7月某日、三菱一号館美術館の
「“カフェ”に集う芸術家 ― 印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」に行ってきました。

過去に観たことがある作品が多そうだったので当初はスルーしようかなと思っていたのですが、チラシにいるこの赤い服の女性の絵がどうしても気になり…!
近頃は仕事に対するモチベーションも底をつきかけていたし、やっぱり行くか!と突発的に足を運ぶことにしました。

梅雨が終わり、本格的な蒸し暑い夏に突入。
東京駅からちょっと歩くだけで汗だくになりましたが、この季節だけの冷たいミストを浴びてすこしクールダウン。

美術館前の花壇から、バラたちが優しく迎えてくれました。
| この記事は美術展で個人的に好きになった作品の画像と共に、会場解説・音声ガイド・図録なども参考にしながら、勉強日記のような感覚で感想を書いたものです。 ネタバレを避けてグッズなどの展覧会情報だけを知りたい方は「“カフェ”に集う芸術家 情報」までジャンプしてください。 |
「“カフェ”に集う芸術家」 感想
芸術が溶け込む、新しいパリ
そこでは意見が絶えずぶつかり合い、精神は常に刺激されました。
私たちは利害から離れた誠実な探求へと励まされ、そこで得た熱意は幾週間にもわたって私たちを支え、一つの考えが明確な形をとるまで続いたのです。
そこを出るたびに、私たちは意思をより強くし、思考をさらに澄みわたらせていました。
― クロード・モネ
本展のテーマである"カフェ"は、飲食にとどまらず、キャバレーや劇場を含む、歌、演奏、歌劇、絵画、詩など様々な芸術活動が行われた広い意味での"カフェ"を指します。
19世紀半ば以降、再開発によって大きな変化をみせたパリの街では、マネや、のちに印象派と呼ばれることになる芸術家たちがカフェに集い、芸術の議論に花を咲かせていました。
近代化したパリの街並みとそこで生きる人々、活気あふれた都市の風景に彼ら芸術家たちの目が向けられたことは、古くから根付く歴史や宗教画を主とするアカデミックな様式からの脱却であり、新しい芸術の始まりでもありました。
カミーユ・ピサロ《ポン=ヌフ》1902 油彩,カンヴァス ひろしま美術館
例えば、カミーユ・ピサロの《ボン=ヌフ》では、美しく整備された大通りと行き交う人々、活気に満ちた街の気配が描かれました。
踊り子の絵画で有名なエドガー・ドガもまた、カフェに集っていた芸術家のひとりでした。
印象派のなかでも人物に重きを置いていたドガは、〈カフェ・ゲルボワ〉でマネやモネ、ルノワールらと交流しながら近代的な主題への関心を深め、生涯にわたって踊り子のモチーフを探求し続けたそうです。
エドガー・ドガ《馬上の散策》1867-68 油彩,カンヴァス ひろしま美術館
本展ではドガの踊り子の作品はもちろんのこと、《馬上の散策》 のような、のどかな日常風景が描かれた作品も印象的でした。
一方、踊り子の絵画では、ジャン=ルイ・フォランの《舞台裏―青のシンフォニー》がとても美しかったです。
ジャン=ルイ・フォラン《舞台裏─青のシンフォニー》1900-23頃 油彩,板 公益財団法人大原芸術財団 大原美術館
ドガから強く影響を受けている本作。
私も踊りをかじっていたことがあるので、舞台裏の青白い光を横目に出番を待っていた、あの頃の光景を思い出すようでした。
臨場感あふれた、しかしどこか幻想的な雰囲気を纏った青色の画面がすっごく綺麗でした。
2つの〈ムーラン〉とポスター芸術
本展における"カフェ"のテーマで真っ先に思いつくのは、モンマルトルにある〈ムーラン・ド・ラ・ギャレット〉と〈ムーラン・ルージュ〉でしょう。
どちらも「風車(moulin)」の名を冠すカフェであり、ピサロ、ルノワール、ドガ、ロートレック、モディリアーニ、ゴッホ、ユトリロなど多くの芸術家が訪れています。
モンマルトルの丘に建つ〈ムーラン・ド・ラ・ギャレット〉は、元々は粉挽きのための風車でしたが、屋外のダンスホールとして発展しました。
フィンセント・ファン・ゴッホ《モンマルトルの風車》1886 油彩,カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館
ムーラン・ド・ラ・ギャレットの景観は多くの画家によって描かれているのですが、なかでも私が好きなゴッホの《モンマルトルの風車》とユトリロの《ムーラン・ド・ラ・ガレット》の2つともが、一度に観られたのは嬉しかったですね。
モーリス・ユトリロ《ムーラン・ド・ラ・ガレット》1910頃 油彩,厚紙 ポーラ美術館
一方、〈ムーラン・ルージュ〉は赤い風車のオブジェが目印のキャバレーです。
当時のキャバレーやカフェは男女にとって出会いの場としても機能しており、シャルル・コッテの《ムーラン・ルージュの女たち》に観られるように、女性たちは羽帽子やパフスリーブなど当時の流行の衣装を身に纏いました。
シャルル・コッテ《ムーラン・ルージュの女たち》1892 油彩,カルトン 国立西洋美術館
また、この頃発展したのがポスター芸術です。
ムーラン・ルージュのようなショービジネスの店にとって、客を呼び込むための重要なアイテムがポスターでした。
カフェやキャバレーは競いあうように華やかなポスターを貼り出したそうです。
特に人気だったのが ジュール・シュレのポスターでした。
まだまだ大変な手間がかかっていたリトグラフ技法を簡素化し、赤・黄・青の3色のみを重ね合わせて様々な色を表現することに成功したシュレの元には、彼の色彩あふれるポスターを求めて依頼が殺到したそうです。
ジュール・シェレ「カミーユ・ステファニー公演」カジノ・ド・パリ 1894/「1894年度謝肉祭第2回仮面舞踏会」オペラ劇場 1893 リトグラフ 京都工芸繊維大学美術工芸資料館
ルイ・アンクタンの「マルグリット・デュフェ公演」のポスターもインパクト大でしたね。
力強い生演奏を聴かせてくれそうなパワフルなイラストは、二度見せずにはいられないものがありました。
ルイ・アンクタン「マルグリット・デュフェ公演」1891頃 リトグラフ 京都工芸繊維大学美術工芸資料館
ポスター芸術といえば、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの存在を忘れるわけにはいきません。
〈ムーラン・ルージュ〉からポスター制作の依頼を受けたロートレックは、ショーに出演するスターたちを個性あふれる印象的なタッチで表現しました。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「メイ・ミルトン」1895 リトグラフ 三菱一号館美術館
とくに本展ならではの演出だったのが、ロートレックとピカソを横並びで観られたところ!
同じ「カンカン」の踊り子のモチーフですが、ロートレックが斜めのラインを強調した構図で魅せる作品なのに対して、ピカソは描き跡をわざと残した凹凸あるタッチによって踊りの動き自体を強調するような作品となっていて、2つを一覧して比べられたのは貴重な体験でした。
パブロ・ピカソ《カンカン》1900 パステル,紙 ひろしま美術館
冷静な視線で眺める"カフェ"
人々の喧騒から離れて、冷静な視点で"カフェ"を描いた画家たちがいました。
サンディアゴ・ルシニョルとラモン・サガスです。
彼らはどちらも新聞『ヴァンガルディア』紙の特派員としてパリに渡り、「風車だより」と題する連載を寄稿するなど、カフェとは距離を保って観察対象として捉えていたようです。
サンティアゴ・ルシニョル《カフェ・デ・ザンコエラン》1889-90 油彩,カンヴァス ムンサラット美術館(J. Sala Ardiz寄贈)
サンディゴ・ルシニョルの《カフェ・デ・ザンコエラン》は当時のカフェの雰囲気を表しています。
この場所は実在したカフェではなく、当時のカフェを再構築した架空の空間が描かれています。
ルシニョルの友人たちを群衆のなかに登場させる作者の"遊び"が施されていて、まるで風刺画のような、シニカルな笑いを効かせた楽しい作品だと思いました。

ラモン・カザス《マドレーヌ》1892 油彩,カンヴァス ムンサラット美術館(J. Sala Ardiz寄贈)
本展のチラシにもなっている作品 ラモン・カザスの《マドレーヌ》は、本展のなかで個人的にいちばんお気に入りの作品です。
描かれているのは、本名をルイーズ・オルタンス・ボワギョームという、モンマルトルの〈ムーラン・ド・ラ・ギャレット〉に出入りしていた実在の人物だそうです。
「カフェで一人、酒と煙草を嗜む女性」の描写は、春を売る女性を想起させるともとれる主題だそうです。
目元の隈が印象的なですが、このじとっとした不穏な視線の先には何が、あるいは誰がいるのか…。
カフェの華やかな喧騒の陰に隠れた、陰の部分を表すようでした。
パブロ・ピカソ《酒場の二人の女》1902 油彩,カンヴァス ひろしま美術館
また、ピカソの《酒場の二人の女》も《マドレーヌ》と似た雰囲気を共有する作品です。
本作はピカソの「青の時代」に属する代表作で、青白く照らされた女性の背骨の曲線が、こちらからは見えない表情を物語っているかのよう。
ほの暗い淀んだ空気感を静かに漂わせている、目を惹く作品でした。
余談ですが、本展を観終わって、『ミッドナイト・イン・パリ』という映画を思い出しました。

2011年のアメリカ映画で、現代の小説家を目指す主人公がお酒に酔ってパリの街をうろついていると、いつの間にか過去(1920年代や1890年代)の、まさに本展に出てくるような"カフェ"に飛ばされて、そこでフィッツジェラルドや、ダリ、ヘミングウェイなど、たくさんの芸術家たちと交流していく映画です。
お盆休みに見直そうかな。
本展で語られた"カフェ"は、昼の世界と夜の世界が交差する特別な場所。
華やかで、賑やかで、危うさが潜む刺激的な場所だったこそ、あらゆる芸術家たちの琴線に触れ、芸術の花が咲き誇った舞台だったのかなと思いました。
とても楽しかったです。
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「“カフェ”に集う芸術家」情報
グッズ

本展のグッズのラインナップはそこそこといった感じです。
私はポストカードとお菓子を買ってきまして、合計 2,638円でした。
ミュージアムショップは展示会場の外にありますが、鑑賞時にお財布を持って入った方が順路的に効率が良いかと思います。
ポストカード

本展では作品の写真撮影OKだったので、ポストカードはお気に入りのものを少なめに。
この時代の作品はみんなおしゃれだなあ。
ポストカードは1枚 187円(税込)でした。
ジェラティナ デ フルータス(コラボお菓子)

これはスペイン王室御用達のチョコレートブランド CACAO SAMPAKA(カカオサンパカ)と三菱一号館美術館のコラボお菓子です。
ミュージアムショップで買えまして、カカオサンパカのショッパーがもらえます。

中身はパッケージの《マドレーヌ》にぴったりの色合いのゼリー菓子で、ランボワーズとオレンジ2つの味が入っていました。
持ち帰る間に少し溶けてしまったのですが、甘酸っぱくて濃厚でとても美味しかったです。
ゼリー菓子って子どもの頃はあまり好きじゃなかったけど、大人になっていつの間にか好きなっていたなあ。
フル―タスは 1,890円(税込)でした。

ちなみに、カカオサンパカ丸の内本店は美術館のすぐ裏、徒歩5分もかからない所にあります。
お店では本展とコラボのソフトクリーム(税込650円)が食べられるらしいです。
店内にイートインスペースもありますが、座席数は少なめ。
私が行ったときは丸の内のマダムたちがお茶してまして、さすがに外でソフトクリームを食べるには暑すぎたので諦めました。

三菱一号館美術館のチケット窓口にて、コラボソフトクリームに巻いてあるスリーブを提示すると、チケットが100円引きになります。
逆に、美術館のチケットを持ってカカオサンパカで買い物すると商品が10%OFFになるらしいので、興味のある方は是非覗いてみてください。
混雑状況
7月中旬の平日昼過ぎに行きまして、ゆったり鑑賞できました。
写真撮影可の作品
展示作品のほぼすべてが撮影OKでした。
パブロ・ピカソ《ロマの女》だけは撮影OKでしたが「SNS禁止」の制約がありました。
ちなみに、作品だけでなく、会場のちょっとした工夫が可愛いのです。

〈シャ・ノワール(Le Chat Noir: 黒猫)〉という芸術キャバレーが紹介される第3章の看板がこんな風になっていたり。

会場内には黒猫ちゃんも。
全部で何匹いるか、数えておくと良いことがあるかもしれません。
所要時間
鑑賞時間は1時間半弱でした。
解説をざっと読みつつ進み、過去に何度も観たことのある作品はさらっと通過してこのくらいです。
チケット
窓口、オンラインどちらも、一般 2,300円(税込)です。
私は当日突発的に行くことにしたのでチケット窓口から買いましたが、混んでいませんでした。
どなたかのXで得た情報なのですが、オンラインチケットのQRコードを窓口で見せると絵柄チケットの半券が貰えるそうです。
ロッカー
三菱一号館美術館ではロッカーを利用できます。
ロッカーは無料の鍵式で 100円玉「不要」です。
音声ガイド
本展に音声ガイドはありません
巡回情報
本展は東京展のあと、広島へ巡回予定です。
小企画展「モネとルドン」

久々にルドンの絵が観たくなったので、本展と同じくらい小企画展も楽しみでした。
観たことがある作品ばかりではありましたが、やはりとても好きでした…!
展覧会情報まとめ
お出かけ前に美術館公式サイトをご確認ください。
下記はすべて東京展の様子です。
展覧会名
“カフェ”に集う芸術家
― 印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで
東京会場
三菱一号館美術館[東京・丸の内]
会期
2026年6月13日(土)- 9月23日(水・祝)
開室時間
10:00 – 18:00
但し、祝日を除く金曜日、第2水曜日、9/19(土)~9/23(水・祝)は20時まで開館
※入館は閉館時間の30分前まで
※夜間開館時間(18~20時)限定で音楽による特別演出があるほか、少し大人向けの“カフェ”にまつわる裏話あり
休室日
祝日を除く月曜日
但し、トークフリーデー[8/31]は開館
混雑状況
ゆったり鑑賞できた
※7月中旬・平日昼間の様子
所要時間
1時間~1時間半
チケット
一般 2,300円 (税込)
音声ガイド
なし
ロッカー
無料/100円玉「不要」
グッズ
小規模なラインナップ
写真撮影
展示作品の撮影OK
ピカソ《ロマの女》だけは「SNS禁止」
巡回情報
ひろしま美術館
2026年10月3日(土)- 2027年1月11日(月・祝)
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美術展情報
開催中(2026.8.8現在)
● 大ゴッホ展 夜のカフェテラス
2026年8月12日(水)まで上野の森美術館で開催中。
激混みを乗り越えてでも、《夜のカフェテラス》には見る価値がある!

●ウジェーヌ・ブーダン展 ― 瞬間の美学、光の探求
SOMPO美術館で2026年6月21日(日) まで開催中。
その後、2027年3月22日(日) まで長野 ⇒ 山梨 ⇒ 群馬 ⇒ 京都を巡回予定。
モネに戸外制作を教えた"空の王者"ブーダンの大回顧展です。
海の絵はもちろんさすがなうえ、ブーダンの海以外の作品が見られたのは良かった。

●カール・ヴァルザー展
東京ステーションギャラリーで 2026年6月21日(日) まで開催中。
その後、9月27日(日) まで大阪中之島美術館へ巡回予定。
スイスで再評価が進んでいる画家カール・ヴァルザーの日本初の大回顧展です。。
可愛らしさと奇妙さがマッチした独特の作風が好きすぎた。

●アンドリュー・ワイエス展
東京都美術館で2026年7月5日(日) まで開催中。
その後、12月6日(日)まで愛知⇒大阪と巡回予定。
父と幼い甥を事故で亡くしたことをきっかけに抱いた「死生観」、すべては移り変わり、決して立ち止まってはくれないという「無常観」。
それらは窓や扉といった「境界」を暗示するモチーフとして表され、作品たちに漂う、切なくも暖かな空気が心に響きました。
むちゃくちゃ良かった!

過去に観た"カフェ"に集う芸術家たちの展覧会
● ゴッホ展
色が鮮やかで、厚塗りで、迫力があって、見ごたえがあって、独特で、綺麗。
ゴッホはいつ見ても良くなかったことがない。




● ロートレック展
いつまでも廃れないおしゃれなタッチが素敵な画家。



● ピカソ展
めちゃくちゃ絵がうまいのにめちゃくちゃな絵を描いてくる、アヴァンギャルドすぎる。

● ユトリロ、ルノワール、セザンヌ、ヴァロットン
ユトリロほどパリを可愛く描ける画家はいないと思ってる。
ヴァロットンも必要最低限の色と線でいつまでも廃れない絵を描くひと。



▼ 2020年から現在まで、観に行った美術展の感想はこちらにまとめています

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