東京都美術館開館100周年記念
「アンドリュー・ワイエス展」に行ってきました。

アンドリュー・ワイエスの作品を観るのはおそらく初めてでしたが、すごく感動して大ファンになってしまいました。
ワイエスが抱く死生観、無常感にかなり共鳴してしまったからかもしれません。
| この記事は美術展で個人的に好きになった作品の画像と共に、会場解説・音声ガイド・図録なども参考にしながら、勉強日記のような感覚で感想を書いたものです。 ネタバレを避けてグッズなどの展覧会情報だけを知りたい方は「アンドリュー・ワイエス展 情報」までジャンプしてください。 |
「アンドリュー・ワイエス展」 感想
ワイエスという画家
展示室にて撮影
アンドリュー・ワイエス(1917~2009)は、20世紀アメリカの具象絵画を代表する画家です。
同時代の抽象表現やポップアートなどといった前衛芸術からは距離を置き、生涯にわたって生まれ故郷のペンシルヴェニア州と夏を過ごしたメイン州を拠点に、身近な人々や風景を精緻に描き続けました。
展示室にて撮影
父と幼い甥を事故で亡くしたことをきっかけに抱いた「死生観」。
すべては移り変わり、決して立ち止まってはくれないという「無常観」。
それらはしばしば、窓や扉などといった「境界」を暗示するモチーフとして表されているようです。
本展の展示作品のなかから、個人的に印象に残った作品をいくつか記録に残しておきたいと思います。
ワイエスの死生観、無常観
アンドリュー・ワイエス《マザー・アーチーの教会》1945 テンペラ/パネル Addison Gallery of American Art, Phillips Academy ★
《マザー・アーチーの教会》はアフリカ系住民の心の拠り所だった教会を描いた作品です。
修道女 マザー・アーチーが亡くなってから使われなくなった教会で、天井を見上げるような視点を切り取っています。
暗い室内とは対照的に、窓から訪ねてきた白い鳩にはどんな意味が込められているのでしょう。
この絵が描かれた1945年、28歳だったワイエスは、父と幼い甥を踏切事故で亡くしました。
ワイエスの父は挿絵画家で、ワイエスが幼い頃から絵の手ほどきをしてくれただけでなく、音楽や文学、自然の素晴らしさや慎ましい生活の大切さを教えてくれた、心の温かな人物だったそうです。
この出来事は、年月を経てもなおワイエスの心にずっと強い衝撃を残し続け、ワイエスの作品の根底に漂う死生観、無常感に繋がっていると解説されていました。
なんでもない想い出
アンドリュー・ワイエス《洗濯物》1961 水彩/紙 カマー美術館 ★
《洗濯物》は、人が描かれていないのに人の気配がしてくる作品です。
風になびく洗濯物と大きな籠、隣に伏せる犬。
ギンガムチェックの布や、誰かが履いていたチェックのズボン。
モチーフの一つ一つに、他人に語るほどでもない、ともすれば自分自身でも忘れてしまうほどの些細な日常の記憶が宿っているようです。
《ぼろ布》や《花びら》の作品もまた、同様です。
アンドリュー・ワイエス《ぼろ布》1986 水彩/紙 Unimat Group
私が身近な人の死を経験したのは24歳の時でした。
ワイエスのように突然のことだったというわけではありませんが、10年以上たった今でもそのときの光景は鮮明に思い出せるし、夢に見ることもあります。
おそらく一生忘れられない、そして、これからもまた経験しなければならない出来事でもあります(誰しもがそうだと思いますが)。
いつもの日常があまりにも儚いものであったと気付かされ、それ以降、時の流れや変化に対して明らかに敏感になりました。
「行ってきます」「お帰りなさい」を言うときに、これを私はあと何回言えるのだろうと常に思い、未来に恐怖するようになりました。
アンドリュー・ワイエス《花びら》1991 水彩/紙 ボストン美術館
私がワイエスの作品に強く惹かれた理由は、日常の本当に些細な一瞬を切り取ったような作品が多いからです。
写真に残そうとすら思わないような、決して特別でない、本当になんの変哲もない"いつも"の時間。
それを一瞬も見逃さないように、感情を乗せた緻密なタッチで、まるで自身の心の網膜からカンヴァスに転写するように描きとった作品の数々に、涙が出そうになりました。
オルソン・ハウスの姉弟
1939年、ワイエスが22歳のとき、のちの妻となる17歳のベッツィと出会いました。
そして、ベッツィから年の離れた親しい友人として紹介されたのが、当時46歳だったクリスティーナ・オルソンです。
アンドリュー・ワイエス《クリスティーナ・オルソン》1947 テンペラ/パネル Myron Kunin Collection of American Art ★
クリスティーナは病気で足が不自由だったものの、独立心を持った女性で、弟のアルヴァロとともに、丘に建つオルソン・ハウスで暮らしていました。
ふたりの生き方と人間性に惹かれたワイエスは、その後 30年にわたり、このオルソン・ハウスと人々を描き続けたのだそうです。
オルソン姉弟は階段の上り下りのない1階で暮らし、ワイエスには上の階をスタジオとして使うことを快く許してくれました。
アンドリュー・ワイエス《表戸の階段に座るアルヴァロ》1942 水彩/紙 丸沼芸術の森 ★
姉を描いた《クリスティーナ・オルソン》と、弟を描いた《表戸の階段に座るアルヴァロ》。
どちらも扉のそばに腰かけて遠くに目線を送っていますが、見つめる対象は描かれず。
セピア色、モノトーンの風景に囲まれた姉弟の姿は、私の目には、どこか切なく、儚く、映りました。
アンドリュー・ワイエス《オルソン家の朝食》1967 水彩/紙 丸沼芸術の森 ★
姉のクリスティーと精神的に深く結ばれていたと語るワイエスですが、弟のアルヴァロのことも敬愛していたそうです。
好きだった海での漁を辞めて姉の介護を担い、懸命に働いていた弟のアルヴァロ。
《オルソン家の朝食》では窓の陰にその姿を映し出しています。
寡黙な性格でモデルになることを好まなかったアルヴァロは、姉とは異なり、ワイエスの作品ではこのように影として登場したり、人物を描くのではなく彼を暗示するモチーフのみで表されることが多くありました。
ふたりの性格の違いを表すような描き分けが、ワイエスとオルソン姉弟との親密な友情を象徴するように思えます。
アンドリュー・ワイエス《オルソン家の終焉》1969 テンペラ/パネル クリーブランド美術館 ★
1967年の暮れに弟のアルヴァロが病気で他界すると、その1か月後に姉のクリスティーナも亡くなりました。
ワイエスは住人のいなくなったオルソン・ハウスを訪れ、最後となる《オルソン家の終焉》を描いたのだそうです。
親しくしていたふたりを失った悲しみから目をそらすのではなく、あえて自分からその思い出に飛び込むワイエスの姿勢には、移ろいゆく時の流れに向き合い続けてきた彼の人生観が表れているのかもしれません。
隣にいてくれるひと
アンドリュー・ワイエス《ヒトデ》1986 水彩/紙 フィルブルック美術館
《ヒトデ》は本展の最後に飾られている作品です。
乾燥したヒトデの飾られた窓越しに双眼鏡を覗くのは、ワイエスの妻ベッツィです。
窓の向こう側には青い海が見え、明るく透きとおった光が画面いっぱいに広がっています。
どこか悲しみが漂っている作品が多かったなかで、本作はとても爽やかな雰囲気だったことが印象的でした。
お気に入り作品《ゼラニウム》
本展でいちばん惹かれた作品は《ゼラニウム》。
オルソン・ハウスの台所の窓を描いた作品です。
部屋の中にいるのはクリスティーナで、窓辺には彼女が好んだゼラニウムの赤い花が咲いています。
海が見える奥側の窓の前にある黒い影は、アルヴァロの仕事用の手袋だそうです。
アンドリュー・ワイエス《ゼラニウム》1960 ドライブラッシュ/水彩/紙 Farnsworth Art Museum
窓という「境界」が、明るい外と暗がりの室内を隔てている構図は、一見、室内にいるクリスティーナに悲壮感を与えているようにも見えますが、私には決してそうとは言い難いように思われます。
クリスティーナが好きだったゼラニウムの花が飾られた窓辺。
彼女を支えた弟アルヴァロを象徴するモチーフ。
海が見える窓からの光がクリスティーナの髪をそっと輝かせる様子。
それらすべてはクリスティーの暮らしを暖かい世界へ導くものです。
足の不自由だったクリスティーナの暮らしのすべてが、ワイエスが惹かれたオルソン・ハウスの日常が、この一枚の絵に凝縮されているように思いました。

それはどこかずっと切なくて、でもほんのり温かい。
アンドリュー・ワイエスの作品たちは、わたしたちが生きていくなかで避けては通れない時の流れの夢のような儚さと、死ぬまで生き抜いていくために糧となる身近な人たちとの何気ない思い出の大切さを、観ている者に訴えかけてくるようでした。
「アンドリュー・ワイエス展」、観に行けて本当によかったです。
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「アンドリュー・ワイエス展」情報
グッズ

アンドリュー・ワイエス展のグッズはラインナップが豊富で選ぶのが楽しかったです。
私は買わなかったのですが、スヌーピーとのコラボグッズもありました。
グッズは展示会場内の特設ショップで購入できます。
ショップのみの利用はできないので、鑑賞の際には お財布を持って入場してください。
ポストカード

図録は重くて断念したので、ポストカードをたくさん買ってきました。
ポストカードは1枚 200円(税込)でした。
すべての美術展で、ミニサイズの図録も出してほしいな、普通サイズと同じ値段でもいいから。
だんだん図録の収納場所にも困ってきました。
トートバッグ

《ゼラニウム》が気に入りすぎてトートバッグまで買ってしまいました。
黒地に作品の白と赤が良く映えます。
2つ折りにして持って帰ったら少し折れ目が付いてしまいましたが、直りそうでよかったー。

内ポケットなしのシンプルな作りですが、印刷がとても綺麗でした。
2,530円(税込)でした。
A4額絵《ゼラニウム》

《ゼラニウム》が気に入りすぎて額絵まで買っています。
800円(税込)でした。
A4サイズの厚紙に印刷されたもので、飾る際には別で額縁を用意するタイプです。
ミニチュアカンヴァスがあればよかったのですが、最近はこの売り方の美術展が増えた気がします。
特設ショップに売っている白い額縁がとても可愛かったのに、残念ながら私が行ったときは売り切れでした。

しかたなくAmazonで探して額縁を購入。
全体がA4サイズ、作品部分は六つ切サイズだったので、額縁は六つ切にしました。
結果的にお安い値段で良いものが買えたので満足しています。
キャンディ缶《オルソンの家》

《オルソンの家》のキャンディ缶も買いました。
1,188円(税込)でした。
ブルーベリー味が10個入っていて、和風っぽさのある甘酸っぱいお味がとても美味しかったです。
キャンディ缶は、美術展のお菓子のグッズのなかでは手に取りやすいお値段なうえ、持ち帰りやすいのでよく購入します。
小さな缶もたくさん集まってきたなあ。
混雑状況
5月中旬の平日昼頃に行きました。
撮影可能エリアでは多少混雑する場面もあるのですが、全体としては混雑しているというほどでもなく、落ち着いて鑑賞できました。
所要時間
所要時間は1時間半~2時間程度です。
私は音声ガイドを聴きつつ、すべての解説にざっと目を通しながらフロアを2周くらいして、2時間かかりました。
チケット
一般 2,300円 (税込) です。
当日窓口、またはオンライン購入でき、私はオンラインで購入しました。
私が行った日はチケット窓口で並んでいる様子はありませんでした。
ロッカー
東京都美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーは無料の鍵式で 100円玉が必要です。
音声ガイド

音声ガイドは2種類から選べます。
私はアプリ版を購入しました。
展覧会ナビゲーターは吉瀬美智子さん(俳優)、ナレーションは神尾晋一郎さん(声優)でした。
- 会場レンタル版 700円(税込)
- アプリ配信版 700円(税込)
写真撮影
アンドリュー・ワイエス展では、一部のセクションで写真撮影が可能です。
巡回情報
アンドリュー・ワイエス展は東京展のあと、愛知、大阪へ巡回予定です。
展覧会情報まとめ
お出かけ前に美術館公式サイトをご確認ください。
下記はすべて東京展の様子です。
展覧会名
東京都美術館開館100周年記念
アンドリュー・ワイエス展
特設サイト
東京会場
東京都美術館 [東京・上野公園]
会期
2026年4月28日(火)~7月5日(日)
開室時間
9:30―17:30
※金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日
月曜日
※6月29日(月)は開室
混雑状況
ある程度落ち着いて鑑賞できた
※5月中旬・平日昼間の様子
所要時間
1時間半~2時間程度
チケット
一般当日券 2,300円
音声ガイド
会場レンタル版 700円(税込)
アプリ配信版 700円(税込)
ロッカー
無料/100円玉必要
グッズ
豊富なラインナップ
スムーピーとのコラボグッズあり
※展示会場「内」の特設ショップにて
※特設ショップのみの利用は不可
写真撮影
展示会場内の一部のセクションが撮影可
巡回情報
豊田市美術館
2026年7月18日(土)~9月23日(水・祝)予定
あべのハルカス美術館
2026年10月3日(土)~12月6日(日)予定
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関連情報
●「チュルリョーニス展 内なる星図」
国立西洋美術館で2026年6月14日(日) まで開催中。
作曲家でもあるチュルリョーニスが描く音楽と絵画が融合した抽象絵画の神秘的な雰囲気といったら!
一瞬で人知をこえたファンタジーの世界に連れて行ってくれる展覧会でした。

●「『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」(2024年)
人物を描かない代わりにその人を象徴するモチーフを描くことで「存在」を表現していたアンドリュー・ワイエス。
反対に、ワイエスとはまた違った制作方法で「不在」を表現したアーティストがソフィ・カルさんでした。

●「印象派 モネからアメリカへ」(2024年)
絵画といえばヨーロッパであり、アメリカはどちらかというとポップアートのイメージが強かったのですが、だんだんと認識が変わりました。
この展覧会もアメリカだったなあ。

●「ハマスホイとデンマーク絵画」(2020年)
アンドリュー・ワイエスとハマスホイが似ているという話をしている人がいて、確かになあと思いました。
ハマスホイも、扉、ドア、窓のモチーフが多く、モノトーンの色調や清閑な雰囲気など、ワイエスと共通するところがあります。

▼ Amazonで見つけた額縁はこちらです。
シルバーに近い白さのあるゴールドで、値段のわりに安っぽくなくて気に入りました。
重みがあり、立て掛け、壁掛けが可能です。

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▼ 2020年から現在まで、観に行った美術展の感想はこちらにまとめています

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【おまけ】開館100周年だそうです

いつものように東京都美術館の門前で写真を撮ってから敷地内に入ると、100周年のポスターが。
今年 2026年は、開館100周年となるアニバーサリーイヤーだそうです。

日本で最初の公立美術館、東京都美術館が開館したのは 1926(大正15)年。
これからも末永く続いてもらえるように、たくさん通いたいです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
美術展や読書記録の X もやっているので、よければ遊びに来ていただけると嬉しいです。
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★の画像は購入したポストカードを撮影したものです
