一方で、複数の鳥や犬が出てくるところは共通しています。
ハブリエル・メツー《鳥売りの女》1662年 油彩、板 ドレスデン国立古典絵画館
新たな登場人物として黒い服を着た老婆がいますが、まるで客である男性と鳥売りの女性との間に立って、値段交渉をしている"取り持ち女"のように見えます。
このように、何気ない日常の一場面を描きながら、お金が絡んだ男女の関係を意味する、含みのある作品となっています。
ところで、ドレスデン国立古典絵画館は
今回来日している《窓辺で手紙を読む女》以外にもう一つ、フェルメールの《取り持ち女》を所蔵しています。
ヨハネス・フェルメール《取り持ち女》1656年 油彩、カンヴァス ドレスデン国立古典絵画館
※本展に展示はありません※
残念ながら本展での展示はありませんが、これも並べて見られたら なお楽しかったなと思いました。
こういった少し危険でソワソワさせられる作品は、スパイスが効いていて背徳感もあり、ついつい惹かれてしまいます。
フェルメール《窓辺で手紙を読む女》の修復背景
本展のメイン、フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》はやっぱり素晴らしかったです。
修復前後を比較して観られるなんて とても贅沢ですし、修復過程もかなり詳しく解説されていた点も良かったです。
(修復前の《窓辺で手紙を読む女》は2001年に描かれた複製画が展示されています)
ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復前・後)1657-59年頃 油彩、カンヴァス ドレスデン国立古典絵画館
修復後の《窓辺で手紙を読む女》は、修復したてでキラキラ輝き、ニスの黄ばみも取り除かれてひときわ綺麗でした。
修復作業でニスを剥がす映像が見られるのですが、本当に細かくて繊細も繊細。
すこしのミスも許されず、綿密にすこしずつ仕上げられる工程は途方もなくて、尊敬しかありません。
フェルメールが描いたままの姿が甦った、歴史的な変化だと感じました。
それにしても
いつ、だれが、何の目的でキューピッドを無かったことにしたかったのでしょうかね。
宗教的な理由があったのか、当時の政治に関係していたのか、歴史ミステリーみたいです。
●1979年時点で、本作品にキューピッドが隠れされていることは分かっていたが、フェルメール本人の意志によるものだとされていた。
●2017年の絵画保存計画で、作品を覆う古いニスを剥がして汚れをとることになった。
●溶媒を使ったニスを剥がす作業中、キューピッド部分のニスと、他の部分のニスで、溶媒の反応に違いがあることに気がついた。
●科学調査の結果、キューピッド部分にニスを上塗りした形跡があり、上塗りされた時点で元の絵の完成から数十年経過していることが判明した。
●フェルメールが亡くなったのは本作品を描いてから17年後のため、キューピッドを塗りつぶしたのはフェルメール本人ではなく、第三者が行ったことだとわかった。
●塗りつぶされたキューピッドの状態も良かったため、修復することが決定した。
お気に入りの一作
オランダ絵画って、おちゃめな要素やふふっとさせられる要素があって、やっぱりおもしろいです。
この女性の肖像画も、いい感じの絶妙な肖像画だと思いました。
バルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト《緑のカーテンから顔を出す女》です。
バルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト《緑のカーテンから顔を出す女》1652年 油彩、カンヴァスドレスデン国立古典絵画館
なんでわざわざカーテンからひょっこりと…という突っ込み要素もありつつ。
緑・赤・白という華やかな色の組み合わせと、
女性の飾らない描写…首周りのお肉や顔の赤み、眉毛、ふっくらとしたやわらかそうな手など、ほんとうに当時生きていた女性なんだろうなと思うと、大昔のヨーロッパの絵画も身近で親しみやすく感じます。
「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」―
とっても楽しかったです。
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」のグッズ
グッズはとても充実していて買い物が楽しかったです。
美術展のグッズってかわいいし、これきりだと思うとついついたくさん買ってしまいますね…。
ポストカード
今回のポストカードは紙がツルツルの光沢写真のような印刷でした。
とてもきれいです。
お気に入りの絵がポストカードになっていたらうれしいですよね。
またコレクションが増えました。
しっかり修復前と、修復後、買いましたよ。
2つ並べて写真が撮りたかった!
ポストカードは 各150円(税込)です。
ネームはんこ・バースデーキーホルダー
ネームはんこと誕生日のキーホルダーです。
フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》のほんわかイラスト。
デフォルメされたキューピッドちゃんがとってもかわいいです。
塗りつぶしてあるところに、名前や誕生日が入っています。
ネームはんこの名前はひらがなで、はんこはシャチハタではなく朱肉がいるタイプでした。
ネームはんこが 715円(税込)、
バースデーキーホルダーが 935円(税込)です。
フェルメール×ストロープワッフル
オランダの有名お菓子「ストロープワッフル」とのコラボ商品です。
メープルを薄いワッフルクッキーで挟んだしっとり甘いクッキーで、とってもおいしいです。
パッケージも可愛いしたくさん数が入っているので、お土産にぴったりだなと思いました。
ストロープワッフルは 756円(税込)です。
オランダ菓子「ドロステ」
オランダお菓子、ドロステのチョコレートとココアです。
美術展で買わなくても他のお店で買える商品ではありますが、オランダ気分が高まったので買ってしまいました。
ココアはパッケージのレトロさが可愛くて買ってみました。
甘さがないココアで、ミルクと合わせるととってもおいしいです。
チョコレートは何度かリピートしているのですが、中にオレンジピールが入っていてすごく美味しいです。
他にもいろいろな種類のチョコレートがありました。
ココアは 1,080円(税込)、
チョコレートは 各種 324円(税込)です。
東京都美術館常設のグッズ売り場で
時間があったので東京都美術館の常設グッズ売り場ものぞき見。
フェルメールのグッズで良さそうなものを買ってきました。
板チョコは今回の展覧会に合わせてそろえられたのか、いつも売られているのか。
厚みがあって味も濃厚でおいしかったです。
この切手シートみたいなグッズも買いました。
フェルメールのやわらかい色づかいと光り加減は、グッズになるとすごくかわいいです。
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」 その他情報
混雑状況・所要時間
2月の東京都美術館での状況になりますが…
有名作品の前では自由に動き回れるわけではありませんでしたが、チケットは日時指定予約制だったので、大部分は不自由なく鑑賞できました。
所要時間は1時間半くらいでした。
音声ガイド
ナビゲーターは 女優の小芝風花さん、
ナレーションは 声優の梅原裕一郎さんで、600円(税込)です。
モチーフの意味など細かいことをたくさん教えてくれるので、本展のような展覧会には是非音声ガイドを聴きながら鑑賞すると濃厚な時間になると思います。
巡回
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」は現在、東京展を閉幕して北海道を巡回中。
その後、7月から大阪、10月からは宮城で開催予定です。
くわしくは次の開催概要をご覧ください。
展覧会開催概要
展覧会名 | ドレスデン国立古典絵画館所蔵 「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」 |
●東京展(終) | 東京都美術館 2022年2月10日(木)〜4月3日(日) ▶ 東京展 特設サイト ▶ Twitter:@VermeerTen |
●北海道展 | 北海道立近代美術館 2022年4月22日(金)〜6月26日(日) ▶ 北海道展 特設サイト ▶ Twitter:@vermeer_sapporo |
●大阪展 | 大阪市立美術館 2022年7月16日(土)〜9月25日(日) ▶ 大阪展 特設サイト ▶ Twitter:@Vermeer_Osaka |
●宮城展 | 宮城県美術館 2022年10月8日(土)〜11月27日(日) ▶ 宮城展 特設サイト ▶ Twitter:@miyagi_bijutu |
混雑状況 | 東京展では程よく混んでいました |
所要時間 | 1時間半 |
音声ガイド | 600円(税込) 女優・小芝風花さん、声優・梅原裕一郎さん |
撮影スポット | 東京展では無し |
グッズ | すごく充実 |
おまけ : 今、日本にいるフェルメール2作品
フェルメールは作品数が少ないことで有名です。
現存する作品は35品と言われています。
そんなフェルメール作品、今年は早くも2つ観ることができました。
右の作品《信仰の寓意》は、「メトロポリタン美術館展」のほうで感想を残したいなと思います。
ふふふ。幸せです。
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▼ドレスデン国立古典絵画館の公式サイトはこちら
▼ 森アーツセンターギャラリーでは「特別展アリス」が開催中です。
アリスのへんてこりんな世界がそのままに、原作ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』から、ディズニー映画、バレエ、ファッションに至るまであらゆるアリスの世界を体験できます。
▼ 「リヒター展」もまだまだ開催中です。音声ガイドも充実しているので、私みたいに「抽象画って難しいな…」と持っている方も楽しめる内容だったと思います。
▼「メトロポリタン美術館展」でもう一つのフェルメールを観てきました。本展では女性の人物画でとくに惹かれるものが多く、中野京子さんの著書『怖い絵』の表紙にもなった画家の作品も展示されています。
▼オランダ絵画の雰囲気は、デンマーク絵画にも共通しているものがある気がしています。2020年に開催された「ハマスホイとデンマーク絵画展」も大好きな展覧会でした。
▼親しみやすくて、身近で、愛おしさがこみあげてくるという点で、ナビ派の絵画も外せません。2020年の『画家が見たこども展』も楽しかったです。
▼オランダ絵画が民衆のための絵画なら、こちらは王宮絵画ですね。色づかいやらタッチやらが全く異なっていて、比べるのもおもしろいかもしれません。
▼Twitterでは、気ままに美術や読書についてつぶやいていますのでよかったら見てください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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