東京国立近代美術館の
「ゲルハルト・リヒター展」に行ってきました。
リヒター生誕90周年。画業60周年。
リヒターの初期作品から最新のドローイングまで、約120点が一望できる展覧会です。
日本では16年ぶり、東京では初となる美術館での個展とのこと…!
現存の芸術家の個展を観るのは久しぶりで、とっても楽しみにしていました。
個人的な感想や楽しかったところをまとめていますので、共有できたら嬉しいです。
「ゲルハルト・リヒター展」 感想・楽しかったところ
全体の感想 ― ゲルハルト・リヒターの画業60年
ゲルハルト・リヒターは、
世界の名だたる美術館で個展を開催する、現代の大芸術家です。
【フォト・ペインティング】、【カラーチャート】、【アブストラクト・ペインティング】などなど、唯一無二の表現で様々な作品を生み出してきた方です。
ゲルハルト・リヒター《3月》1994 油彩、キャンバス 作家蔵
この「ゲルハルト・リヒター展」では、リヒター自身が手元に置いてきた「作家蔵」の作品が多数出展されています。
初期の作品から最新のドローイングまで、約120点が一望できる、大満足の展覧会です。
● 1932年、ドイツ東部のドレスデンに生まれる(今年で90歳!)
● 東ドイツでは壁画家として活躍していた
● ベルリンの壁がつくられる直前の1961年、自由に惹かれ西ドイツに移住してデュッセルドルフ芸術アカデミーで学んだのち、ケルンを拠点に活動を続けてきた
● コンラート・フィッシャーらと「資本主義リアリズム」という運動を展開し、独自の表現で徐々に名前が知られるようになる
● 油彩、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡などあらゆる素材を使った表現で、現代で最も重要な画家として世界から評価される
展示風景:ゲルハルト・リヒター《4900の色彩》(一部)2007 ラッカー、アルディボンド、196のパネル ゲルハルト・リヒター財団蔵
リヒターといえば抽象表現が印象的なアーティストです。
「難しいかな…」「楽しめるかな…」と思いながら観に行ったのですが、会場に入ると、小さなキャンバスから大きなキャンバスまで ありとあらゆる色彩と表現の数々に驚き、、、
とっても楽しく、充実した気持ちで鑑賞を終えました。
自由に動き回れる楽しさ
無料配布の冊子(会場マップ)
リヒター展では、順路というのがほぼ決まっていません。
会場内を自由に散策して、観たい作品から、好きなように鑑賞できます。
無料配布の冊子(キーワード解説)
会場でもらえる冊子には「会場マップ」と「リヒター作品を読み解くためのキーワード」が付いています。
マップとキーワードを頼りに探検感覚で作品を観て回ることができました。
リヒターといえばの【アブストラクト・ペインティング】
ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》2017 油彩、キャンバス 作家蔵
リヒターといえば、キャンバスに絵の具が不規則にのせられた抽象画、【アブストラクト・ペインティング】のイメージが強いですね。
このリヒター展でも、たくさんのアブストラクト・ペインティング作品が展示されています。
大判のものも多いので、見ごたえがありました。
展示風景:ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》2016 油彩、板 作家蔵
一つのキャンバスに何色もの色がのせられ、伸ばしたりこすったりにじませたり重ねたりと、様々な方法で描かれています。
リヒターはできるだけ「作為的な配置にならない、意識と切り離された」表現を目指すのだそうです。
しかし、何色を使うか、どういう方法を用いるかは画家自身が決定しているわけで…。
なんだか複雑で言葉にはし難いものなのかもしれません。
ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》2016 油彩、板 作家蔵
こちらのアブストラクト・ペインティングは特に印象的でした。
赤・青・黄・緑と鮮やかな色の組み合わせのなかに、明暗があり蛍光色にみえるところもあり、ずっと見つめていられるパワーがありました。
ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》2016 油彩、板 作家蔵(部分)
近くで見ると、複雑に色が重なり合っていて、どうやって描いたのかと考えてしまいます。
何を表現した作品なのか、知りたくもあり、知らないままで観ていたいような気もしてくるというのが、アブストラクト・ペインティングの魅力のようにも思えました。
写真みたいな「花」「風景」「肖像画」
抽象作品を生み出すリヒターですが、ものすごく画力がある方だというのは、静物画・風景画・肖像画ゾーンできっちり証明してくれています。
ゲルハルト・リヒター《花》1992 油彩、アルミニウム 作家蔵
まるで写真のような正確な描写。
それでいて、ピンボケしているいような輪郭をぼかす独特の表現がなされています。
ゲルハルト・リヒター《不法に占拠された家》1989 油彩、キャンバス ゲルハルト・リヒター財団蔵
リヒター展には本当に写真を使った作品もあるので、言われなければこれも写真だと勘違いしていたかもしれない…。
これが油彩画だと思うと恐ろしいなと思います。
ゲルハルト・リヒター《不法に占拠された家》1989 油彩、キャンバス ゲルハルト・リヒター財団蔵(部分)
写真をソフトフォーカスしたような表現は肖像画にも使われていました。
輪郭がぼやけて色がかすむような描写によって、ただの肖像画ではなく、どこか過ぎ去った昔の思い出を回想しているような 懐かしさや暖かさがにじんでくるような作品たちです。
肖像画の展示風景
手前の2点《水浴者(小)》と《トルソ》がリヒターの妻の写真に基づいて描かれ、奥の2点《モーリッツ》と《エラ》はリヒターの子供たちを描いたものです。
特に一番奥の《モーリッツ》が好きでした。
ゲルハルト・リヒター《モーリッツ》2000/2001/2019 油彩、キャンバス 作家蔵
大胆な筆の跡が目を引きます。
瞬間をそのまま転写している「写真」のようでありがなら、この筆跡があることで、写真とは圧倒的に違う時間感覚や距離感を付与されているように感じました。
「オイル・オン・フォト」の魔法
オイル・オン・フォトの展示風景(一部)
個人的に、リヒター展でいちばんのお気に入りとなったのが【オイル・オン・フォト】でした。
写真に油絵の具などを塗りつけた作品で、日付がそのまま作品名になっています。
ゲルハルト・リヒター《1998年2月13日》1998 油彩、写真 ゲルハルト・リヒター財団蔵
日付は、写真の撮影日でも、絵具を貼付した日付でもなく、おそらくは「リヒターによってそれが作品として成立すると判断された日付」なのだそうです。
ゲルハルト・リヒター《2015年4月28日》2015 油彩、写真 ゲルハルト・リヒター財団蔵
油絵の具によって写真からかもしだす空気が変わるようにも思えます。
赤とか緑とか強い色を上に重ねられていればいるほどに、絵具ではなく写真の方に注目してしまうような気がする不思議。
写真そのままよりも 写真の中の思い出の重要さが増したかのようで、非常に惹きつけられました。
近年の大作、《ビルケナウ》
最後に外せないのが、日本初公開であり、ホロコーストを主題にした《ビルケナウ》です。
(写真が撮れていなかったので、チラシでその一部を載せておきます…)
大判の4つの作品群。
会場では、強制収容所の内部を撮影した記録写真の複製が並べて展示されています。
モノクロに赤が混じる色彩表現で、壮絶な出来事が自ずと連想させられる強烈な作品です。
リヒター展の展示作品の多くを所蔵する「ゲルハルト・リヒター財団」は、この《ビルケナウ》の作品群を散逸させないことが設立のきっかけでした。
財団が所蔵する作品の多くが、今後、ベルリンの国立美術館に永久寄託される予定になっているそうです。
*本記事のここまでの内容は「ゲルハルト・リヒター展」無料配布冊子を参考にさせていただきました
「ゲルハルト・リヒター展」 情報
グッズ
大きなグッズ売り場ではなかったのですが、ポストカードやノートなどの文具など、定番アイテムはそろっていました。
ポストカードの種類が多くて、私も何点か購入。
値段は各165円(税込)です。
グッズ売り場はリヒター展会場内にありますので、お財布をもってお入りください。
混雑状況・所要時間
ドローイングの展示風景(すべて2021年・作家蔵)
平日夕方だったからか、あまり混んでおらずゆっくり自分のペースで観ることができました。
タイミングによっては展示の一角をひとりじめできるくらいです。
ほとんど順路があるわけではなく自由に動き回れるような構成になっています。
所要時間は1時間半くらい。
音声ガイドも混みでたっぷり時間をかけて鑑賞するなら、2時間くらいです。
チケット
私は7月の平日夕方に行ってきました。
偶然時間ができたタイミングだったので事前予約なしの飛び込みでしたが、待つことなく会場入りすることができました。
当日チケットは美術館外のチケット売り場で購入します。
予約優先チケットあり。
東京展では一般 2,200円(税込)です。
ロッカー
東京国立近代美術館では、無料のロッカーが利用できます。
数はそれほど多くないので、混雑時はいっぱいになってしまう可能性もあります。
音声ガイド
ナビゲーターは 俳優・鈴木京香さんです。
リヒターの作品は抽象的で何を表現しているのかわからないことも多いので、音声ガイドがあると自分の頭の中にとっかかりができて、作品を観る目が変わるのでおすすめです。
無料配布の冊子と合わせると結構な解説量ではないかな、と思います。
音声ガイドは会場レンタルと事前にアプリをダウンロードするタイプの2種類。
会場レンタルは 600円(税込・現金のみ)。
アプリは「聴く美術」(iOS/Android)より 610円(税込)です。
アプリ版を利用する際は、自分のイヤホンを持参してください。
撮影スポット
ゲルハルト・リヒター《鏡》1986 鏡(ガラス) ゲルハルト・リヒター財団蔵
リヒター展では、一部の作品をのぞき、会場内での撮影OKです。
巡回
「ゲルハルト・リヒター展」は
10月2日(日)まで東京で開催したあと、10月15日(土)からは名古屋・豊田市美術館を巡回予定です。
くわしくは次の開催概要をご覧ください。
開催概要
展覧会名 | ゲルハルト・リヒター展 |
●東京展 | 東京国立近代美術館 2022年6月7日(火)~10月2日(日) ▶ 東京展 特設サイト ▶ 美術館Twitter:@MOMAT_museum |
●愛知展 | 豊田市美術館 2022年10月15日(土)〜2023年1月29日(日) ▶ 愛知展 特設サイト ▶ 美術館Twitter:@toyotashibi |
混雑状況 | 平日夕方は、あまり混んでいませんでした。 |
所要時間 | 1時間半~2時間 |
チケット | 東京展:一般 2,200円(税込)※予約優先チケットあり 愛知展:一般 1,600円 |
ロッカー | あり(無料) |
音声ガイド | 会場レンタル:600円(税込・現金のみ) アプリ版:610円(税込)イヤホン持参 俳優・鈴木京香さん |
撮影スポット | 一部の作品をのぞき、会場内での撮影可 |
グッズ | 種類はそれほど多くないかも |
※お出掛け前に美術館公式サイトをご確認ください
※開催地に指定がないものはすべて東京展の情報です
おまけ : 常設展の新収蔵 ピエール・ボナール
東京国立近代美術館では、「ゲルハルト・リヒター展」のチケットで「常設展」も鑑賞できます。
リヒター展の期間中は、東京国立近代美術館に昨年度新たに収蔵された ピエール・ボナールの絵画作品《プロヴァンス風景》(1932年)が初めてお披露目されているので是非行きたいところ。
私は時間が足りず、常設展までは観られませんでした。
次の機会に行けたらなと思っています。
ちなみにピエール・ボナールは、以前、三菱一号館美術館でやっていた「画家が見たこども展」からファンになりました。
ナビ派の絵画はほんとかわいいです。
●
●
●
▼ 1月29日まで 三菱一号館美術館の「ヴァロットン ― 黒と白展」が開催中。
センス抜群のモノクロの世界が、めちゃくちゃ良かったです。
▼ 2月5日まで、アーディソン美術館で「パリ・オペラ座-芸術の殿堂」が開催。
バレエとオペラと音楽と…芸術の原点ともいえるオペラ座の350年以上の歴史に一度にふれることができます。
常設展示もとっても良かったので、どちらの感想も書きました。
▼ 1月22日まで、東京国立西洋美術館で「ピカソとその時代展」が開催。
ピカソ、パウル・クレーなどキュビズムの画家たちの作品が集結しています。
個人的には2022年でいちばん楽しかった展覧会かもしれません。
2月からは大阪に巡回予定です。
▼ 12月からは大阪で「特別展アリス」が開催。
ご家族、お友達、デートで行っても楽しめる、アリスの世界を満遍なく満喫できる展覧会になっています。
▼ 「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」も楽しかったな。
絵画に隠されていた秘密が解明されていく浪漫が味わえます。
▼ 2022年は「メトロポリタン美術館展」でもフェルメールが展示され、同じ年に2つもフェルメール作品に出会うことができました。
▼ 現存画家の展覧会を観たのは久しぶりでした。前回見たのは2020年に同じく東京国立近代美術館で開催された「ピーター・ドイグ展」です。
▼Twitterでは、気ままに美術や読書についてつぶやいていますのでよかったら見てください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事が良かったと思った方は、クリックいただけると励みになります。
コメント