東京ステーションギャラリーの
「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」に行ってきました。
私にとってはおそらく初めてお目にかかる画家でした。

カール・ヴァルザー(1877-1943)は、20世紀前半に活躍したスイス生まれの画家です。
絵画や舞台芸術、本の挿絵や壁画など幅広く活躍して人気を博していましたが、時代の変遷とともに忘れ去られていったヴァルザーは、近年、母国スイスで再評価が始まっているものの、まだ知名度の低い画家なのだそうです。
本展はスイスからの呼びかけによって実現した、日本初のカール・ヴァルザー回顧展!
出展された150点はすべてスイスから初来日した日本初公開の作品です。
| この記事は美術展で個人的に好きになった作品の画像と共に、会場解説・音声ガイド・図録なども参考にしながら、勉強日記のような感覚で感想を書いたものです。 ネタバレを避けてグッズなどの展覧会情報だけを知りたい方は「カール・ヴァルザー展展 情報」までジャンプしてください。 |
「カール・ヴァルザー展」 感想
展示構成
ミュージアムショップ入口横の壁
本展は全4章に分かれています。
- 第1章 絵画と素描
- 第2章 日本滞在
- 第3章 挿絵と装丁
- 第4章 舞台美術
「第1章 絵画と素描」は油絵やパステル画が展示されたセクションで、個人的にはいちばんの見どころでした。
「第2章 日本滞在」はヴァルザーが日本旅行で残した、日本を描いた水彩画がメインです。
「第3章 挿絵と装丁」はモノトーンの線を重ねた挿絵が多数。
「第4章 舞台美術」は衣装デザインの可愛らしく繊細な模様が印象的でした。
各章からお気に入りの作品を記録に残しておきたいと思います。
第1章 絵画と素描
テラスからの眺め
カール・ヴァルザー《テラスからの眺め》(部分)1900年頃 油彩,厚紙 個人蔵
カール・ヴァルザーは1877年、スイスのベルン近郊にあるビールという街で生まれました。
ドイツ語圏とフランス語圏の境界に位置する街です。
シュトラスブルク(現在のフランス・当時はドイツ領) の美術工芸学校で学んだヴァルザーは、1899年、21歳でベルリンに移住し、ベルリンを中心に活動しました。
本作《テラスからの眺め》はちょうどその頃に描かれた作品です。
写実的な表現とはまた違った、絵本のワンシーンのような非現実味を帯びた作風に惹かれました。
婦人の肖像
カール・ヴァルザー《 婦人の肖像》1902 油彩,厚紙 ゴットフリート・ケラー財団(新ビール美術館寄託)
1902年、ヴァルザーが22歳の時。
本作《婦人の肖像》を含む絵画3点を「ベルリン分離派展」に初出品、その翌年に会員となります。
- ミュンヘン分離派(1892年発足)
- ウィーン分離派(1897年発足)
- ベルリン分離派(1899年発足)
「ウィーン分離派」にはあのクリムトやエゴン・シーレが属しています。
本作《婦人の肖像》は油彩画ですが、ドレスの線の入り方など彫刻を思わせる変わった表現が成されています。
全体的に歪みのある描写で独特なオーラをまとった婦人は、一体どこに座っているのでしょうか。
背景との位置関係が不思議なことになっていて、とってもインパクトのある作品だと思いました。
人形の乳母車と少女
カール・ヴァルザー《人形の乳母車と少女》1905年以前 油彩,厚紙 新ビール美術館
《人形の乳母車と少女》もまた印象的でした。
描かれている女の子は可愛いだけには留まらない、どこか異質なものを感じます。
『不思議な国のアリス』のジョン・テニエルの挿絵を彷彿とさせる頭の体の絶妙なバランスが、少女に奇妙なオーラをまとわせているようです。
ヴァルザーはこの頃、本の装幀や挿絵、舞台美術、壁画などの仕事をする一方で、このような象徴主義的な絵画にも取り組んでいました。
独特で神秘的な恐ろしさを含んだ作品たちがとても魅力的で、良い画家を知れたなあと大満足でした。
第2章 日本滞在
花火
ヴァルザーは日本に旅行に来たことがあるそうです。
なんでも、ヴァルザーが他の女性を愛したことを知った恋人が自死してしまったことで、鬱病になってしまったヴァルザーは、心の休息の地として、この日本を訪れることにしたのだとか。
カール・ヴァルザー《花火》(部分)1908 水彩,鉛筆,紙 個人蔵
1908年、ドイツの小説家ベルンハルト・ケラーマンとともに来日したヴァルザーは、横浜、東京、京都、宮津(京都)、伊勢などを訪れ、熱心に日本の風景や風俗を描きました。
多くが水彩画で描かれましたが、これまでほとんど公開されてこなかったために当時の鮮やかで美しい色彩を残しているのだそうです。
本作《花火》は、本展で展示されたヴァルザーの日本を描いた作品のなかでいちばん気に入った作品です。
とくに、雫がしたたり落ちるような花火の描き方が珍しく思いました。
華やかで繊細かつ花火の力強い光が伝わってきて、とっても美しかったです。
第3章 挿絵と装丁
ひどい頭痛!どうしたらよいかわからない
カール・ヴァルザー 「ひどい頭痛!どうしたらよいかわからない」 1910年頃 ドライポイント,紙 スイス国立図書館
ヴァルザーは生涯を通じて、挿絵や舞台美術、室内装飾や壁画の仕事で生計を立てていたそうです。
ドイツとスイスにはいくつもの壁画が現存しているほか、装幀や挿絵でも少なくない仕事を残しました。
ジャン= バティスト・ルーヴェ・ド・クーヴレ著『シュヴァリエ・フォーブラのアバンチュール』挿絵のための版画 「ひどい頭痛!どうしたらよいかわからない」 は黒線を重ねて描かれた作品です。
ビアズリーを彷彿とさせる作風が印象に残りました。
ビアズリーは若くして亡くなってはいますが、ヴァルザーよりも5歳年上で同時代を生きた画家。
通ずるところがあったのだろうと思います。
第4章 舞台美術
『夏の夜の夢』より
カール・ヴァルザー 『夏の夜の夢』より 1905 リトグラフ,紙 新ビール美術館
舞台美術の分野では、シェイクスピアをはじめ多くの作品でセットやコスチュームのデザインを担当しました。
本作 ウィリアム・シェイクスピア作『夏の夜の夢』より では、挿絵の時とはまた違ったタッチで、妖精が登場する神秘的な『夏の夜の夢』の物語を表現しています。
カール・ヴァルザー 『ロミオとジュリエット』衣装デザイン:乳母 1907 グアッシュ,パステルチョーク,水彩,紙 新ビール美術館
カール・ヴァルザー 『フィガロの結婚』衣装デザイン:小姓/バルトロ/鞭を持つ伯爵/変装する小姓 1911 リトグラフ,水彩,紙 新ビール美術館
ウィリアム・シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』衣装デザイン:乳母 や ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲『フィガロの結婚』衣装デザイン:小姓/バルトロ/鞭を持つ伯爵/変装する小姓 をはじめとする衣装デザインでは、そのまま挿絵やファッション雑誌に使えそうな繊細な模様や色遣いで、もはやひとつの作品として成立していました。
ひとつひとつがとても可愛らしいイラストレーションになっています。
お気に入り作品《隠者》
カール・ヴァルザー《隠者》1907 油彩,カンヴァス チューリヒ美術館
本展での私のいちばんのお気に入りは《隠者》です。
第1章に展示されていた作品で、ヴァルザーの独特な雰囲気がふんだんに詰まった作品だと思いました。
"隠者"とは、西洋では荒野などで修行に専念した修道士や聖者を指す言葉ですが、写本のような書物を読んている隠者はのんびりだらけているように見えます。
描かれている男性のサイズと、建物や木々のサイズがちぐはぐで、現実とは全く異なる遠近感で表されています。
隠者のおじいさんとかわいらしいピンク色の建物のマッチしていない感じも好きです。

ブリューゲルの《バベルの塔》を思い出すような、宗教観がありつつ謎が多くてちょっとへんてこで猟奇的な感じが、印象に残りまくった作品でした。
綺麗で変な絵ってかんじで、とてもおもしろいです。
「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」―
カール・ヴァルザーという画家の魅力を教えてもらって、とても充実した時間を過ごせました。。
ヴァルザー自身の人柄や人生について、もっと詳しく知りたくなった展覧会でした。
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「カール・ヴァルザー展」情報
グッズ

カール・ヴァルザー展のグッズのラインナップは少なめでした。
私はポストカードをたくさん買ってきました。
1枚 180円(税込)でした。
その他、紙製のブックマーカー、トートバッグなどがあったかと思います。
図録も装丁が可愛かったのですが、今回は我慢。
トートバッグも可愛くて手に取りかけたけど、最近買いすぎなのでこれまた思い留まりました。
グッズは常設のミュージアムショップ内で購入できます。
ショップのみの利用はできないので、鑑賞の際にはお財布を持って入場してください。
混雑状況
5月下旬の平日夕方前に行きました。
混雑なしで、ゆったり静かに鑑賞できました。
所要時間
所要時間は1時間半程度です。
私はすべての解説にざっと目を通しながらフロアを2周くらいして、1時間半くらいでした。
チケット

一般 1,800円 (税込) です。
私は事前にオンラインチケットを購入しました。
入場時に絵柄チケットが貰えてとても嬉しかったです!!
チケットに使われている作品《デルフトの街角》は、実物も可愛らしい作品でしたよ。
ロッカー
東京ステーションギャラリーではロッカーを利用できます。
場所は、ギャラリーの扉をくぐって正面方向にあります。
無料の鍵式で 100円玉は不要です。
音声ガイド
カール・ヴァルザー展に音声ガイドはありません。
写真撮影

展示会場の出口にフォトスポットがあります。
ミュージアムショップへ行くために、いったん東京駅の上階に出た所です。

巡回情報
カール・ヴァルザー展は 東京⇒大阪 へ巡回予定です。
展覧会情報まとめ
お出かけ前に美術館公式サイトをご確認ください。
下記はすべて東京展の様子です。
展覧会名
スイス絵画の異才
カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照
東京会場
会期
2026年4月18日(土) ~ 6月21日(日)
開室時間
10:00 – 18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
休室日
月曜日
※6/15は開館
混雑状況
ゆったり静かに鑑賞できた
※5月下旬・平日夕方前の様子
所要時間
1時間半程度
チケット
一般当日券 1,800円
※オンライン券でも入口で絵柄チケットが貰える
音声ガイド
なし
ロッカー
無料/100円玉不要
グッズ
種類は少なめ
※展示会場「内」の特設ショップにて
※特設ショップのみの利用は不可
写真撮影
展示会場を出たところにフォトスポットあり
展示会場内は撮影不可
巡回情報
大阪中之島美術館
2026年7月4日(土) ~ 9月27日(日) 予定
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関連情報
●「チュルリョーニス展 内なる星図」
国立西洋美術館で2026年6月14日(日) まで開催中。
作曲家でもあるチュルリョーニスが描く音楽と絵画が融合した抽象絵画の神秘的な雰囲気といったら!
一瞬で人知をこえたファンタジーの世界に連れて行ってくれる展覧会でした。

●「ウジェーヌ・ブーダン展 ― 瞬間の美学、光の探求」
SOMPO美術館で2026年6月21日(日) まで開催中。
その後、2027年3月22日(日) まで長野 ⇒ 山梨 ⇒ 群馬 ⇒ 京都を巡回予定。
モネに戸外制作を教えた"空の王者"ブーダンの大回顧展です。
海の絵はもちろんさすがでしたが、ブーダンの海以外の作品が見られて新鮮でした。

●「アンドリュー・ワイエス展」
東京都美術館で2026年7月5日(日) まで開催中。
その後、12月6日(日)まで愛知⇒大阪を巡回予定。
父と幼い甥を事故で亡くしたことをきっかけに抱いた「死生観」、すべては移り変わり、決して立ち止まってはくれないという「無常観」。
それらは窓や扉などといった「境界」を暗示するモチーフとして表され、作品たちに漂う、切なくも暖かな空気が心に響きました。

●「エゴン・シーレ展」(2023年)
カール・ヴァルザーはベルリン分離派でしたが、シーレはその前に発足したウィーン分離派の画家です。

●「異端の奇才 ビアズリー展」(2025年)
スイスのヴァルザーとイギリスのビアズリー。
2人のモノクロの線画はどこか似ているような表現で、本展の解説でもその点が指摘されていました。

●「特別展アリス」(2022年)
ヴァルザーの描いた少女の身体のバランスがアリスに似ている気がしてます。

▼ 2020年から現在まで、観に行った美術展の感想はこちらにまとめています

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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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A. 大手町から東京駅へ出るところ
本記事での作品画像はすべて購入したポストカードを撮影したものです
